好夜達の接客
今日は休暇回です
蓮花が来てくれたおかげでどうにかお客様への対応をしなくても良くなった好夜達だったがまだ試練は終わっていない
確かに命の祖父がやるはずだった事は蓮花がやってくれるのだが今度は実善の代わりをしなくてはいけなかったのだ
もちろん完璧にやる必要などはないのだがそれでも粗相をしてしまうのは流石にまずいと好夜達も理解している
それでもやらなくてはいけないのだと理解しており好夜達は覚悟を決めて接客に挑もうとしていた
するとどうやら時間が来たようでインターホンが押されると好夜は急いで玄関に向かい蓮花と一緒にお客様を迎える
「本日はお越し頂き誠に有難うございます。此度は主人の不手際でお相手を出来なくなってしまい
誠に申し訳ございません。代わりに妻である私がご用件などを承りたいと思います。何卒よろしくお願い致します」
「おや?今日は蓮花さんが居てくれるとは・・・それよりもそこまで畏まらなくてもよろしいのですよ?
それにしてもあの人は・・・まさか約束の日にぎっくり腰が理由で謝罪してくるなど・・・彼くらいですよ」
やってきたお客様はどうやら蓮花達とは旧知の仲だったようで敬語で話す蓮花にそんな必要はないと告げていた
それと同時に今回、会うはずだった巴の祖父がまさかのぎっくり腰で来れなくなった事に対して呆れている様子だった
確かに彼の言う通り後にも先にもぎっくり腰が理由で人に会う予定をキャンセルするなど他にはいないだろう
そんな中で彼が気になっていたのは蓮花と一緒に自分の出迎えをしてくれた好夜であり彼は何者なのかを問う
「彼は孫の同級生で今日はあの馬鹿に付きっきりになってしまっている実善の代わりを勤めてもらいます」
「そこまでしてもてなしてもらう必要はないのですがね・・・まぁ形式上は必要な事なんですよね・・・
分かりましたからその目をやめてもらってもいいですか?私だって好きで偉くなったわけじゃないんですよ?」
どうやら本日のお客様はとても大らかな人だったようでこれならば少しくらいの失敗も大丈夫だと安心する
お客様本人もそこまでしてもてなしてもらう必要はないと思っているようだったが蓮花がそれを許してはくれない
いくら旧知の間柄だとは言っても偉い身分である事に代わりはないのでちゃんと態度を示して欲しいのだろう
だが彼としては別にそんな事の為に偉くなろうと思っていた訳ではないのでなんとも複雑な気分のようだ
その後、好夜は蓮花と共にお客様を応接室まで案内しそこで一旦、お茶を運ぶ為に部屋を後にするとお客様が告げた
「・・・今時の子にしては随分と肝が据わっていますね・・・相当に苦労したのが十分に伝わってきますよ・・・
だからこそ同時にとても良い子なのだという事がよく分かります・・・お孫さんは良いご友人を持ちましたね?」
「・・・ここだけの話ですが・・・彼に関して言えば別に友人という関係で終わらせるつもりはないと思いますよ?
本人達はあまり自覚していないようですが・・・こちらからしてみればうんざりするほどに意識してますよ・・・」
まさか蓮花からそんな言葉が聞けると思っていなかったのかお客様はそれを聞いて笑いを隠せない様子だった
「そりゃまた楽しみな少年ですね〜!・・・いやはや・・・若いとは本当に眩しい事ばかりですよ・・・」
こうして話し合いは上手く進んだようで特に問題もなく終わり時刻は既に夕刻を迎えようとしている頃だった
流石に話が長引いた所為なのか、二人ともお腹を空かせていたようでそこへ好夜が現れてリビングへと案内する
二人はリビングに向かうと豪勢な料理が並べられておりとても嬉しそうな声を出しながらお客様は席に座る
それを手伝った後、好夜は二人にグラスにワインを注ぎ部屋の隅に戻ると二人は命達の作った料理を食べる
「うん・・・!なんとも言えぬ旨味・・・これは一流の料理人を比べても遜色はないかもしれませんな・・・
これはもしかして蓮花さんのお孫さんが作ったのですかね?だとしたら凄い努力をなさったのでしょうね」
「ええ・・・料理の努力はどんな人に食べて欲しいかを想像すればするほどに楽しくもなっていきますからね
そう言った意味ではあの子の努力は今でも続いているしこれからも続けていくのでしょう・・・ね?好夜君?」
そこでどうして自分に振られるのか全く分からない好夜ではあったがとりあえずは苦笑いを浮かべながら返事を返す
その言葉を聞いてあまり彼らの事情を知らないお客様ですらこの先も苦労する事になりそうだと笑っている様子だった
そんな中で注がれたワインを飲んでいた時にふと疑問に思ったのが自分が今も飲んでいるワインの事だった
(そういえば・・・彼らは未成年なのによく私がこの家に来た時に飲むワインの銘柄を知っていましたね・・・
実善さんに聞いた?いやだとしてもワインの銘柄を言葉だけで伝えるのはかなり難しいはずなのに・・・)
お客様が気になっていたのは好夜達がどうやって自分の飲むワインの銘柄を当てて持ってきたかという事
確かに一番、可能性として高いのは実善に教えてもらったとものだがそれだけでワインの銘柄を当てられる訳じゃない
実際、ワインの銘柄を教えられたとしても中には達筆な字で書かれた物や擦り切れてラベルが読めないものもある
それにも関わらず持って来れたという事は何かしらの方法で覚えていたという事なのだろうが問題はそこ
彼がこの家に来たのはかなり前の事であり残念ながらその時に会っていたのは命の祖父と実善の二人だけ
つまりこの場にいる全員がワインの銘柄などを覚えているはずもなくその事に対して疑問に思い聞いてみる事にした
「すまないが君・・・どうして私がよくこの家でこのワインを飲ませてもらっていると気づいたのかね?
