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異世界転移して冒険者のイケメンとご飯食べるだけの話  作者: ゴルゴンゾーラ三国
第一部

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16 元社畜と現実逃避なサンドイッチ(Another)

 二百五十と少し。それだけの年を生きてきた。平均寿命が千、時には文字通り不老不死なのではと思われるくらい、衰えず、死を感じさせない者が出てくるエルフにとっては、そう長い時間ではない。

 でも、そんな時の中で、俺が回りから頼られることは、ほとんどなかった。子供の頃は当然としても、成人してからも、数えられるくらいしかない。


 一人で生きられるようになって冒険者になってからは、愚直に剣の鍛錬を積んできた。

 弱いまま。


 今も弱く、強くなれないでいる自分にとって、他人から頼られるというのは、俺が認められたような気がして、嬉しかったのだ。今回は魔法に関する知識ことではあったけれど――普段は、誰かに頼ることしかできない身だったから。

 少しくらいは手助けができるだろうか、と思って彼女に声をかけたら、予想以上に喜んで、目を輝かせたものだから。


 調子に、乗ってしまったのかもしれない。


■■■


 彼女がエルフ式のサンドイッチを作っているのを、横で見ていて、なんだか懐かしくなったからだろうか。エルフの森を出たばかりのこと、初めて冒険者になった頃のことを思い出していた。


 剣に憧れ、剣士のつもりで冒険者登録をした。冒険者登録の際は、前衛、後衛、サポートの三種類でしか役職登録がないので、剣士、という項目はないのだが。

 ランクを上げるためには、とにかく依頼を受けるべきだと、講習で教わった。最初のうちに小さな依頼もこなして依頼の受注方法や達成後の処理などの雑務を覚え、要領が分かってから共同依頼を受けて討伐や護衛、採集そのものに慣れ、その後、命を預ける仲間を探し、パーティーを結成する。そういうのがセオリーだと。


 小さな依頼を細々と受けていくのは良かった。配達の手伝いを探しているだとか、掃除をやって欲しいだとか。街の中で完結し、戦わなくても済むような、一人でできる依頼。


 問題は、共同受注だった。

 剣士という、エルフとしては異例も異例、俺一人しかいないのでは、という道を選んだ以上仕方がないことなのだが、一緒に依頼を受けた他の冒険者は、俺に対して、魔法を期待する。当たり前のように魔法を使う職だと決めつけた上で人の配置をする。


 違う、俺は剣士で魔法は使わない。


 そう言ったときの、冒険者間での空気と言ったらない。

 俺が冗談を言っているのだと思って笑っていた彼らが、本気なのだと分かって冷えた目をする。その目に負けて、今回だけだから、と何度か、魔法を使って依頼をこなしたこともあった。

 今なら絶対にしない。でも、あの当時は、冒険者そのもので居続けなければ剣士としても成長できないと思っていたから。


 エルフの剣士として知れ渡るようになってから、俺を戦力だと思う冒険者はいなくなった。パーティーだって組むことはできない。足を引っ張るのが分かり切っているから。

 そうやって、頼られない生き方を続けていたからか、俺は加減というものが分からなくなっていたようだ。少なくとも幼少期、親から頼まれた手伝い事を必要以上にやって困らせるようなことはしたことがない。記憶にある分には。


「ありがとうございまーす」


 どことなく投げやりに聞こえる、彼女の食前の挨拶。ギルド長も彼女が食べたのを見て、挨拶をし、彼もまた食べ始めたので、俺も作ってもらったサンドイッチを食べることにする。


 パンは柔らかく、シャキシャキしているレタスと厚切りのハムにマトゥルの酸味がよく合う。こちらに来てからは硬いバゲットで作られた人間のものばかり食べていたからか、初めて食べる味なのに、どこか故郷を思い出させる。やはりこちらの方が俺は好きだ。

 チーズとマオンソースの方も、シンプルでうまい。ハムが厚切りな分、先ほどの方が食べ応えがあるものの、これはこれでいい。両方ボリュームがあるものよりはバリエーションがあって飽きない。


