30 元社畜と少年-9
ふらっとこの世界に迷い込んだからこそ、気が付いたら元の世界に戻っているかもしれない、という考えが、わたしの中では結構な存在感を放っている。
そういうときに、家や土地を持っていたら権利関係が大変だろうし、何か明確な仕事についていたら、他の人に迷惑をかけてしまう。元の世界とこの世界が、同じように時間が流れているとするなら、元の世界で就いていた仕事場の人には迷惑をかけただろうし、行方不明者として退職扱いになっているだろう。
こっちの世界のわたしの周りの人はいい人ばかりだから、迷惑をかけたくないのだ。
だからこそ、依頼完了、という形で、その場で都度仕事の契約が終わる、冒険者という職のままにしている、というところもある。……まあ、冒険者という職業が、ファンタジーっぽくて楽しそう! というお気楽な理由もあるけど。それに、住所も戸籍もない人間が就くには、もってこいの仕事でもあるとは思う。
勿論、依頼を受けて、その途中で元の世界に戻る、ということもあるわけだけど、でも、依頼を受けた冒険者の死をもって失敗とすることも大いにあるので、迷惑をかける、という一点においては、冒険者を続けている限りは心配しなくてもいいだろう。
ただ、おばあさんのいうことも、全く間違った話ではない。……いや、初対面の人間に家兼店舗をポンと引き渡そうとするのはどうかと思うけど。
結婚や出産も、興味がそこまでない、という以上に、ある日突然いなくなったら、という考えがあるから、積極的にはなれない。
が、そうだとしても、わたしがそういう年齢であることに変わりはない。
そういう年齢であるならば、冒険者という肉体労働がいつまでも続けられるわけじゃないのである。
ある日パッタリ困る日が来るよりは、少し前で次を考えた方がいいのか……?
いやでも、急に店を渡されたところでどうしようもないし。
「まあ、そういうのもいいかもしれませんねえ」
あはは、と適当に笑ってごまかす。いい人を見つける時間がない、って言っていたし、荷運びの引き渡しの予約時刻からして、数日中におばあさんはこの街を去るだろう。
それなのに、露骨に嫌悪感を出して断るのも可哀想かな、と、適当に話を流して終わらせようとした。
でも、わたしには店を開いて何かするような才能がありませんから。
そう、続けようとしたのだが――。
「あら、本当!? 貰ってくれる? 嬉しいわぁ……!」
おばあさんは手を叩き、満面の笑みで喜んでいた。
――……エッ!?




