16.クリスマス・パーティー
十二月二十四日午後六時。
ルカとブリウスがチェンバースアパートに着いた。
少し遅れてリッチーとジミーも。
階段を上がってゆくと、下からアパート管理人のマルコが呼び止めた。
「こんばんは。リッチーさん。少し話が……」
リッチーは手を上げ、皆に先に行くよう促した。
一階の片隅でマルコとリッチーは向き合う。
子供たちのはしゃぎ声が上から漏れてくる。
リッチーは微笑み、手にしている紙袋から二つ、取り出した。
「後で伺うつもりだった。メリークリスマス。子供たちに」と、彼はマルコにプレゼントを渡した。
思いがけないことにマルコはたじろいだ。
「あ……そんな、すまない。ありがとう」
「……で、話とは?」
マルコの顔が引き締まる。
「ベルザからの送金があった」
「何?」
「初めてのことじゃない。ジャックとクリシアのためにと、手紙も」
「……そうか」
「俺はまたジャックを学校に行かせようと思う。民生委員も黙っちゃいない。ジョージが帰ってくるまで、家で引き取る」
「赤ん坊もいるのに大変だとは思うが、そうしてくれ。頼む」
深く、リッチーは頭を下げた。
マルコはプレゼントを抱きしめながら申し訳なく言う。
「早くそうできなくて悪かったと思ってる。あいつが今にも帰ってくるんじゃないかと。そう。まだ諦めたわけじゃないんだ」
「うむ。明日、俺はベルザに会う。その後ジョージ君を捜しに行く」
****
百センチメートルの鉢植えのモミの木が床に慎ましく置かれた。
テーブルの上にはケーキ、ターキー、ジュースにシャンパン。
グラスを用意しながらクリシアがきょろきょろと見回す。
「ホウリンさんは?」
サンタの帽子を被ったリッチーが答える。
「あいつはひと仕事終えてから七時には来る。俺のケーキとっといてくれよなって」
メンバーから子供たちにプレゼントが手渡された。
手袋にセーター、マフラー、本にレコード、ミニカー、ぬいぐるみ……。
そしてジャックがリッチーからもらったのは真鍮の懐中時計。
裏には翼を広げた鷹と〝FREEDOM〟の文字が彫られている。
それはヘイワース家に伝わる宝物の一つだと聞き、ジャックは涙目になった。
リッチーはジャックを抱きしめ、背中を優しく叩いた。
「船の清掃、ありがとう。俺たちは気を許した仲間。親友だ。忘れないぞ」
食べてひと息ついた頃、ウクレレを爪弾きながらホウリン・サンタがやって来た。
ルカとジミーの滑稽なパントマイムにブリウスとクリシアは笑い転げた。
リッチーのマジックは鮮やかで、誰もそのトリックを見破れなかった。
別れはつらかったが仕方なかった。
これが最後じゃないとリッチーはジャックに告げ、部屋を後にした。
ライティングテーブルに飾ってあったジョージとクリスティーンの写真。
何も言わない子供たちが、リッチーは余計に切なかった。