18.連れていって
リッチーの漁船FREEDOM号の上。
雪降る中、盗賊ソウルズの四人が宝箱〝海賊キャプテン・キーティングの財宝〟を囲んでいる。
冷えきった体をタオルで包み、ポットのコーヒーを啜るホウリン。
彼は目を丸くして語った。
「いやしかし驚いたよ。本当にいたんだ鯨が。それも白鯨。ありゃあモビーディック。きっとあいつのことなんだ」
リッチーが顔を拭きながら笑う。
「違う違う。エイハブ船長の足はなかったろう?」
「あ、ああ……あったら記念に持ち帰ってた」
「ハハッ。だが確かに、ただのマッコウクジラとは思えんな。あれは神の化身ではなかろうか」
ルカは顎をさすりながら感心している。
「この箱だけでも大した金になりそうだ」
ほぼ金属の塊ともいえる真四角の宝箱。
それは白鯨体内の空間で傷むことなく美しく、厳威にあふれている。
リッチーが言う。
「これは〝キーティング・チェスト〟とも呼ばれた」
ルカが返す。
「きっとベルザは、チェストは君にしか開けられないと言ったんだろう? 超一流の鍵師リッチー・ヘイワースにしか」
「ああ。……だがルカ。お前のバカヂカラの方があてになるかもしれん。フフフ」
これまで世界中ありとあらゆる金庫を破り、全ての錠を解いてきた鍵師リッチーはあらためてその腰ほどの高さのチェストの前に屈み、鍵穴を睨んだ。
そして一同を見回し、言った。
「解けるかどうか。とにかく約束を果たさなければ。先ずはこれをベルザのもとに運ぶ。まだ気は抜けないぞ」
FREEDOM号はゆっくりと港を目指す。
立ち上がったホウリンが目を細めて言った。
「おい。俺たちの車のとこに誰かいるぞ」
「ええ?」とジミーも隣に立つ。
「ん? 子供だ……」舵を取るルカが目を凝らした。
「ブリウス……か?」
リッチーは船首に寄り、その子の姿を確と認識した。
「……違う。あれは……ジャックだ」
ハーバーライトに照らされて、船乗り場に立ち尽くしている少年。
白いハーフコートを着たジャック。
彼が遠くから四人の方を見ていた。
眠ってしまったブリウスとクリシアを残し、何も言わずにアパートを飛び出してきたジャック。
力のこもった白い息が降りしきる雪を解かすほどに。
遠くからでもリッチーはジャックが泣いているのがわかった。
――どうしたっていうんだジャック……前のめりにリッチーは眉をひそめた。
ジャックは拳を握りしめ、目を赤く腫らして叫んだ。
「行かないで!! 僕も連れてってーーっ!!」
泣きじゃくりながらジャックは叫んだ。
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船から降りるリッチー。そしてジャックを抱きしめた。
「だめだ。連れてはいけない。クリシアもいるだろう? ……お前のパパも」
「だって、だって……帰ってこないもん!」
ジャックの頬に浮かぶ燃えるような悲しみ。
見つめるリッチーは煩悶し、その首すじをさすった。
「ああ、俺たちも捜す。見つけてみせる。だから泣くんじゃない。俺たちはまた来る。お前に会いに」
「僕も船乗りになる。リッチーさんと、みんなと、一緒にいたい!」
リッチーは迷ったが、これ以上嘘はつけないと思った。
「ジャック。聞いてくれ。本当のことを言う。俺たちは闇に生きてる。金銭を盗む悪党だ。犯罪者なんだ。そんな危険な俺たちの世界に、お前を引き込むことはできない」