29.レプタイルズ・キー ※
ポートレイト博物館の定期清掃はマイティ・クリーン・サービスが行なっている。
毎月十一日、閉館後の午後九時、今夜も定刻通りに彼らが現れた。
守衛のウィグワムは裏門を開けそのワゴン車を中に入れた。
運転席から降りた清掃業者の男は大柄で、制帽の下の黒縁眼鏡が光っていた。
ウィグワムは怪訝な顔で声をかけた。
「初めて見る顔だな。新人か?」
黒縁眼鏡はかしこまって答えた。
「はい、よろしくお願いしますぅ」と、ウィグワムの足元を指差す。
「あ、あなたの後ろにネズミが!」
「え?!」とひるんだその一瞬、ウィグワムは黒縁眼鏡の怪力で口を塞がれ、電撃銃を押し当てられた。
ワゴン車から残りの三人が降りる。
黒縁眼鏡の男――ルカはその守衛を肩に担ぎ、同じ作業着姿のリッチーとホウリンに合図を送った。
リッチーはジミーを見張りで残し、よろしく頼むと手を振った。
薄明かりの通路、もう一人の守衛が三人の行く手に立ちはだかったがホウリンが手早く撃退した。
そして守衛室に入り、気絶させた二人を椅子に縛りつけた。
ルカはモニターをチェックし、これまでの録画を消去した。
午後九時十五分。
張りつめた冷気が三人を包む。
リッチーとホウリンが暗視スコープを着け、ドアの前に立つ。
ルカがシステム端子に自作の解読デバイスを接続しプログラムをクラッキングする。
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暗証番号を探り当て、防犯システムが解除された。
リッチーとホウリンが暗闇を行く。
国王エルドランド一世の自画像、王冠、古代彫刻と絵画などを尻目に展示室の奥を目指した。
やがてたどり着く、ガラスケースに納められた〝レプタイルズ・キー〟の前。
リッチーとホウリンは顔を見合わせた。
鍵の後ろからは海賊キャプテン・キーティングの肖像画が見下ろしている。
それは蛇のように狡猾な目で。ホウリンが仰ぎ見て、
「ほう……たいそうな悪党ヅラだなぁ我らがキャプテンは」と言うと
「いや。これは酷すぎる。実際はとても優しい目をしていたという」とリッチーは返した。
急がなければ。
二人はバッグを下ろし、作業に取りかかった。
ガラス面に真空吸着ノブをあてがい、それを中心に誘導放出サークルカッターでガラスを切る。
青白い光が弧を描く。
厚さ十五ミリの特殊強化ガラスが鮮やかに切断される。
リッチーはノブを引き抜き、丸い穴から手を入れ鍵を掴んだ。
瞬間、鍵が青く眩い炎を上げた。
それは種族の遺恨か、烈士の怨嗟か――。
「うぐっ!」
しかし受け入れたリッチーは痛みに耐え、数秒後それは静かに手のひらに収まった。
一方、外で見張りのジミーはオブジェに隠れ門の外を見ていた。
その十五分ほどの間に、酔っぱらいの男一人と中年の男女が通り過ぎた。
そして次は一人の若者……そこでジミーは目を疑った。
そのウロつく様、堂々と背筋が張った、リーゼントにピンストライプのシャツ……それはどこからどう見ても、ジャックだった。
ジミーは思わず身をのり出した。
すると一台の車が現れ、門の前で停まった。
ジミーはまた身を隠し、急いでルカに無線で連絡を入れた。




