10.勇ましき少年
ブリウス少年はその日一人で町中をぷらぷら歩いていた。
ビタン橋を越え、スキャルファ大聖堂の横を通り、ウェインバーグ公園の売店でフランクフルトを買い、鳩を追い、スキップしながらまたヴァンサントスにあるオモチャ屋さんへ向かった。
午後四時。フランクフルトで口の周りをテカらせたブリウスはショーウィンドウに飾ってある赤いビュイック・スーパーのミニカーに目を奪われた。
「うっわーー! カッコイイーー!」
そのままかなり集中して見つめていたが、ふと背後を通り過ぎる女の子に目が行った。
その子は泣いていた。
綺麗なはずの艶のある黒髪をくしゃくしゃにしてずっとうつむいて。
ブリウスはやけに気になった。
それからすぐ、向こうから男の子が三人走ってやってきた。
「おい待てよ! 逃げんなよ! 花壇の花踏みつぶしたの俺たちだって、先生にチクったのお前だろ、知ってんだぞ!」
何やらうるさい雰囲気だ。
「答えろよ!」
「ちがうもん! 私じゃないもん!」
「うそ言え! お前ぐらいしかいないんだ!」
走って逃げようとする女の子を悪ガキ三人が囲む。
「正直に言え!」
「何よイジメっ子! お兄ちゃんに言いつけるから!」
「ほーら、そうやって先生にも、だろ? こいつ!」
一人が彼女の肩を小突いた。
ゴリラのような親分が声を荒らげ言った。
「へん! 知ってんだぞ、お前の兄ちゃん学校行けなくて働いてんだろ! 父ちゃん逃げたのはお前の兄ちゃんが不良だからだって、警官のパパが言ってたぞぉ!」
子分の二人も調子づく。
「その妹もぜったい不良だ!」
「お前らなんかどっか行け!」
三人の下衆な言葉に彼女はついに声を出して泣き出した。
ブリウスは我慢できなかった。
気がついた時には子分の一人を突き飛ばしていた。
「痛ぇ!」「誰だお前?!」
女の子をスッと背にし、三人を睨みつけるブリウス。
「お前たち卑怯だぞ! よってたかってこの子を、女の子をいじめるなんて!」
「てめぇカッコつけんな!」
子分が飛びかかってきた。
その拳を払い除け、ブリウスの蹴りがそいつの脛に決まった。
もう一人が上から襲いかかると今度はボディブロー!
ジミー直伝の必殺パンチが炸裂。
ブリウスは歯をむき出し、「俺を怒らせるな!」と吠えた。
その気迫にゴツい親分は怖気づいた。
「う、うぅ……パパに言いつけてやる」と言って親分は一目散に逃げ去っていった。
残された二人も「覚えてろ!」とその場を立ち去った。
「ああ、いつでも来い! 相手になってやる!」
中指を突っ立て、ブリウスは言ってやった。
そして後ろを振り返る。
女の子はまだ泣いていた。
ブリウスはダウンジャケットを脱ぎ、彼女の肩に。
「……泣くなよ。もう大丈夫だって」
「……うん……ありがとう」
「あんなヤツら、一人じゃなんにもできないんだ。あんなの見ると、俺……絶対許せないんだ」




