21 元社畜と大型依頼打ち上げパーティーご飯
依頼を受ける人。
依頼を発注する人。
出発に向けて準備をする人たちに、一仕事終えて戻ってくる人。
普段の冒険者ギルドには、いろんな人がいるけれど、今日、この夜ばかりは、皆一様におのおのグラスを持ち、ギルド長の方を向いている。
「それじゃあ、無事に生き残ったことを祝して!」
ギルド長がそう言い、彼の持つグラスを持ち上げると、ここにいる人たちがこぞって、「感謝を!」と声を上げた。
そう――今日はこの街に滞在している冒険者全員が強制参加の依頼である、シジーガラ討伐依頼の打ち上げである。
シジーカラとは、蠍っぽい魔物で、サイズ感的には小型犬から中型犬くらい。物理的な強さはそこまでないものの、防御力の高さと厄介な毒を持つ魔物。
そして、最大の特徴が――一定周期で爆発的に数を増やす、というもの。元の世界で言う、周期セミみたいな生態をこの魔物はしているのだ。そして、その活動する周期が、今年だったという。
だからこそ、冒険者全員で討伐にあたる。一つ二つのパーティーでは対処しきれないから。
もっとも、わたしは後方支援で、一体も倒していないのだけど。他の冒険者がシジーカラを倒したところを見たけれど、シジーカラの攻撃を避けられたとしても、あの防御力を突破するだけの力はわたしにはない。殻がね、すんごい硬そうなんだよね。
あれに打ち勝つ姿が全く想像できない。
まあ、後方支援は頑張ったから。一杯荷物運びとか、怪我の手当とか、野営地の整備とかしたから。わたしにもこの打ち上げを楽しむ権利はある。
「おねーさんっ」
そんなことを考えていると、声をかけられた。少年だ。
「……、おや、少年。ご機嫌だねー。流石、今回のMVP」
ちょっと考えて、敬語で話すのを辞める。全員参加の打ち上げだし、ギリ仕事の延長か……? と思ったけど、まあ、一応依頼は達成されたわけだしね、敬語じゃなくてもいいでしょう。
「いやぁ、めちゃくちゃ頑張ったよ、僕! 褒めてほめてー!」
少年が言うので、わたしは彼の頭を撫でておく。一瞬、なんかちょっと違う、という顔をした彼だったが、そこまで期待とずれていなかったのか、満足そうな笑みを浮かべた。
実際、今回一番頑張ったのは少年だと思う。報酬自体は強制参加なので、均等の金額で振り分けられるが、前線に出る冒険者間で誰が一番シジーカラを討伐できるか、という競争が行われていたらしい。わたしは参加しなかったけど、賭けっぽいこともあったみたい。
そんな中、ぶっちぎりで一番の討伐数を叩き出したのが、この少年である。ちょっとだけ、少年に賭けておけばよかったかな、と思ったのは、秘密だ。
「わたしは後方だったから、最前線の少年が戦うところは見れなかったけど……話だけは届いていたよ」
怪我をした冒険者の中には、最初の方は「早く戻らないと負ける!」なんて焦っていた人も何人かいたが、最終的には皆、「いや、あれには勝てねーわ」と諦めていた。それだけ、少年がドンドンとシジーカラを討伐していたということだろう。
「俺も遠くからしか見られていなかったが、実際凄かったぞ」
そう言ってわたしたちの会話に入ってきたのは、剣士さんだった。その目はきらきらと輝いている。
彼は戦闘班として、前の方に出ていたから、きっと少年が戦う姿を見ることができたに違いない。
「俺もあのくらいできるようになってみたいものだ」
「僕くらいは無理でしょー。でも、いつかはもうちょっと、マシになるかも?」
「そうだといいな。……だが、確かに前回のシジーカラの大規模討伐の際よりは、多くのシジーカラを倒すことができた」
剣士さんの表情は、随分と明るい。
どのくらい昔から冒険者をやっているのかは知らないが、シジーカラの活動周期の間隔が長いとはいえ、エルフである彼はさらに長命だから、何度かシジーカラの討伐に参加しているのだろう。
「討伐数としては中の下ではあるが……だが、毎回、数を重ねるごとにシジーカラを倒せた数は確実に増えているんだ」
「えっ、凄い!」
どんどん数が増えていく、ということは、ちゃんと成長できているということ。彼の努力がちゃんと身についているということだろう。
「よかったじゃないですか!」
