34 元社畜と少年-13
なんだか普通に店が開けそうな流れだぞ……。
でも、わたしが気にしてる、一番の問題はそこじゃない。
「ちなみに、ギルドの下請けをしてくれるなら、普通にここの食堂も使えるぞ。今と変わらない金額でな」
「……成程」
あぁ~、どんどん外堀が埋められていく~。わたしが一番気にしている部分以外で困っていたところが、次々に解決してしまっていく~。
それでもわたしが渋っているのを見ていると、ギルド長が、「万が一、この国を出て行きたくなったら、おれが後任を見つけてやる」と言った。
「え……」
わたしの口から、思わず声が漏れる。
「お前は元々この国の人間じゃないし、冒険者をやりたくてやっているわけじゃない。……ここに根付きたくないんだろ?」
わたしをまっすぐ見てくるギルド長の目は、わたしを全て見透かしているようで、いたたまれなくなってしまい、わたしは目を逸らした。
いや、見透かされているよう、ではない。わたしはわざわざ態度に『いつかいなくなるかも』ということを出さなかったが、分かる人には分かってしまうのだろう。
ギルド長の言っていることは事実。でも、根付きたくないと言われると、なんか、ちょっと、もやもやするというか……。
わたしだって、本当に元の世界に戻れないというのなら、ここで骨を埋める覚悟もできる。
帰れるのか、帰れないのか――帰らなくてもいいのか、帰らなきゃいけないのか。
それがはっきり分かりたいだけだ。
「ま、おれはお前を縛る権利もなければ義理もねえ。……いや、まあ、仕事を手伝ってくれた恩を返せてねえし、酒ののことは嫌いじゃないから、まだまだいてくれたら助かるけどよ。でも、まあ、好きにしたらいい。最悪の場合はおれがなんとかするから、やるだけやってみたらどうだ? もういい年だろ」
「ぐっ」
ギルド長に『いい歳』と言われてしまうと来るものがある。……まあ、元々デスクワークの人間だったからな……肉体労働に適正はない。
「……そう言って、鑑定書を発行してくれる人が欲しいだけですよね」
「ばれたか」
ギルド長は、わたしをからかうように笑った。本当に鑑定書を発行してほしいからそれっぽくわたしを説得しているのか、それともわたしのことを案じてくれているのか、よく読み取れない笑顔だった。
まあ、でも……。
「そうですね。少し、くらいなら……」
少年と、酒を飲まない約束と、彼と特Aランク昇格のお祝いをする話をしたから。それを反故にするのは嫌だな、と思ってしまったので。
ある種、少年が帰ってくるまではここにいられるように、と、願掛けのようなものも込めて、わたしはギルド長の提案を受けることにした。
もし、元の世界に戻るようなことがあっても、少年との再会を投げ出したくはなかったし、少年にわたしの意思で帰ったと思われるのは、少し、さみしかったから。
万が一、明日元の世界に戻ったとしても、店を開く予定があったのなら、わたしが帰りたくて帰ったわけじゃないと、分かってもらえるだろうから。




