三年
今回は六人の出会いの思い出話が出てきます
「そういえば俺達がいない間に結構この島も変わったよな?」
帰り道の途中で好夜はこの島が変わっていることに気がついた
何しろあれから三年だ
それなりに風景や街並みも変わっている
「それでなんだけど・・・少しこの辺を案内してくれないか?」
なので好夜は残っていた四人に島を案内してもらおうと思っていた
「晃平もどうだ?」
同じく島を出て行った晃平にも誘いをかけるが
「ありがたいんだが
今日引っ越しの荷物が届くから荷解きしないといけないんだ」
どうやら晃平は予定があったらしくまた今度と言っていた
「私もそのお手伝いをしないといけないから無理かな」
そしてそれを明希音も手伝うらしく残念ながら案内は無理だと言っていた
「そうか〜・・・仕方ない!四人で行くか!」
なら四人で回ろうかと好夜が言うと
「あ〜・・・ごめん!私も今日は友達と買い物の約束があるから無理!」
どうやら敬子にも予定があったらしく無理だと言っていた
「そうなのか?それじゃあ俺達三人だけで行」
「あんたは私の買い物の荷物持ちよ!」
「なんで?!」
いつの間にか敬子のつき合わされることになった
慶太は納得がいってなかった
すると敬子が胸ぐらを掴んで小声で話し始める
(あんたはバカなの?!せっかく二人っきりにするチャンスなのよ?!)
実は先ほど敬子が言った友達と買い物は嘘で
本当は好夜と命を二人っきりにしようと考えていたのだ
そのためには慶太は邪魔なので
なんとか理由をつけて切り離すしかなかった
(・・・わかったよ・・・)
慶太はとても不服そうにしていたが
そこはさすがに空気を読んだのか了承した
「そんなわけで俺も行けなくなったわ・・・すまんな」
そう言われた好夜は仕方ないかと考え
「それじゃあ命に案内してもらうか」
結局命と一緒に島を回ることにした
「全く・・・せめてもうちょっとうまい言い訳考えろよな・・・」
慶太は先ほどの言い訳に対して
もっといい方法があったのではないかと文句を言っていた
「しょうがないでしょ?!大体あんたも空気を読みなさいよ!!」
それに対して敬子は慶太が空気を読んでいれば
あんな言い訳しなかったと反論する
「なんで俺のせいになってんだよ?!
お前だって本当は晃平達が断ったのをみて気づいたんだろ!!」
慶太の言っていることは正しかった
実際に敬子は最初は慶太と同じく何も考えてなかったが
晃平達のやり取りを見てようやく気がつき案内を断ったのだ
「うっ」
図星を突かれた敬子は特に反論することができず
ただ顔を赤くして俯いた
「・・・そういえばこれからどうするんだよ?」
すると慶太がこの後の予定を聞いてきた
先ほど案内を断った手前もあり
さすがに商店街とかに行く気にはなれなかった
「・・・帰るしかないんじゃない?」
しかし他に行くところもなかった敬子達には帰る事以外なかった
「・・・今度埋め合わせしろよ」
それを聞いた慶太は次あった時に埋め合わせをするように言った
「はい・・・」
何の計画もなかった敬子は罪悪感を感じており
とにかくこの埋め合わせをしようと思うのだった
(あれ?ちょっと待って・・・
これってもしかして・・・デートの約束?!)
そして同時にこれがデートの約束なんだと
思い込んだ瞬間に顔が熱くなっていき
「プシュ〜・・・」
「おっおい敬子?!敬子ぉぉぉぉぉ?!!」
「慶太が空気を読むのは意外だったな」
自分の部屋で荷解きをしながら晃平は先ほどの事を思い出していた
「まぁ・・・敬子ちゃんに言われて
仕方なくって感じもあったけどね・・・」
実際は明希音の言う通り敬子が指摘して切り離さなかったら
多分あのまま付いて行ったであろう
「つまりは何も進展してないと言うことか・・・」
そして晃平はそれはつまり敬子の恋も
上手くいっていないのだと確信した
「しょうがないよ・・・
恋ってそんなに上手くいくものじゃないでしょ?」
明希音は恋愛がそんなに上手くいくはずはないと考えていた
なぜなら自分がそうだったらから
結局晃平が島を出て行く際に自分は何も言えなかった
好きだと・・・たったその一言が・・・
だからこそ敬子が素直になれない理由もわかっている
(だからといっていつも喧嘩してるのはあれだけど・・・)
明希音は自らの恋にはもう諦めようかとも考えていた
しかし今年に入ってすぐに晃平が帰ってくると知り
まだ自分は諦めてはいけないのだと思った
だが・・・それでもまだ・・・言えずにいる・・・
たった一言の・・・その言葉を・・・
「はぁ〜・・・そろそろ休憩にするか・・・」
そんなことを考えていると晃平がそろそろ休憩にしようと提案してきた
「そうだね!少し休憩しようか!」
明希音はそれを聞いて少し助かったと思っていた
(さすがに本人を前に考えるのはまずかったかな・・・)
「う〜ん・・・思った以上に変わってたな・・・」
島を一通り回った好夜は自分がいなかった三年間に
どれだけ変わっていたのかをすごい感じていた
「三年か・・・思った以上にデカかったな・・・」
好夜は三年がどれだけ大きかったのかをその身で感じた
「好夜くん・・・」