わたしがそう言うと、成長が感じられるのがよっぽど嬉しいのか、少し顔を赤くしながら、「ああ!」と剣士さんが笑う。
「……、おねーさんっ。あっち、おねーさんの好きそうな料理あったよ! 食べに行こ!」
「おわっ」
少年が急に引っ張るものだから、わたしは思わずらたたらを踏む。バランスを崩し、わたしはうまく少年の後を歩くことができなくて、近くにいた誰かにぶつかってしまった。
「す、すみませんっ。怪我とか……」
「よく見て歩けよ、危なっかしい」
鋭い舌打ちが飛び、トゲのあるような声音で言われる。ちゃんと歩かなかったわたしが悪いんだけど、そこまで言わなくても……と思って、ぶつかった相手を見たら、良く知った顔の人だった。
薬師さんである。
そうか、この人も一応冒険者だから、今回の大規模討伐に参加していたのか。
「おいガキ、こんな人が一杯いる中で急に動いてんじゃねえ。邪魔だろ」
薬師さんの言葉に、少年がむっとしたような表情を見せる。確かに少年が急に動いたのは悪かったかもしれないけれど、言い方ってものが……。
少年も、自分に非があると分かっているけれど、薬師さんの言葉が言葉だから、素直に謝りにくいのだろう。
「おねーさんっ、怪我ない?」
「おいこらクソガキ」
薬師さんを無視することに決めたらしい。
「こらこら、わたしは大丈夫だから。薬師さんに謝ろうね」
「……、もうしないし」
よっぽど謝りたくないらしい。少年らしくもなく、素直ではない。
「こんなガキのちんけな謝罪なんていらねーよ」
「……はぁ?」
薬師さんの言い方に、余計に腹が立ったらしい。多分あれは、もうこれ以上言わなくていいから、さっさとどこかに行け、という意味だったと思うんだけど……。
しかし、案の定というべきか、薬師さんの本意は少年には伝わらず、言い合いが始まってしまった。
人ごみを無理やり抜けようとした少年が悪いし、言い方が完全に煽るような薬師さんにもよくないところがある。
双方、言い分が分かってしまうだけに、どちらかの味方をしにくい。
どうしたものかなあ、と二人の口喧嘩を眺めていると、「酒の」と声をかけられ、わたしはそちらを向く。
「あいつら、もう喧嘩してるのか……。これだけの冒険者が集まってるんだ、何かしら揉め事が起こるとは思っていたが、早すぎるだろう」
「相性が良くないのかもしれませんねえ……」
まあ、薬師さんは基本、たいだいの人との相性が良くないような気もするけど。彼を深く知れば、いい人だということは分かるんだけど、そこにたどり着くまでに、『むかつく、こいつ嫌い!』ってなってしまう人が多そうだ。口が悪いんだよ、口が。
言い合いをやめない二人に呆れながら、わたしはちらりとギルド長の顔を見る。……うん、特別顔色が悪そう、ってことはない。この間、倒れていたときみたいに、今にも死にそうな顔はしていない。
「この大規模討伐が始まる前に、仕事がひと段落していてよかったですねえ。これ、絶対後処理も大変でしょう」
「……分かるか」
げんなりとした表情で、ギルド長が言う。
冒険者の全体数も多いし、シジーカラの討伐数も普通の討伐依頼とは比べ物にならないくらい、文字通りの桁違い。この間、冒険者ギルドの事務仕事を少し手伝ったからこそ、面倒くささがなんとなく分かってしまう。
しかも、ここにいる冒険者の半数は明日から平常運転に戻るだろう。ただでさえ、この依頼の後処理があるのに、すぐに普段通りの仕事も追加されるとなると……うわ、自分の仕事じゃないのに考えたくもない。
「本当に助かったよ、ありがとう」
ギルド長の言葉に、わたしは少しだけ感動してしまう。
冒険者をやっていると、依頼主から「ほんっとうにありがとう!」と強く感謝されることはあるけれど、書類仕事、という元の世界でやっていたことと同じことで感謝されたのが、ちょっとぐっと来たのかも。元の世界では、感謝されるどころか、「遅い」と文句を言われることも少なくなかったから。
「ほら、どんどん食え! 今日はたくさんある。これとか好きなんじゃないか?」
そう言って出されたのは唐揚げだ。ここの唐揚げ、味付けが濃い目で最高にお酒と合うんだよね。ギルド長、分かってる!
