24.Porcorossoにて
冒頭、もてなしの豪華料理はサトミ☆ン様の監修です。あぁ美味しそう…。
ジェノベーゼ、マルゲリータ、ペパロニと黒オリーブ、三種類のピッツァがテーブルに並ぶ。
次にシーザーサラダとトマトとモッツァレラのカプレーゼ。
鴨のロースのプロシュートとモルタデラ。
パスタはムール貝のペスカトーレ。
大皿のトマトソースはポール秘伝の味だ。
ポールの豪勢なもてなしに一同は鼻をひくひくさせ、万歳してはしゃいだ。
壁にかかった〝虹の絵画〟に見入っていたリッチーが微笑みながら席に座る。
テーブルを囲むソウルズの四人とジャックそしてブリウス。
揃ってあらためて乾杯し、ルカはブリウスの肩に腕を回した。
「半年ぶりだなブリウス。学校は楽しいか?」
ブリウスもルカの隆々とした背中に精いっぱい腕を伸ばし嬉しそうに答える。
「まあね。バスケは、楽しい」
「そっか。勉強の遅れは?」
「大丈夫、ジャックとクリシアも教えてくれるし。おじさんは何してたの?」
「あ? ああ、最近は機械いじってた」
「ふーん」
「ポールにはもう慣れたろ。飯もうまいしな」
「うん、そこ満点。ポールさん面白いし大酒飲みでよく笑って、おじさんとよく似てるからすぐに慣れたよ」
「ああ? あいつと俺が?」
「そうさ。体デカいとこ冗談よく言うとこ」
「ポールのはオヤジギャグ。俺のはもっとインテリジェンスだ」
すると厨房からポールの突っ込みが入る。
「ルカ! だーれがオヤジだ! ……というヤジだ!」
「うわ、つまんね〜。それよりポール、ビールのおかわり。つまみもね」
「つまみね〜。何にもねー」
「うっわ、ケチ!」
「ケチ言うな。そっちがつまんね〜言うからこっちもつまみね〜ってな。もうそこいら辺のケチャップでも吸っとけ」
「お前はほんとケチや! っっ ぷぅ!」
「ぷぅ! とか言ってかわい子ぶっても全然かわいくねえし面白くもねえんだよ、オッサン!」
「オッサンだとぉ!」
「だろうがよ、てめえも俺にオヤジだって!」
「ほら、そのアンチョビをあ〜ん、ちょびっと食わせてくれりゃあいいんだ!」
「何だそのあ〜んて。キモいんだよ! あ〜んなコッタ、やなコッタ」
このこの、やるかこのやろと揉み合う巨漢二人に皆、
「……同レベルやん」「まじ似てる」と呆れ返った。
笑う皆にルカとポールはペロリと舌を出し、いっしょになってガハハと笑った。
ジャックは誕生日プレゼントのピンストライプシャツにサングラス姿で陽気に振る舞っている。
だが何度か右の拳をさすっているのをリッチーは見逃さなかった。
「痛むのか?」
ジャックははっと背を正し、座り直してサングラスを髪までずり上げサムズアップで答えた。
「うん。あの爺ちゃんの骨張った手のひら、硬くて……ちょっとひりひりするけど、もう大丈夫」
事のいきさつを聴き、リッチーは相変わらずの一本気な勇ましいジャックに笑みをこぼした。
「全部我慢しろとは……俺もお前の歳の頃は暴れたから言えんが、ただもっと利口に動け。いいな?」
「うん。わかったよ」
ブリウスはこそこそとルカの耳元に。
「久しぶりじゃない? ソウルズそろうの」
「……まあな」
「何かあるの?」
「べーつに〜。たまたまみんな都合ついたんだよ」
隣りのジミーが相槌を打ち、言う。
「来月はブリウスお前の誕生日だ。なぁルカ、こうやってまた集まろうぜ」
それにうんうん頷くルカおじさんを見ながらブリウスはパスタを頬張った。
「おじさんたちもここに住めばいいのに」
「ええ?」
「もう泥棒なんかやめてさ。みんなでここに住むんだよ」
ルカとジミーは顔を見合わせ苦笑いで頭を掻いた。
リッチーたちより先に店内にいた親子連れ二人と一人の老婆が勘定を済ませ店から出ていった。
しばらくして若い男女のカップルが入ってくる。
その男の視線が一瞬、奥の彼らのテーブルに投げられた。
それをリッチーは見逃さなかった。
壁に掛かった時計を見て、リッチーはジャックに訊ねた。
「……クリシアは?」
ホウリンに煙草を一本拝借しながらジャックは答えた。
「ああ、ケーキ作るって。(午後)七時には持ってくるって言ってた」
「そうか。じゃ、今日は会えんか」
「……え? どうして?」
「いや。俺たちそろそろ行かなきゃならん」
ジャックは飛び上がった。
「え?! まさか……」
ホウリンがすかさず身をのり出し、ジッポーの火を差し出す。
ボワッ! っといきなりの火力に回避するジャック。
「あ、熱っ! ち、近すぎるよホウリンさん!」
「お前が急に飛び上がるからだ! すまん、聞け、お前が望んでることはわかる。だが、堪えるんだ」
ホウリンは言い、ほら見ろという顔でリッチーを窺った。
リッチーは立ち上がり背を向けた。
ジャックの見上げる目は真剣だった。
しかしリッチーは静かに息を吐いた。
「……ジャック。今までも言ってきたはずだ。俺たちは仲間。そう、ずっと友達だ。だが行き先は別。お前は表通りを歩くんだ」
しばしの沈黙。皆が見つめた。
ジャックは口を固く結び、それでも数回頷き、小さく返事をした。
「……わかりました」
そして次は顔を上げ、潤んだ瞳を明るく輝かせて笑顔を作った。
「わかってる。わかってるよ、OK! リッチー!」
リッチーは口元を緩めジャックの後ろ髪を優しく撫でた。
「よし。近いうちにまた会いに来る」
あとの三人、ルカとホウリン、ジミーも立ち上がりリッチーが財布を取り出した。
去り際にリッチーはカウンターの若い男女に一言伝えた。
「俺たちは友達のジャックに会いに来ただけだ。誕生日だったんでな。それだけだ。俺たちを見に来たんだろう? 警官のウィップスさんによろしく。ジャックには俺がついてると」
男はチッと舌打ちし、女はうつむいた。
リッチーはまたジャックに手を振り、今日という日を祝福した。
「ハッピーバースディ、ジャック」
煙草もハタチになってから。