その寂しそうな顔を命は心配そうに見つめる
「・・・好夜くん・・・もう少しだけ付き合って・・・」
そして何かを決心した命は好夜をある場所へと連れていくことにした
「命?」
「ここは・・・」
命に連れられて好夜が辿りついたのは公園だった
しかしここはただの公園ではない・・・ここは・・・
「うん・・・私と好夜くん・・・そしてみんなと出会った場所・・・」
昔の命は大人しくお嬢様で友達がおらず
その所為でずっといじめられていた
もちろんはそれは学校の外でもありこの公園に呼び出されて
ここで彼女は自分の大切な髪留めを隠されてしまったのだ
命は必死で探しまわった
なぜならその髪留めは誕生日の日に母からプレゼントしてもらったものだったから
もし失くしたと知れば母はきっと怒るだろう
だからこそ命は手が泥だらけになるのも厭わず探した
しかしその髪留めは全く見つからず時刻は夕方になっていた
「どうしよう・・・お母さんになんて・・・」
そしてもうダメだと思っていたその時だった
「何泣いてるんだ?」
彼と出会ったのは
「髪留め・・・無くしたの・・・」
命は藁にもすがる思いで好夜に事情を話した
しかし命はどうせ手伝ってくれないと思っていた
それほどまでに当時の命は人を疑っていた
だが・・・
「髪留めを探せばいいんだな?」
そう言って好夜はすぐに手伝ってくれた
それが命にとっては信じられなかった
「どう・・・して・・・」
思わずどうして手伝ってくれるのかと疑問を口に出してしまっていた
「ん?泣いてる女の子がいたら助けるだろ?普通」
それ聞いた命はさらに驚いてしまった
まさかそんな理由だけで助けてくれるとは思ってなかったからだ
しかしそんな考えとは裏腹に好夜は真剣に必死に探してくれた
「そんなところで何してるんだ?」
するとそこへ晃平と明希音が近づいてきた
「実は・・・」
好夜は二人にも事情を説明すると
「そうだったのか・・・だったら俺達も探すの手伝うよ」
二人は何の迷いもなく協力してくれた
「四人だけで見つかるの?」
さらにそこへ先ほどの話を聞いていた敬子と慶太も現れた
「どうせだったらみんなで探そうぜ!」
こうして彼らは六人で髪留めを探し回った
そして日が沈みそうになった頃だった
「あったぞ〜!」
「全く・・・まさか植木の中に入ってるとは思わなかったぞ・・・」
どうやらいじめっ子達はご丁寧に植木の中に埋めて隠したらしい
「とりあえずそこの水場で洗うか?」
土まみれの髪留めを見て好夜は水場で洗おうとすると
「ううん・・・このままでいい・・・」
命がその手を握りこのままでいいと髪留めを受け取る
「ありがとう・・・!」
これが好夜達六人の出会いだった
「そうだったな・・・あの日から俺達は仲良くなったんだよな」
好夜は昔を思い出すかのように懐かしんでいた
「確かに三年で変わったものもあるけど・・・」
「変わらないものもあるんだよ」
「ああ・・・そうだな・・・」
好夜は命の笑顔を見てようやく元気が出てきた
「・・・ありがとうな・・・」
そして好夜は命に感謝する
「・・・うん!」
命はその笑顔を見てようやく約束を果たせた気がした
好夜が帰ってきたら笑顔で迎える
ある意味で命はようやく笑顔で迎えることができた
「うし!一通り回ったし帰るか!」
「今日はありがとうな!」
好夜は命を家まで送り教科書等を玄関に置いた
「ううん・・・好夜くんが元気になってくれてよかった」
命は好夜の笑顔が見れたのでそれだけで満足していた
「それじゃあまた明日な!」
そう言って好夜は家を後にする
「うん・・・また明日・・・」
命はその後ろ姿が見えなくなるまで手を振り続けた
「はぁ〜・・・緊張した〜・・・」
そして好夜の姿が見えなくなった瞬間に
緊張が解けてその場に座り込んでしまった
「好夜くん・・・カッコ良くなってたな・・・」
どうやら命が思っている以上に好夜は成長していたらしく
昔以上にかっこいいと思っていた
「う〜・・・明日からどうすればいいんだろ〜・・・」
同時に今までの想いがあるせいか
好夜の顔を見ただけで顔を赤くしてしまっている自分がいた
さすがに毎回顔を赤くして恥ずかしがっていれば
誰だっておかしい人だと思ってしまうだろう
なので命はなんとかしなければと考えるのだが
「・・・って言っても・・・そんなの無理だよね・・・」
残念ながらこれは感情の問題なので
理性だけではどうしようもなく諦めるしかなかった
「・・・命・・・変わったよな・・・」
そして好夜は自宅に帰る道でずっと命のことを考えていた
(・・・綺麗になってたな・・・)
自分がいなかった三年間で命は成長しており
あんなに綺麗になっているとは思っていなかった
「って!俺は一体何を考えてるんだ?!」
命のことを思い出すだけで好夜は顔が赤くなってしまっていた
(ヤベェ・・・また明日とか言っておきながら
恥ずかしくて顔合わせ辛いんだけど!)
好夜は明日の学校の時にどんな顔をすればいいのだろうと
答えがあるはずのない問題について必死に悩むのだった
「「はぁ〜・・・三年か・・・」」
三年でお互いに成長していた二人
相手の成長に対して思わず恥ずかしくなってしまうのだった




