敗北から学ぶ
前半は好夜くんがメインで後半が晃平と明希音の話になります!
「そうか・・・野球部は敗退してしまったか・・・」
野球部の観戦に向かっていた明希音から結果を聞いた好夜は悲しそうな顔をしていた
「・・・どうかしたのかい?」
そんな自分に話しかける声が聞こえてきて振り返るとそこには宮園の姿があった
「いや・・・友達が負けたって聞いてな・・・残念だと思ってただけだ・・・」
好夜は誤魔化す理由もないので素直に今の気持ちを伝える
「そっか・・・それは残念だったね・・・」
宮園もそんな相手に対して何かを言えるわけもなく黙り込んでしまう
「・・・そういえばお前のところは他の試合も勝っているのか?」
すると好夜は話を逸らすかのように宮園がいる学校の試合はどうなっているのかと聞く
「う〜ん・・・うちは基本的にテニス部以外はそこまで強くないからな〜・・・
多分だけど初戦敗退している部活が多いんじゃないかな?」
しかし宮園はまるで自分の所属している部活以外に興味はないような感じで話していた
「おいおい・・・他の部活に友達とかいないのか?」
友達の中に負けた人がいるのではないかと好夜は心配して確認するが
「ああ・・・僕の友達は基本的に文芸部が多いからね・・・残念ながら運動部は友達がいないんだよ・・・」
どうやら宮園の友達はほとんどが文芸部に所属しているようで
運動部には知り合いがいても友達と呼べるような人はいないようだ
「・・・なんか・・・ごめん・・・」
気まずい事を聞いてしまったと思った好夜は素直に謝罪すると
「そんなに気にしてないから大丈夫だよ・・・それにさっきも言ったけどちゃんと友達はいるから」
宮園はちゃんと自分には友達がいるので謝る必要はないと言ってくれた
「それに・・・他の学校で友達って呼べる人もいるわけだしね・・・」
さらに自分の学校ではなく他校にも友達はいるのだとも話していた
「そうなのか?それじゃあ自分の学校と当たったら応援しづらいんじゃないか?」
それを聞いて好夜は自分の学校を応援しづらくなるのではないかと心配していると
「いや・・・応援っていうか・・・直接、試合するのは自分なんだよね・・・」
好夜は一瞬だが宮園の言っている事が分からず首を傾げていると
「お〜い!東!」
どこからか宮園を呼ぶ声が聞こえてきて振り返るとそこには晃平に負けず劣らずの巨体が迫ってきていた
「紹介するよ
彼が僕の友達でライバルの車 小平太だよ」
どうやらこちらに向かってきている人物こそが宮園の話していた他校の友達のようだ
「えっと・・・あいつも今回の大会に参加してるのか?」
好夜は嫌な予感がしながら彼が新人戦に出るのかと確認すると
「そうだよ?戦えるが楽しみだね」
その嫌な予感は当たっていたようで彼も同じく新人戦のライバルとなっていた
(・・・勝てる気がしない・・・!)
直接的なプレーをしたわけではないが体を見ただけで好夜は勝てないと確信していた
それほどまでのオーラが彼の体に纏っていたのだ
そしてそれは目の前にいる宮園にも言える事だった
(・・・これは三年間苦労しそうだな・・・俺・・・)
好夜がこれからの三年に絶望しているといつの間にか車が目の前まで来ていた
「ん?そういえばその横にいる奴は誰なんだ?」
すると車は好夜について宮園に尋ねていた
「彼は新しく僕の友達になった人だよ・・・そういえば名前聞いてなかったね?」
宮園が好夜を友達だと紹介した時に車は目を見開いたように驚いていた
「嘘だろ?!お前が友達を作ったのか?!」
どうやら彼にとっては名前を聞いていなかった事よりも
宮園が友達を作るという事に関して驚いていたようだ
「・・・随分と失礼な事、言われてるけどいいのか?」
好夜はあそこまでひどい事を言われているのに言い返さなくていいのかと聞く
「大丈夫だよ・・・彼の言っている通り僕が友達を作るのってかなり珍しいから」
「さっきは済まなかったな!改めて俺の名前は車 小平太だ!よろしくな!」
ようやく驚きから立ち直った車は改めて自己紹介をして二人は握手を交わす
「しかしお前・・・東が友達と認めるって事は相当出来るってことだよな!俺と試合しようぜ!」
すると車は宮園から認められた好夜と是非とも試合をしてみたいと告げるが
「車・・・それをやって手の内を明かしたら部長さんに怒られるよ?」
宮園が部長に怒られるはずだからやめなさいと注意して車は渋々と諦める
「まぁ・・・俺もこの後は生徒会の仕事があるからな・・・悪いな」
好夜が生徒会の仕事があると話した瞬間に二人はさらに驚いたような顔をしていた
「お前、生徒会の仕事もしているのか?!」
どうやら二人は好夜があれだけの実力を持っているのに掛け持ちしている事に対して驚いていたようだ
「まぁな・・・ウチの生徒会は優秀な人しかいないから敷居みたいなのが高くてさ・・・」
それを聞いて宮園は何か引っかかった事があったようで急に何かを考え出した
「・・・なるほど・・・そういえば菓家さんが君の学校で会長をしているんだったね・・・
