23 元社畜と少年-2
わたしが本当にお酒を飲むつもりがないというのが分かったのか、ドワーフさんは軽く挨拶をしてから、酒飲みの輪に戻っていった。酒飲みの輪、というかドワーフだけが集まった席だけど。
少年はすっかりわたしの隣にいる。まだ食べ足りないのか、ちらちらと料理のあるテーブルを見ているが、少なくとも、元いたところに戻ろうとはしない。
「……食べてくる?」
わたしが言うと、少年は首を横に振る。
「おねーさんを一人にしたくないし……」
「今日はお酒、飲まないよ? いや、本当に」
普段から、お酒の飲み方についてあれこれ注意されることが多い。そんなわたしが、これだけ冒険者がいるところで何かやらかせば、一瞬で変な噂が広まるだろう。ただでさえ、冒険者の噂話って、広まるの早いし。
「……そうじゃない。これだけの人数いたらさ、何かあったとき、おねーさん困るでしょ?」
「何かって……」
むしろこれだけ人が集まっていれば安全なのでは? と思った瞬間――。
――ヒュン。
わたしめがけて、皿が飛んでくる。えっ、皿って空を飛ぶんですか!?
突然のことに固まって、反射的に目をつむる。
けれど――皿がぶつかって痛い、ということはなくて。
恐るおそる目を開けると、わたしにぶつかる前に、少年が皿をキャッチしてくれていた。
「ほらね。冒険者なんて皆、粗暴なんだから」
なるほど、確かにこれはわたしにはどうしようもないやつだ。前衛に出るような女性であれば、多少のことはどうにかできるだろうけど、冒険者をしているとはいえ、その辺にいる女性と変わらない戦闘力。
いや、つい一年くらいまで運動不足のデスクワーカー社畜だったことを考えると、並み以下かも。少しは体力ついたとは思うけど、筋力とか、そう簡単には変わらないからね、女って。本気で体格を変化させようと努力しているわけでもないし。
未だに小型犬にすら勝てるビジョンが思いつかないあたり、力で解決しないといけないような揉め事が起きたときに、わたしでは対処できない。
そう言えば、ギルド長も、何かしら揉め事が起こるだろう、って言ってたな……。
「これだけ集まれば、揉め事の一つや二つ――、……」
「いやあ、助かったよ。少年がいなかったら、今頃そのお皿がわたしの頭にクリティカルヒットして……、ん、どうした?」
少年にお礼を言うが、なんだか少年の表情が微妙だ。
どうしたんだろう、と思って、少年の目線の先を追う。わたしの胸元に――、おわぁ……。
おそらくは皿の上にのってたのであろう、肉がソースごと、べったりとわたしの胸元についていた。皿から落ちたんだね……。全然気が付かなかった。
皿を投げ飛ばすなら、せめて空の皿を投げろって。