わたしは差し出された、唐揚げがのった皿を受け取り、「ありがとうございます」と、二重の意味で挨拶をして、大ぶりの唐揚げにかぶりつく。
一口で食べきれないくらいのサイズであるそれは、柔らかな鶏肉にかみつくと、じゅわっと肉汁があふれてくる。そして、その肉汁に負けないくらい、強いパンチの効いたニンニクがまた最高。これはビールが欲しくなるやつ。
年を重ね、年々油ものをたくさん食べられなくなってきたとはいえ、それはそれ、これはこれ。美味しいって分かってるんだから、あとで胸やけしたとしても、ついがっつきたくなってしまう。
肉最高、揚げ物最強、と唐揚げを楽しんでいると、「あー!」と少年が声をあげ、薬師さんを放ってこちらに駆け寄ってきた。
「おねーさん、もう食べてる!」
「……あはは、ごめん」
そういえば、少年がわたしの好きそうな料理があると、他のテーブルへ連れて行ってくれようとしてたんだっけ。目の前の、揚げ立てと思わしき唐揚げの誘惑に勝てなかった。
「少年も食べる? ほら、口開けて」
「……、ぅえっ!?」
特に何も考えず、持っていた箸で唐揚げを食べさせようとすると、少年は素っ頓狂な声をあげた。
「あれ、こういうの駄目なタイプだった?」
前に食べかけの貝を食べてもらったことあったし、他の冒険者と食事をしているとき、相手の冒険者の、おそらくは嫌いなものを、そのまま口に入れてもらうところとか、以前に見たことあった気がする。
自分の分は自分だけで、というような子じゃないと思ってたけど、わたしの勘違いだったかな?
「ごめんごめん、嫌だったか。えーっと、これどこのテーブルから取ってきたのかな――」
「――だっ、駄目じゃない!」
少年は、どこか慌てた風に、わたしが箸を持つ手を取り、そのまま唐揚げを食べる。その手はどこか、震えていた。そんな必死に手を掴まなくても、唐揚げ落としたりしないんだけどな……。
それにしても流石男の子。このサイズの唐揚げを一口でいくのか。
「美味しいよね」
わたしがそう言うと、少年は、もごもごと口を動かし、唐揚げを飲み込むと、小さく、「……うん」と言った。
分かる、感動する味だよね。
「他のも一杯食べよ。さっき少年が行こうとしたテーブルって、どっち?」
「……あ、あっち」
そう言って、少年はわたしの手を取る。
わたしの手首をつかむ少年の手は、ほんのりと熱くて。
……もしかして、さっきの唐揚げ、結構熱かったのかな? びっくりして体温、上がったんだろうか……?
■■■
打ち上げパーティーも中盤。半数くらいの人がもう料理はいらない、とばかりに会話を楽しみながら、飲み物を飲むだけの段階に入っていた。
と言っても、皆、ソフトドリンクを飲んでいるんだろうけど。
わたしは一人、壁の花になってデザートであるムースをつつきながら、皆が騒いでいるのを眺める。
少年は最高討伐数を周りから褒められたり、賭けに負けた冒険者に文句を言われたりしている。文句、っていっても、本気のものじゃなくて、ほとんどからかいみたいなものだろうけど。
剣士さんと薬師さんは、最初の方は会話できていたけれど、はぐれてしまってからはそのまま見つけられず。
ギルド長は、打ち上げパーティーがある程度盛り上がったところで仕事に戻ってしまった。いやあ、本当にお疲れ様です。上の者がいたら騒ぎにくいだろ、とかなんとか言ってたけど……。
「おお、お前さん、こんなところにおったのか」
陽気に声をかけてくれたのは、ドワーフの冒険者。少年や剣士さん、薬師さんたちほどよく話をする冒険者仲間、というわけではないけど、その人たちを抜いたら次に仲がいい冒険者だと思う。
わたしが特Eクラス時代に、各依頼の講習会を受けたとき、隣の席に座っていた人だ。いわゆる同期というやつ。まあ、この人はわたしと違ってパーティーを組み、順調に冒険者クラスを上げているから、わたしより上になってしまったわけだけど。
それでも、結構仲がいいのは――わたしと彼を繋ぐものがあるからだ。
「一杯やっとるか? 今日はいい酒がタダで飲める、最高の日じゃ!」
――そう、お酒。
彼が酒の入っているであろう、木のジョッキを掲げると、たぷ、と中の酒が揺れたのが分かる。
ああ、うらやましい。
「わたしも飲みたいところなんだけどね、今日は駄目って言われてるんだよ……」
「なんじゃ、珍しい。お前さんにそんなことを言う奴がいるのも、お前さんがそんなことを素直に受け入れるのも」
「んー……まあ……」
本当なら、わたしだって今日は飲むつもりだったのだ。
でも、あんなに強く言われちゃあ、ねえ……?
「絶対に勧められても飲むなって言われてるから」
残念、とばかりにわたしは肩をすくめる。
そんなとき、わたしは名前を呼ばれ。そちらの方を振り向く。
そこには、わたしに酒を飲むな、ときつく言って来た張本人が立っていて――。
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次章より、各キャラの章に入ります。一気に更新できないので、登場順に少しずつ投稿する形にはなりますが、特にメインキャラを決めていない、平行世界線となります。読んでくださっている方の推しカプがくっつく世界線を正解にしてもらって大丈夫です。
よろしくお願いします。




