31 元社畜と少年-10
わたしは頭を抱えたい気持ちで、今日の依頼達成の報告書を持って、冒険者ギルドへと戻ってきていた。
引っ越しの手伝い自体はつつがなく終わった。依頼はなんの問題もなく、達成である。
しかし、問題なのは、おばあさんに店を返し切れなかったことだ。
権利書と譲渡することを明記した書類を押し付けられ、わたしは断り切れなかった。譲る先が見つからない、と言っていたくせに、ギリギリまであがくつもりだったのか、おばあさんは用意周到に正式そうな譲渡書まで用意していたのだ。
なんだかものすごく騙された気分……ではあるのだが、はっきり断らなかったわたしもわたしで悪い。いや、だって、店舗付きの一軒家を、本当にポンとくれると思わなかったんだもの。身寄りのない方ならまだしも、息子がいるって言っていたし。普通、そっちが相続すると思うじゃない。
――と、考えてもすでに後の祭りなのである。
「おう、酒の、今帰ったか」
「お、おかえりなさいませっ!」
どんよりとした気分でわたしが依頼達成を冒険者ギルドの窓口へと報告に向かうと、そこには新人と思わしき、ガチガチに緊張している女の子と、その新人指導をしているらしいギルド長が出迎えてくれた。
ついに新人が入ったのか、良かったな……。どうにも、あのブラック企業並みの仕事量を知ってしまうと、同情を隠しえない。
わたしは新人ちゃんに報告書を渡すと、新人ちゃんは「承りますっ」と大きな声で行ったかと思うと、指さし確認をしながら報告書のチェックを始めた。
初々しいな……。こういう新人の練習台になるの、地味に好きなんだよな。優しい人になれた気分になるというか。
ゆっくり頑張ってね、という気持ちを込めて、丁寧に新人ちゃんの業務に付き合っていく。ぎこちなくはあるが、業務内容自体は頭に入っているのか、マニュアル等を見ることはない。
「……はいっ、問題ありません。受領しました、お疲れ様ですっ!」
「はい、ありがとうございます。そちらこそお疲れ様」
わたしがそう言うと、新人ちゃんはホッとしたような笑みを浮かべた。
依頼を終え、とりあえず酒でも飲んで現実逃避するかな……と思いながら食堂に向かおうとしたところ、「酒の」とギルド長に声をかけられる。
「悪いんだが、しばらくは可能な限り、こいつがいる窓口で依頼の受付をしてくれないか」
「……? 別にいいですけど……」
「助かる。お前は気が長いし、無駄にこいつをせかしたりしないだろう? 経験を積むのを手伝ってやって欲しい」
どうやらギルド長公認の練習台となったようだ。冒険者ともなれば、結構気の短い人、多いよねえ。わたしの知り合いはそうでもない方だと思うけど……。
「代わりに、何か困ってることがあるならおれが相談にのる」
「え?」
「何かあったんだろ? 暗い顔してギルドに入ってきただろ」
暗い顔、っていうかどうしようか困っている顔ではあったけど……意外と見られているもんなんだなぁ。