「残り物のパンなので、もうちょっとパサついてるかと思いましたが、しっとりふんわりでいいですねえ」


「うちの食堂は腕のいい奴らを雇ってるからな。それに、これは多分夜に焼いたやつだから、それほど時間が経ってねえんだろ」


 彼女の言葉に、ギルド長が答える。確かに、ここの食堂はいつきても、できたての美味しい料理が食べられる。……でも、彼女のサンドイッチも負けていないと思うが。


「――……すまなかった」


 俺はサンドイッチを食べる彼女に、頭を下げる。ちょうどかじっているタイミングだったからか、「んえっ?」と彼女が少しくぐもった声を上げた。


「少し、長く話をし過ぎたようで……。俺が適度なところで話を切り上げていれば、もっと早く休めただろうし、こうやって料理を作らなくてもよかっただろう」


 サンドイッチとはいえ、三人分も作るのはそれなりに手間だろう。必要なことだったのならまだしも、本来はやらなくてもよかったことのはずだ。


「ん、んん……。でも、わたしから頼んだことですからねえ」


 責めるようなことは言わず、声音もどこか困惑するだけで、怒っている様子は全くない。

 俺が頭を上げると、少し困ったような笑い方をする彼女がいた。


「しかも、わたしだってなんやかんや言って逃げてきたわけですから。せっかく剣士さんが話をしてくれていたのに」


 逃げ……や、やっぱり話が長かったか。

 まずかった、と思っていたのが顔に出たのか、彼女が慌てたように「でも、本当にためになりましたよ!」と言い出す。


「知りたかったことは知れましたし。わたし一人じゃ欲しい情報を得られなかったかもしれないんですから」


「だが……」


 俺と彼女が、『自分の方が悪い』と言い合っていると「そこまで」とギルド長が一喝した。


「せっかくの飯がまずくなる。反省したなら双方、次から生かせ。失敗なんて誰にでもあることだ」


「次……」


 次、なんてあるのだろうか。

 もう、今回でこりて、彼女は俺を頼らなくなるんじゃないのか。

 そう、思ったが――。


「そ、そうですね! 次からはわたしも、もっと具体的に知りたいことを絞ってから質問することにします。『魔法のことが知りたい』なんて言ったら、そりゃあ、最初から教えようとしますよね、普通は」


 次、があるのが当たり前のように、彼女は笑った。


「あ、も、もしかして、もうわたしには教えたくないですか……?」


「そ、そんなことはない! 次――次からは、俺も、時間に気を付けよう」


 俺がそう言うと、彼女はパッと顔を明るくして、再びサンドイッチを食べ始めた。


「まあ、でもいい機会ですし、わたしも魔法をイチから覚えようかなあ……。この間、少年が魔法でたき火を起こしてて、凄く便利そうで……」


「なんだ、使えなかったのか? まあ、一次魔法は魔力があれば最低限使えるもんだからな。覚えておいて損はないだろ」


 なんと。五次魔法である鑑定魔法を使えているのに、一次魔法を使えないのか? 人間で五次魔法を使える者も珍しいが、一次が使えずに五次が使えるというのはもっと少ないだろう。

 だが……五次魔法は生まれ持ったものに左右されるが、一次から四次魔法は勉強し、訓練するのが全て。きちんとした教師の元で学べていないのなら、ありえない話ではない。もしかしたら、彼女は学校に通えていなかったのかもしれないな。


 ……というか、五次魔法しか使えなかった上に、先ほどの口ぶりならば、彼女は五次魔法のことについて、何か知りたいことがあったのだろうか。

 彼女に今聞いても、彼女のことだから気を使ってうまいことはぐらかしてくるだろう。でも、そうだとしたら、本当に悪いことをした。魔法のことを、と聞かれたので、初歩の初歩から説明してしまったから。


 い、いや、この反省は次に生かすと先ほど決めたばかり。もし、彼女が次に俺へと教えを乞うて来たら、ちゃんと確認してから説明をするとしよう。


「ごちそうさまでした。……もし、わたしが魔法を覚えようとしたら、どのくらいかかると思いますか?」


「……! そ、そうだな……」


 さっそく、『次』が来たことへの喜びを抑えながら俺は考える。

 エルフならば、一つの属性につき、三十分もあれば一次魔法を使いこなすことができるだろう。説明を聞いて一発で魔法を発動できるのが半数以上、そこから十数分でコントロールを覚える。まれにいる、魔法が苦手な者でも一時間もあれば習得は可能。俺だって、親から教えてもらった一次魔法は、全属性を一日で使えるようになった。

 ただ、これはエルフ基準。人間だともう少しかかるはずで……。


「長くても三か月程度、じゃないか? 本当にゼロから学ぶとなるともう少し時間がかかるだろうが、君は鑑定魔法をよく使っているからな。魔法を使う感覚が分かっているなら、かなり早く習得ができると思う」


「なるほどぉ……。そんなものなんですか……」


 俺の言葉にうなずきならがも、どこか納得がいっていない様子の彼女。魔法を使う感覚、と言っても、あまり自覚がないのかもしれない。

 俺も五次魔法を初めて使ったときは、無意識だったし、それができるのが当たり前だったから、他人から「五次魔法は誰でも使えるもんじゃねーよ」と言われて初めて特別なことをしているのだと分かったくらいだ。


