23.ポール・ロッソ ※
「あそこへ行ったらお前が声張り上げて……圧倒されて一瞬固まったよ」
リッチーはそう言ってジャックの肩をさすった。
ジャックはうつむいて歯を食いしばり、泣くのを堪えている。
レストランのレザーソファに横並びに座る二人。
リッチーは言う。
「もう思いきり泣いてしまえ。泣けばいい。傷ついた分、また強くなるはずだ」
赤く腫らした目でリッチーを見るジャック。
リッチーは優しく微笑み、こくりと頷いた。
「……ぅ、うう……うわああああん!!」
八月十一日。
とんだ十七歳の誕生日になってしまった。
イタリアンレストラン〝Porcorosso〟。
ジャックはそこで働いている。
大柄で気のいい主人はリッチーたちを歓迎し、ジャックに時間を与えた。
丸々とした体格で口髭が特徴の主人ポール・ロッソはソウルズ四人の来訪をいつも心から喜んだ。
恰幅のいい者同士のポールとルカは古くからの付き合いだった。
昔二人はイタリアの軍隊にいた無二の親友、同胞だ。
戦闘で負傷したポールが退役し、ルカも「お前がいないとつまらない」と言ってそれに続いた。
三年前ポールはここイーストリートに移り住み、店を開いた。
ルカはジャックの仕事の世話をポールに頼んだ。
そして連れのブリウスのことも、今は彼に頼んでいる。
ポールはジョッキにビールを注ぎ、高らかに掲げた。
「ハッピーバースディ! ジャック!」
いつしか涙も枯れ、笑顔に戻ったジャック。
「声がデカいよポールさん、ちょっと恥ずかしいから」
「ワッハッハ ! めでてぇ日じゃねえか、許せ許せ。さぁ飲め、ビール……じゃなくて」
ルカが既にジャックに渡している。
「お前ももうすっかり大人だな」とルカが誘う。
「うわあ、どんな? 苦いの? ビールって」と言ってジャックが皆を見回すと、ポールがワハハと豪快に「コイツいつも勝手に空けてるくせに」と笑ってジャックの肩をもみもみした。
「じゃ一杯だけな。はい、じゃぁお前にとって良き一年になりますようにハーイ、カンパーーイ!」
ポールは時に、ルカたちに憧れる。
――俺もお前たちのように自由に流れて生きていけたら。
そもそもしがらみが嫌で家を出て……俺はここまで来たんだがお前たちは違う。そう、とてもクールなんだ。
ソウルズの仲間としてリッチーさんよ、俺も仲間に呼んでくれないかなあ……そんな微かな思いを胸に、いつだって彼らを心からもてなした。
ポールは少しだけソウルズのことを知っている。
何故ルカがブリウスを預けたのか、その理由も理解している。
ルカはまだリッチーとの仕事を終えられない。まだしばらくは。
莫逆の友ルカはかつて戦地で敵国の飢餓を目の当たりにし、改心した。
決して口には出さない彼の使命感を、ポールはよく理解していた。
だから咎めないし他言もしない。
それがポールの誇りでもあった。
****
午後五時過ぎ。
ルカがそろそろ時間を気にし出した頃、店の扉が派手に開けられた。
飛び込むように入ってきたのは学校から帰ってきたブリウスだった。
「ルカおじさん!」
「おーう、元気そうだなブリウス! 背が伸びたな!」
お酒はハタチになってから。




