演劇部の第一幕!
演劇は午前と午後に分かれています!
いよいよ公演の時間が迫ってきた生徒会のメンバーは体育館へと向かい
その裏で急いで着替えて準備を始めていた
「・・・と言っても・・・午前は俺ワンシーンしかないけどな・・・」
そう・・・実はこの公園は午前と午後で分かれており
午前の部では好夜が出てくるのはなんと伯爵との会話のシーンだけだった
「まだカッコイイシーンなだけマシじゃねぇかよ・・・俺なんてあの会長と戦うんだぞ?
しかも勝っておらるんじゃなくて負けそうになって逃げるんだし・・・」
しかし好夜の方はまだよかったのかもしれない
逆に午前でもそれなりに出番のある慶太はあの会長と戦わなくてはいけないのだ
そういった意味では会長の格好良さを目立たせる為のまさしく踏み台というわけだ
「ハァ・・・今からやらなくちゃいけないのになんだがやる気がしねぇ・・・」
今から自分がどんなシーンを演じなくてはいけないのか知っている所為なのか
イマイチ慶太にやる気がみられなかった
仕方ないので好夜がいつものようになんとかしてやる気を出させようとした時だった
「ヤッホ〜!応援に来たわよ〜!!」
なんと舞台裏に敬子がみんなの応援をしにやってきた
そして全くやる気を出していない慶太を見つけて笑みを浮かべていた
「あれれ?そんなにやる気を出さなくていいのかな〜?表には色んな女子が見にきてるわよ?」
それを聞いた瞬間に凄まじいスピードで慶太は舞台袖まで行き観客席を見始めた
「たっ確かに女子がいっぱいいる・・・?!まっまさか・・・俺を見に?!」
なんとも前向きな思考ではあるがおかげでどうやらやる気は出してくれたようだ
「・・・ちなみに聞くけど・・・あれって間違いなく会長を見にきてるんだよな?」
一応、確認の為に好夜は敬子に女子が誰を目的にやってきたのかを尋ねると
「まぁね・・・会長さんはうちの学校で一番モテる男子の一人だから
そういった意味じゃむしろ見に来ない子の方がおかしいくらいよ・・・」
やはりみんなの目的は会長だったようでこれが知らぬが仏かと好夜は思うのだった
「どうしたんだ?みんなで観客席の方を見て・・・」
そこへ着替えを終えてすでにメイクも済ませた会長が現れた
「いや〜・・・予想以上のお客さんの数に思わず・・・」
好夜は素直に自分の予想を超えた観客に驚いていると告げる
「・・・確かにこれは俺も予想外だったな・・・
いつもは見回りでそこまで見に来れてはいなかったがここまで人気だったのか・・・」
会長も少しだけ観客席を見て同じくすごい人だと思ってはいたのだが
それは演劇が人気なのであり自分を目的に来ているとは思っていなかったようで
会長の感想を聞いた好夜と敬子は思わず苦笑いしてしまうのだった
「あれ?そういえば晃平は別として命とかは来なかったんだな?」
部活の出店で忙しいはずの晃平は来ることは出来なかったとしても
命と明希音はどうしてここに来ていないのか尋ねると
「二人とも女子の更衣室で衣装の着付けを手伝ってるのよ
私は作った事ないしどうすればいいのか分かんないからこっちに来たってわけ」
どうやら二人とも来てはいるようなのだが手芸部の手伝いとして参加しているようで
こちらに来ている余裕はなかったらしい
「ああ・・・そういえばみんなの衣装も凝った感じだったもんな・・・」
それを聞いて好夜は納得すると同時に少し寂しい気持ちにもなっていた
「まぁ本番になれば二人もちゃんとこっちの方で劇を観るはずだから元気出しなさいって」
そんな好夜に敬子はちゃんと本番は見るのだから元気を出せと励ました
「とにかくもう公演が始まるからな・・・お前達も配置についておけ」
そこへ会長はもうそろそろ始まるから好夜達を迎えに来て
好夜達も急いで舞台裏へと戻っていき敬子も自分の席へと戻っていった
「さてと・・・それじゃあ俺達も準備の手伝いをしますか・・・!」
まだ出番のない好夜は裏方の人達の手伝いとして大道具を運ぶ事にした
そして全ての大道具を運び終えていよいよ午前の劇が始まった
『これは昔・・・とある姫と異国より来たりし男の結ばれるまでの試練のお話です』
ナレーションから物語が始まり幕が上がると一人の女性が部屋で座っていた
『彼女はこの国の姫なのですが彼女の父親でもある国王が
勝手に許嫁を決めてしまいその男と結婚する事になっていました
しかしその男はあまりいい噂を聞かない悪い領主だったのです
王や大臣の前では誠実な男を演じてはいますが彼の治めている領地に迎えば
彼がどれほどの横暴を行っているのか耳に残ってしまうほど数多く噂されていました
そんな男と結婚するくらいならばこの国を出て広い世界を見てみたい
そう姫は思ってはいましたがやはり父である王を裏切る事は出来ず
結局は彼との結婚が決まってしまいその式が迫ってきていました』
長いナレーションが終わり部屋に座っていた姫が
窓の向こうを眺めながら物憂げな表情で語り始める
「・・・確かに国を回すのであれば彼の手腕は必要なものでしょうけど・・・
お父様も大臣もあの人の正体を知らないのです・・・
もしかして私は・・・結婚しない方がいいのでしょうか・・・」
本当の事を王に話しても今更、結婚を取り止めることなど出来ないだろう
しかし・・・こうして悩んでいる間にも時は進み結婚の時は近づいていた
「そうだ・・・!結婚が嫌ならば私がこのまま国を出てしまえばいいだわ!