「んー、三か月かあ。覚えるなら集中して覚えたいし……。ちょっとお金貯めて、また考えます」


 当分の生活費を賄えるだけの貯金を、ということか。切羽詰まって覚えるわけでないのなら、それもまたありだと思う。


「それなら、一時的にギルド職員になるか? 一日中勉強する、ってことはできなくなるが、外に出て依頼をこなすよりは体力を温存できるだろ。アレだろ? 依頼をこなして、へとへとになって帰ってきてからさらに魔法の勉強や練習をする自信がねえんだろ?」


「分かりますぅ? それも悪くないかもなあ……」


「そ、それは――!」


 冒険者を辞めるわけではない。彼女と二度と会えなくなるわけでもない。

 そんなことは分かり切っているのに、何故だか、俺は彼女がギルド職員になってしまうのを、止めたくなった。

 彼女のことを考えれば、最善、と言わずとも、かなりいい案のはずなのに。


「――それ、は、いいアイディアなんじゃないか?」


 なんとか、ギリギリで吐く言葉を変える。

 俺に、彼女の行動を制限し、縛り付ける権利などないのだから、自由にさせるべきだから。


「……ま、その辺は追々考えます。夜は決断力が鈍るから、あんまり何かを決めないようにはしてて……ふぁ。っ、とと」


 彼女が大きなあくびを一つ。生活リズムが不規則になりがちな冒険者とはいえ、この時間はいつまでも起きているのに辛いものがあるのだろう。


「……酒の、今回もおれが後片付けをしておくよ。お前は、とっとと帰って休むといい」


「そうだな。俺も後片付けをするとしよう。……長々とつき合わせて悪かった」


 ギルド長と俺がそう言うと、彼女は少し迷う素振りをしながらも、「じゃあ、お願いします」と笑った。疲れた笑みは、普段よりもずっと眠そうに見える。


「剣士さん、今日はありがとうございました。……二人とも、おやすみなさい」


「……ああ」


 こんなにもつき合わせたのに、君はお礼を言って終わりにしてくれるのか。

 彼女がいなくなる前に目線を逸らすのが、なんだかもったいない気がして、彼女が完全に見えなくなるまで出入口の方を眺め、気配がなくなってから、俺は手早く残りのサンドイッチを口に入れた。


■■■


「悪かったなあ」


 後片付けをしていると、ふと、ギルド長がそんなことを言う。


「何をだ?」


 謝られるようなことはあっただろうか? と思いながら、俺はギルド長が洗った皿を拭く。むしろ、平行線になりそうだった謝り合戦を仲裁してもらったこちらが、ギルド長にわびるべきでは、とすら思うのだが。


「いや、お前のことも考えずに、ギルド職員に酒のを誘っちまってよ。でもまあ、こっちも結構限界で、働き手は一人でも多い方がいいっつーかよ」


「……俺のこと?」


 ギルド職員になるかどうかは、彼女が決めることであって、俺は関係ない。……ああ、俺が魔法を教えるから、俺の都合も考慮した方が勉強スケジュールを組みやすい、とか、そういう話か?


「惚れた女を、目の前で別のテリトリーに誘われるの、あんま気分よくねえだろ」


 ――ガシャン!


 俺の手から皿が滑り落ち、派手に音を立てて割れる。


「ほれ……、え、は? だ、誰が……俺が、か?」


「え? そりゃ……、……あー、そういう……。悪い、余計なことを言ったな」


 「ホウキとチリトリ取ってるから、拭いた分の皿を戻しておいてくれ」と言い、ギルド長が洗い場の前からいなくなる。

 だが、俺の頭の中では、先ほどのギルド長の言葉が支配していて、動けない。


 ――惚れた女。惚れた、女。

 確かに、彼女のことは好ましく思っている。俺の憧れを笑わず、そういうものだと認め、もう一度立ち上がらせてくれた人。


 それは、でも――ああ、いや、そうか。


 二人で食事をとったとき、彼女の顔をつい見入ってしまったのも。

 食堂で声をかけられ、嬉しくなってしまったのも。

 頼られて舞い上がってしまったのも。


 彼女を、そういう対象として意識しているからか。


「――……熱い、な」


 自覚をしたからか、急激に顔が熱くなってきた。体に力が入らず、立っているのが億劫になる。

 俺はその場にしゃがみこみ、しかし、ギルド長に動揺を悟られないように、割れた皿をかき集めるのだった。

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― 新着の感想 ―
久しぶりの更新で、内容を忘れてて 汗 最初から読み直してしまいました。 ブックマークしてただけあり、好き〜!もっと読みたい、もっと続きを!!となりました 笑 剣士さんは素直に自覚しましたねー。薬師さ…
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