それなら確かに納得だよ・・・敷居が高いなんて話じゃない・・・」
宮園は好夜の学校で生徒会長をしているのが菓家である事を思い出し
それならば生徒会に入りたいと思う人がいなくても当然だと納得していた
(・・・ウチの会長・・・マジでどんな印象を持たれてるんだよ・・・)
納得されてしまった好夜は改めて会長の学校外での印象が気になってしまった
「そんなわけで悪いけどそろそろ行くわ・・・またな!」
そう言って好夜は機材を持って次に試合会場へと走っていく
「・・・随分と面白そうな奴だな・・・お前が気に入ったのも納得だ」
その後ろ姿を見ながら車はどうして宮園が友達と言ったのか理解したようだ
「そうだね・・・何せ僕の本気を出したラリーに彼は何の焦りもなく付いてきた・・・
もしもあれが本気の試合だったら・・・いや・・・むしろその時を楽しみにしているよ・・・」
宮園は去りゆく好夜の背中を見つめながら自分と戦う時をとても楽しみにしていると笑みを浮かべる
(・・・!?なんかすごく嫌な悪寒が・・・)
こうして今日の試合はすべて終了し野球部だけではない他の部でも負けたという報告が上がっていた
「やはり準決勝ともなると強敵ばかりだな・・・」
会長もここまで自分達の学校が負けるとは思っていなかったようで少し悔しそうな表情を浮かべていた
そんな時に部屋に入ってきたのはサッカー部、部長の真島だった
「・・・どうだった・・・龍間の様子は?」
どうやら会長が彼に負けてしまった龍間の様子を確認しに向かわせていたようだ
「・・・残念だが・・・あれではな・・・私も争う気になれん・・・」
さすがの真島も嫌味を言うのを躊躇うほどに今の龍間は落ち込んでいるらしい
いや・・・おそらくは野球部全員がそんな風に落ち込んでいるのだろう
「正直、俺としてもこんなに早く野球部が敗退するとは思っていなかった・・・」
会長自身もこんなにすぐに野球部が負けるという予想はしていなかった
「何にしても・・・ここからはどの部活にも緊張が走るな・・・」
真島はこの敗退をきっかけにほとんどの部活が意識してしまうと考えていた
特に三年生はこの大会が終わり次第、引退してしまうのだと・・・
「そうだな・・・俺もお前も次の試合に勝てば決勝だ・・・
そして当然・・・そこには強い相手が出てくる・・・」
そしてこの二人もまたその緊張に飲み込まれそうになっているのを必死に耐えている方だった
「そうだな・・・いずれにしても・・・あいつらの無念の為に負けるわけにはいかない・・・!」
二人は絶対にこれからは負けないと改めて決意を固めるのだった
一方、ロビーでは晃平がなんだか落ち着かない様子で座っていた
「・・・どうしたの?こんなところで・・・」
そこへ明希音が現れて一体何をしているのかと聞く
「・・・今日の試合・・・少し思うところがあってな・・・」
晃平は今日の試合に関して何かを考えていたようだ
「そうなんですか?てっきり悔しくて落ち込んでいるのかと・・・」
しかし明希音の方は晃平が落ち込んでいると思ってここに来たようだ
「・・・確かに悔しい気持ちはあったが・・・
同時にあの時・・・好夜はこれを感じていたのだと思ってな・・・」
それを聞いて明希音は何を言っているのかをすぐに理解できた
好夜は自分の住んでいる世界がどれだけ狭いのかと中学の試合で感じ取っていた
そしてその大きさを確かめる為に島を飛び出していった事も
晃平はその気持ちを今まさに感じ取っていたのだ
「俺も人の事は言えないな・・・どうやら悔しい思いよりも
ワクワクしている気持ちの方が大きいようだ・・・!」
今の晃平にあったのは悔しいと思う気持ちだけではなくもっと色んな人に出会ってみたいという
心が躍るようなワクワクした気持ちもあったのだ
「そうだったんですか・・・なら・・・来年はもっと頑張らないといけないですね・・・」
明希音はその気持ちに応える為には来年はもっと精進しなければならないと話していた
「ああ・・・!その為には今日の試合も糧にしてもっと練習しないとな・・・!」
晃平はそれを聞いてもっと練習する必要があると柄にもなく燃えていた
そんな晃平を見て明希音は少し羨ましいとも思っていた
自分にはそこまで夢中になれるようなものは何もなかったからだ
「・・・いつか・・・私にも見つかるかな・・・」
明希音は自分にもそんな夢中になれるものが見つかるかと思っていると
「・・・ああ・・・お前にも見つかるさ・・・俺も手伝ってやる・・・」
どうやら口に出ていたようで晃平は自分も手伝うと言ってくれた
「・・・ふふ・・・そうですね・・・それじゃあ遠慮なく頼っちゃいますね!」
明希音はそれを聞いて遠慮などせずに晃平にも手伝ってもらうと約束させた
しかし今の明希音は気づいてなどいなかった
すでに彼女には夢中になっているものがある事を
だが・・・彼女がそれを理解するにはまだ少し・・・時間が掛かるだろう
何故ならそれは・・・相手にも気づいてもらえなければ意味はないのだから・・・
次回はいよいよ慶太と敬子の方も動き出すよ!