お父様には悲しい思いをさせてしまうけど民を犠牲にしてしまうくらいならば
いっその事、私の夢である外の世界を見に旅に出てしまいましょう!」
姫は自分の夢を諦めて民の未来を不確定なものにしてしまうのならば
城を抜け出して結婚そのものをなかった事にし自分の夢を追いかける事にした
『こうして姫は王に手紙を残して城を抜け出してしまいましたが
彼女は城の外について何も知らずどこへ行けばいいのか分かりませんでした
結局は城下町でどこに向かうかを考えながら歩いていると
許嫁である領主が遣わした追っ手に見つかってしまいます』
「あんたがこの国の姫様だな?悪いが俺達と一緒に城へ戻ってもらうぜ」
慶太が演じる黒服の男は姫の行くてを阻み城へ帰らせようとする
「いやです!あの男と結婚して国を滅ぼすくらいならば自ら命を絶ちます!」
もちろんそんな事を聞くような姫ではなくきっぱりと断りをいれるが
「そうかい・・・だったら力づくであんたを連れて行くとしますかね!」
このまま見逃してくれるわけもなく慶太が無理やりに連れて行こうと近づいた時だった
「・・・あまりいい趣味とは言えないな・・・女相手に大勢の男が詰め寄るのは・・・」
姫の後ろから声が聞こえてきて振り返るとそこには和服のような格好をした男が立っていた
「テメェ・・・俺らの邪魔をしようっていうのか?!」
慶太は邪魔者が出てきた事に対して苛立ちを表現していると男は姫を守るように前へと出る
「邪魔か・・・この人に乱暴な事をしようとしているのならばそうしよう・・・!」
それを聞いて慶太は手下の三人に男を襲わせるが
なんとその男は簡単に三人の攻撃を躱し
さらには腰に下がっている刀を抜かずしてその三人を倒してしまった
「・・・どうやらかなりの使い手みたいだな・・・だったらこの俺が相手をしてやろう・・・!」
慶太も背中の剣を抜いて男に斬り掛かり相手に被っていた笠を切り裂いた
「・・・なるほど・・・先ほどの三人とは違うというわけか・・・
ならば某も抜かせてもらおうとしよう・・・!」
笠を斬られた男は目の前にいる相手が先ほどの三人とは違うと理解したようで
自らも刀を抜いて応戦する事にした
「・・・行くぞ・・・!」
二人の戦いはまさしく紙一重の戦いのようにも見えたが明らかに男の方は優勢だった
そして慶太が空振りをした瞬間に男は彼の持っている剣を真っ二つに切り裂いた
「・・・どうする?これ以上続けるなら今度はその体が同じ事になるが?」
武器を失ってしまいさらに実力の差すらも見せつけられた慶太は悔しがりながらも去っていった
「助けていただいてありがとうございました!・・・あの・・・あなたは一体?」
「失礼いたしました・・・某は遠い東から武者修行に来た者です」
笠を外して素顔を見せた会長はその姫に対して深くお辞儀をする
「それにしても・・・先ほどの男達・・・かなりの使い手でしたが・・・
よかったら某に説明してもらえませんか?」
会長は助けた姫に一体何があったのかを尋ねる
そこで姫は迷ってしまう
なんの関係もない彼をこの事件に巻き込んでしまってもいいのかと
しかし彼ほどの腕ならば今後も来るであろう刺客からも守ってもらえる
どうすればいいのか悩んでいると目の前にいる会長は笑みを浮かべた
「どうやら貴方は心優しい人のようですね・・・ですが既に某は自らの手で巻き込まれたのです
貴方が気を病む事はありません・・・どうかその胸の中をお話しください」
会長は姫が自分の身を案じている事を分かっていたようだ
だからこそ自分が勝手にやった事だと話し彼女の話を聞く事にした
「・・・わかりました・・・全てをお話します・・・!」
ここで暗幕が落ちていき再び上がると二人は店の中にいて姫の話を聞いた後になっていた
「そうですか・・・では先ほどの刺客はその領主から・・・」
会長は先ほどの男達が彼女の婚約者でもある領主からだと知り苦い顔をする
「・・・私は正直今でも迷っています・・・本当にこれでよかったのかどうか・・・
もしかしたら父に話せば分かってもらえたかもしれない・・・
それこそ結婚自体をなかった事にしてもらえた可能性も・・・
でも・・・本当は怖かったんです・・・
もしも父が真実を知りあの男に殺されてしまうかもしれないと思って・・・」
どうやら姫は彼の悪い噂を聞いて国王が殺されるのではないかという心配もあったようだ
だからこそ手紙だけを残して城を飛び出してきた・・・誰も巻き込まない為に・・・
「・・・某も何が正解だったのかまでは分かりません・・・ですが・・・
某もお付き合いさせてもらいましょう・・・答えを探すその旅に・・・!」
『こうして姫と異国より来た男は一緒に旅に出る事になりました
しかし・・・彼らはまだ知りませんでした・・・この旅に待っている試練を・・・』
ナレーションが終わると好夜だけが暗幕の前でスポットライトを浴びて出てきた
「あれが異国より来た戦士か・・・なるほど・・・確かに強そうだ・・・」
たったその一言だけを言ってなんと午前の演劇はこれでおしまいになったのだった
(・・・これ・・・最後の俺は必要だったか?)
最後にだけ出てきた好夜くん・・・可哀想・・・




