36 元社畜と少年-15
鑑定者さんの視線は彼の手元に注がれている。わたしを見ているようで、見ていない。
……あの感じ、何か変なものでも見つけたのかな。
鑑定者さんがどのくらいの鑑定魔法を使いこなしていて、どれだけの情報量を鑑定できるのかは知らないけど、こうやって役所に勤めているくらいなら、わたしみたいに、名前や産地、経過時間くらいしか分からない、ってことはないと思うけど……。
――……ん? 産地?
「あっ、あの、何か問題ありましたか?」
わたしは慌てて彼に聞く。
人の出身地も、物の産地とそう変わらないだろう。もしかしたら、わたしが異世界出身だという情報を読み取られてしまったのかもしれない。
うわ、やらかした。
わたし自身、人に鑑定魔法をかけたことがなかったから、物の産地が人の出身地に相当することに気が付かなかった。
結局は鑑定店を開くならここに来なきゃいけないわけだから、最終的には結果は同じだったのかもしれないけど、言い訳とか、心構えとか、そういう準備をしておきたかった。
「――……いえ、何も問題はありませんよ」
固まっていた鑑定者さんが、業務を再開した。ちょっとだけ、笑顔が作り物っぽく見えるのは、鑑定者さんが無理に笑っているのか、それともわたしが出身地がバレたかもという緊張でそう感じてしまっているのかは分からない。
「鑑定魔法の方はやや練度が低めではありますが、鑑定書を発行するのには問題ありません。鑑定書発行許可書と発行印を後ほどお渡ししますので、もう一度先ほどの場所に戻ってお待ちください」
絶対に鑑定魔法の有無以外に情報を読み取っただろうに、鑑定者さんは何も言ってこない。
読み取ってしまう可能性はあるけど、絶対に口外はしない、という説明を受けているけど……。
本当に大丈夫かな……。
「それでは、お疲れ様でした。――……何かお困りごとがあれば、またここへ。役場は、この地に住む人のための場所ですから」
そう言って、鑑定者さんは、懐から紙を取り出し、わたしに差し出してくれた。
名刺っぽいな、と思って受け取り、鑑定にかけてみると、案の定、彼の名前と所属らしき文字を読み取ることができた。
……あー、これ、完全にわたしがこの世界の人間であることがバレたな。名刺を渡してきたのは、何かあれば自分に、ということなのだろう。
「……分かり、ました……」
……まあ、でも、この反応なら、とっつかまえられて実験台、みたいなコースはないのかな……? 捕まえられてしまうなら、ここから出られないようにするとか、逆にあとで捕まえられるように、警戒されないように努めるはず。どっちにしろ、わざわざ名刺なんて渡してこないだろう。
大丈夫、だよね……? と不安になりながらも、わたしは個室を後にするのだった。




