14.チェイン・ギャングス ※
リッチーの言う〝ベルザ〟とは地下組織ソサエティの指導者。
ベルザとリッチーたち四人のグループ〝ソウルズ〟はキーティングの財宝の件で今、密接に繋がっている。
マルコは堅気だが、ジョージを介してベルザという人物を知っている。よく知っている。
「ベルザは、マルコ君も私の友人だと言っていた。彼と君との関わりを俺は詮索しない」と言ってリッチーはコーヒーを飲み干した。
「とにかく俺もジョージ君の行方を追っている。君は彼と最も親しいのだろう? 語って聞かせてくれないか。彼のことを」
マルコは頷き、開いていた口を引きしめ話し始めた。
「……ああ。ジョージはいいやつさ。孤児院で育った。だから寂しがり屋な分、人の寂しさも人一倍理解できる男。ユーモアもある。心根の優しい、いい父親だ」
マルコはぎゅっと拳を握りしめる。
「そんなあいつが……こんな、子供たちを置いて消えるはずがないんだ。俺は、これは事件だと感じている」
「……やはりそう思うか。わかった。もっと他には? 生い立ちや昔話でいいんだ」
「うむ」
コーヒーを口に含み、落ち着いて語り出すマルコ。
「……俺があいつと知り合ったのは十五の時。お互いやんちゃだった。俺の家も貧しく親に見捨てられてた。反抗的な目で世の中を睨んでた」
マルコは壁の写真に目を。暖炉にも。
「だが俺たちの武器はナイフじゃなかった。それは音楽。そう、俺たちはバンド仲間でもあった。ジョージがギターで俺がドラム」
暖炉の上に飾ってあるスティックに、リッチーは納得した。
「学校を卒業してアルバイトをしながら初めて組んだバンドでいろんな街に行った。アナザーサイドにプリテンディア、ブリンギングス……」
リッチーは頷きながら聞いている。
「ある時ネイバーフッドってライブハウスで俺たちは一人の女性歌手に出会った。それが俺たちの転機だった」
マルコの声が弾んでくる。
「彼女の名前は〝クリスティーン〟。彼女は一人、アコギとハーモニカで唄ってた。声が綺麗で素晴らしくてな、俺たちはつい声をかけたんだ。一緒にやりたくなって」
「……ほう。それで」
「何度も通いつめ声をかけて、ジョージの熱さに根負けしたのか、彼女は承諾してくれた。そして〝チェイン・ギャングス〟って名のってライブハウスを何十箇所も。客の支持も集めたよ。本当楽しかった。だがそのうちジョージとクリスティーンが違う方向へ行った……」
「違う方向?」
「二人は……できちまった。恋に落ちたんだ。本当は最初からな、わかっていたんだ。きっとそうなるって。……で、やがてバンドも休止。というか終わっちまった。……祝福したさ。親友が結婚したんだ。そして二人の間に生まれたのがクリシア。そりゃあ可愛くて。今では声もクリスティーンに似てきてる」
待て、と手のひらでリッチーが制した。
「ジャックは? そこにジャックは?」
マルコははっとした。
泣き出した赤ん坊をジェーンが抱き上げ、外にあやしに行った。
リッチーに気を許したマルコがその饒舌を悔いた。
「……しまった。俺は余計なことまで」
「ジャックは、二人の子ではない。ということか?」
間をおいてマルコは小さく頷いた。
「じゃあ、ジャックの実の親は? いったいどんな事情が」
リッチーは抑えられず踏み込んで訊いてしまう。
マルコはただ知っていることだけを答えた。
「……ベルザ。彼がジョージにジャックを預けた。あの子がまだ三歳の頃……」
リッチーは言葉を失った。
リッチーは思い浮かべる。ベルザはリッチーにこう話していた……。
「実は私たちもジョージ・パインドを捜索している。ジョージは私の友人だ」
「彼はあんたの組織ソサエティと関わりが?」
「メンバーではなかったが協力者だ。それ以上のことは、いずれ話すことになるかもしれない……」
それ以上のことを、リッチーは今知ることとなった。