26.私も行く!
立ち並ぶ街灯がセピア色に舗道を照らしている。
その中をクリシアは重い自転車を押して歩いていた。
眉をひそめ口はへの字に不機嫌だ。
ハンカチで額の汗を拭き黒髪をかき上げ、キャミソールの背中をパタつかせた。
もう午後七時を過ぎてしまった。
ポールの店まであと少し。
交差点の歩行者信号の点滅に駆け出すクリシア。
その時、対向から一台の車が速度を上げて走ってきた。
信号が黄色から赤へ変わる寸前、車はクリシアの左側植樹の向こうをギュンッと通り過ぎた。
――あれ? あの車はとクリシアは振り返る。
するとその車もブレーキをかけ、十メートルほど先で急停止した。
「ポールさんの車だ……え? どうしたんだろう」
それは間違いなくポールの愛車、つるんとしたリアヴューの赤いフィアットだった。
すると「クリシア!」と助手席の窓からジャックがにょきっと顔を出した。
「お兄ちゃん!」クリシアは目を丸くする。
「どうしたの、どこへ行くのよぉ!」
ジャックは手招きして「お前こそこんな所でチンタラ……遅ぇんだよ! ……ちょっ、こっち来い、早く!」と怒鳴っては囁いて呼びつけた。
クリシアが自転車を置いて駆け寄り、車内を覗くとそこには――
「ポールさん……あれ? 誰……ってブリウス! 何してんの?」
運転席のブリウスはたじろぐ目で手を上げた。
「や、やあ、クリシア……遅いから心配してたよ」
「どーしてあなたが運転してるの? これはいったいどういうことよ!」
ジャックは身をのり出しクリシアの手を掴んだ。
「バカ! デケぇ声だすんじゃねえ、静かにしろ!」
「二人ともどこ行くのよ、信じらんない! 私ケーキ作ってきたのにぃ!」
「みんなもう帰ったよ」
「えーーっ!」
「いいか、よく聞けよ。俺たちは今から仕事に行くんだ。とっても大事な仕事だ、だからお前はおとなしく帰れ。あ、ポールさんのとこでもいい、だが俺たちのことは内緒だぞ。会ったこと話すな、な? 必ず帰ってくるから、いいか? わかったな?」
険しい表情でジャックが言う。
クリシアは困惑した。
「自転車がパンクしちゃったの! だから私遅くなったの。もう歩けない、疲れちゃった」
そう言ってクリシアは鼻をすすった。
「そんなこと言われたってよぉ……お前は帰るしかねえんだ」
しばしの沈黙。やがて彼女は上目づかいで言った。
「……私も行く。連れてってよ」
「はあ?」
「ねえ! いいでしょ? 仕事だったら、私も手伝うから、ね?」
「バカ言うな!」クリシアは彼氏の方に目を。
「ブリウスいいよね? 私も」
「う、うーーん……」
「こら、冗談じゃねえ! 手伝いなんかいい」
「私だけ仲間はずれ? ずるいわよそんなのォ!」
ジャックの隣りでブリウスが袖を引っ張った。
「……ねえ、ジャック。クリシアも一緒に。いいんじゃない?」
「ええっ?」
「一緒じゃなきゃ、やっぱ運転しないよ俺。帰る」
「ぎょええー! それマジ? ちょっ」
ブリウスはドアを開け車を降りようとする。
クリシアがにんまり兄貴にすり寄った。
「ほら。お兄ちゃん。どう?」
「……」
「じゃ、ブリウス帰ろ。お兄ちゃんおいて」
ジャックは頭を掻きむしって喚いて降参した。
「だぁーーっ! しゃあないっ、わかった、じゃああ乗れっ!」




