15.イブ
【街のイルミネーションが日を追うごとに夢幻の光を増し 気分を高揚させてゆく
真の深い意味や慣習を問わない聖なる祭は人の想像を掻き立て 人の希望を呼び覚ます
澄んだ空に響き渡る鐘の音は平和の調べ
鏤められた鈴の音はときめきの光
降り注ぐ優しさはひとつふたつと隣人を紡いでゆく
祭りを祝うことで心は清められ希望の光はきっとその絆の中にこそ見出せるものと確かめるのだ
クリスマスは誰にでも優しく夢を与えてくれるだろう
人種や宗教などを越え あなたが『メリークリスマス』と言えば そこに必ず光が溢れ出す
その煌めきは慈悲深く 他者を包んでゆく】
「……その煌めきは平和への願い」
路地裏に立つリッチーはそう呟き、その壁の落書きから立ち去った。
買い物で賑わう路地を足早に、駐めていた車に乗り込んだ。
市の地域振興課はイルミネーションの最終点検のために数十名の電気工事業者を各担当箇所へ向かわせた。
ある者は駅へ、ある者は橋へある者は大聖堂へ……そしてある者は繁華街ヴァンサントスの地下へ。
人混みに紛れ、電気会社の作業服に帽子、腰に工具を携えた男――ホウリンは一人、マンホールの蓋を開けた。そして、
「つがる娘は〜ないたとさ〜、つらい別れをないたとさ〜、リンゴ〜のぉ〜花びらがぁ〜〜、風にぃ〜……」
と鼻唄混じりに地下へ降りていった。
プレゼントを詰め込んだ紙袋を両手に、ジミーは店を出た。
もう待たせてるかもしれないと、彼はリッチーのもとへ急いだ。
雑踏を抜け角を曲がると警官に出くわした。
体格のいい警官と、その隣には生成りのスーツを着たアッシュブロンドの長髪の男がいた。
ジミーが「メリークリスマス」と言うと警官は顔をしかめ、スーツの男は無視した。
「すみません、急いでいたもので……」
ジミーはそう言って頭を掻き、走り去った。
警官は無視したが、スーツの男はそのジミーの後ろ姿を目で追い、言った。
「あれは元ボクサーのジミー・リックスだ」
ルカは車の中でブリウスに言った。
「明日、イブの夕方はパーティだが夜は仕事だ。お前はジャックとクリシアの家にいろ。明け方までには迎えに行く」
「今度は何盗むの?」
「ち、違う違う、盗むんじゃない。譲り受け、解放するんだ。俺たちはキャプテンに選ばれたんだ」
「……リッチーさんのこと?」
「〝キャプテン・キーティング〟さ。知らないか?」
「あ、知ってる! 海賊の絵本に出てくる大悪党だ!」
「…………」
ジャックは嫌だった。明日でリッチーたちとお別れなんて。
ブリウスとも知り合えたのに。
ずっと一緒にいて欲しかった。もし許されるのなら。
陽が沈み、粉雪が舞い散る。
ジャックにとってはただ切ないだけの十二月二十四日、イブ。