32 元社畜と少年-11
わたしは、ぼんやりと権利書と譲渡書を眺めながら、ちびちびと水を飲み、揚げ芋をつまみ、ギルド併設の食堂で休憩に入るタイミングで来てくれるというギルド長を待つ。
本当は酒でも飲んで忘れたいところだけど……でも、流石に相談に乗ってもらうのに、酒を入れるわけにもいかないし、何より少年と外で飲まないって約束してるし……。まあ、帰りにここでお酒買うんだけど。持ち帰り用に売ってくれる酒は果実酒の一種類だけなのだが、酒屋で買うよりは安いので最近はもっぱらここでお酒を買っている。少なくとも飽きるまでは。
それにしても、家の権利って、そう簡単に譲れるものなんだなあ……。もっと複雑な手続きが必要で、不動産経由とか、そうじゃなくても税金とか、お金関係が色々と……。
いやまあ、その辺りのことが元の世界と同じだとは思ってないけどさ。だからって、紙を二枚、ポンと渡しただけで完結するというのは、あまりにも簡易ではないかね……。
――あーあ、今頃少年は何してるのかなあ。あのくらいの子が頑張って正社員になるために試験に立ち向かっているのに、いい大人なわたしは、家を持たされて慌てふためいているよ。なんと情けない。
……いや、いい大人でも、こんなもの簡単に贈与されたら追いついていられないか。貢がれ慣れているような人ならまだしも。
そんなことを考えていると、「酒の、待たせたな」とギルド長がやってくる。
席につき、ギルド長がいくつかウエイトレスに注文をする。
「それで? 何があったんだ?」
注文を終え、ギルド長がさっそくわたしに聞いてくれる。
わたしは「これを貰ったんですけど……」と、あの家の権利書と譲渡書を見せた。
「……ああ、あそこの店のやつか。そういえば今日のお前の依頼があそこのばあさんの引っ越しの手伝いだったな」
ちら、と目を通しただけで、ギルド長はどこの土地のものか分かったらしい。少し遠いとはいえ、ギルドから徒歩圏内だし、元々の店を知っていたのかもしれない。
「断り切れなくて……。や、でも、紙を二枚渡されただけで、本当に手続きが済んでるとか、わたしがあの店を使えるとか、そんなことは……」
「いや、細かい手続きは全て事前に済んでるんだろう? だからこその譲渡書だ。この二枚がそろっていればあの家はお前のものだ」
……事前に? ということは、本当にギリギリまであの店を貰ってくれる人を探すつもりだったのか、あのおばあさん。
……やられたぁ……。断るつもりなら、最初から行けそうな雰囲気を出すべきじゃなかった。
完全にわたしの判断ミスである。
「いや、これを貰っても……いや、今取ってる宿の替わりくらいに個人的に使うしか……、いや、でも、それは流石に……」
信じきれないわたしは、いや、という言葉がぼろぼろとこぼれる。いや、本当に? 本当にあの家、わたしのものになったの?




