22 元社畜と少年-1
「――ッ、おねーさんっ! おねーさんってば!」
「おわぁ」
少年は、慌てたようにわたしの腕を取った。彼の少し後ろを見るに、こちらをうかがう冒険者が何人もいる。囲まれていたのに、その輪から無理矢理抜け出してきたのだろう。
「お酒、飲んじゃ駄目だからね!?」
「分かってるよぉ……」
今日の打ち上げパーティーが開催されることが決まった直後。絶対にお酒を飲まないで、と、少年に強く言われていたのだ。
「本当に飲まんのか? 今日はエルタールの十年物が下ろされたのに」
「エッ」
ドワーフさんの言葉に、わたしは思わず食いついてしまう。
この国のだいたいの人間は酒に弱い。だからこそ、度数の高いお酒はそもそも売られないことが多い。飲める人間が少ないので、需要も少ないのだ。
ドワーフ用に、と度数の高めなお酒も置かれているが、いつもそれがあるとは限らない。エルタールもそう言ったお酒で、レアな一杯なのだ。
しかも十年物となれば、普通にエルタールが売られている国でも、そこそこ高級なお酒になる。
「エルタールの十年物が……タダで飲める……?」
ちら、と少年の方を見る。
飲みたい。めちゃくちゃ飲みたい。
しかし、少年の顔はむくれている。とてつもなく不機嫌そう。
「十年じゃなくて、二十年でも三十年でも僕が買ってあげるから、ここでは飲まないでってば!」
「ごめんね、ドワーフさん」
わたしは即断して断った。
エルタールはヴィンテージになればなるほど高額だ。ウイスキーと違い、ただ希少だから、という理由で高くなるのではなく、純粋に年数が経つほど、味に深みが増していくから高い値が付くようになる。こちらの世界でしか飲めないこのお酒は、エルフが作る酒、と言われるくらい長期で作ることが前提のお酒なのだ。いつか飲んでみたいな、千年物のエルタールを……。
閑話休題。
そんなわけで、少年が三十年物のエルタールを買ってくれるというのなら、十年物など諦めるほかはない。
……ま、流石にウン十万するようなお酒を、少年に買ってもらおうなど、本気では思ってないけどね。
一回りは年下の子に、そんな高額商品タカれないって……。
まあ、体よく断るにはもってこいかな。
なんて思っていると、少年がわたしの腕を、軽く引っ張る。
「……僕、本当に買ってあげるからね。そりゃ、数百年物は流石に無理だけど、三十年物くらいなら余裕だから」
「はいはい、楽しみにしてるね」
真剣な様子の少年に、わたしは軽く返す。
そんなに食いつかなくたって、いい大人なんだから、酒の一杯や二杯、我慢できますよって。……そりゃあ、エルタールの十年物ともなれば、気軽に飲めないのは事実だけど。
でも、この機会を逃したら一生飲めない、ってわけでもないし。
「――…………」
ドワーフさんの誘いを断ったのに、少年はなんだか、むくれたままだった。