もしかして実善さんに教えてもらったのかな?だとしたら言葉や文字だけでよくこれだと分かったね?」
「あっいえ、実はそのワインを選んだのは命でして・・・なんでも前に来た時に実善さんが運んだのを見たそうです
でもすいません・・・流石に未成年なので実善さんみたいにテイスティングとかはちょっと・・・」
どうやら好夜が覚えていたわけではなく命が前に彼が来ていた時に実善がこのワインを運んでいたのを見たらしく
それを思い出して蔵を探してコレを見つけ出して出してくれたのだが一つだけ一緒に出来ないものがあった
それは他でもないテイスティングでありコレは年齢というどうあっても超えられない壁によって阻まれたのだった
「・・・あはははは!そうかそうか!確かに飲む前にやってもらっていたが私もすっかり忘れていたな!ははは!」
こうしてお客様のもてなしは成功したようで彼はとても満足そうな表情を浮かべながら宿へと向かった
お客様の見送りをした後、好夜達は精神的な疲労からかリビングで完全に力が抜けてしまい倒れている様子だった
「流石に疲れた・・・てかなんで大会が終わった後なのにこんな疲れる事をしなくちゃいけないんだよ・・・
あの爺さんめ・・・帰ってきたらそれ相応の報酬を貰わないとマジで割に合わないぞ・・・期待してないけど」
「それなら安心しなさい。私の方からちゃんと今回の事は仕事としてお給料を払わせますので・・・」
そう言っていた蓮花の顔は全くと言っていいほど笑っておらず何故か夏なのに温度が急激に下がっていく感じがした
それほどまでに彼女も今回の事に関して怒っているのだと好夜は思っておりその対応に苦笑いしていると
命達が現れると同時に先ほどお客様に出した料理を持ってきてくれたらしくテーブルに並べ始める
「それじゃあ後は皆さんでゆっくりとしなさい。私もこれからあの人と話さなくちゃいけないし仕事もあるから
朝早くに島を出なくてはいけないので少しだけ早いですがもう寝かせてもらいます・・・騒ぐのはダメですよ?」
蓮花は急に島へ来た事もあり明日の朝イチの船で本州に帰らなくてはいけない事もあり寝室へと向かった
好夜達はその姿を見て本当に助かったと感謝すると同時に自分達と同じく振り回されて大変だと思っていた
ともかく接客は終わりを迎え好夜達は少しだけゆっくりさせてもらおうと命達が作った料理を食べる事にした
「やっぱり美味いな〜・・・なんか疲れ切った体に染み渡るみたいだ・・・自分で言ってジジ臭いと思ってしまった」
「分からんでもないがな・・・だがある意味では良い休暇にはなったかもしれん・・・体は適度に休めたし
礼儀作法とかも教えてもらえたからな・・・それにこの日だけだが大会の事を忘れられた・・・」
どうやら晃平達にとって夏の大会は思った以上に心に来ていたようで少しだけ落ち込んでいる様子だった
それをこの日だけではあるが忘れられたのは確かに良い事なのかもしれないがあくまでもこの日だけ
明日になれば再び思い出してしまう可能性もあったが明日の事など誰にも分からないのが現実だ
(・・・それにこんな料理を食べてしまったら明日になったとしても料理の味を思い出してしまうだろうしな・・・
本当に今日は思っていた以上に良い一日にさせてもらったようだ・・・ある意味でお爺さんに感謝かな?)
それでも晃平にとってはやはり今日はこれ以上ないほどに良い一日になったと思っているようで少しだけ感謝していた
とはいえ巻き込まれてしまった事実には変わりないので本人にその感謝の言葉を告げる事は決してないだろう
これに関しては命の祖父の自業自得なので何も言う事はないし彼らにお礼を渡すのも当然の事だと考えていた
そして命の料理を食べ終えた好夜達はしばらく家で休ませてもらってからそれぞれの家路につくのだった
(・・・忙しかったけど・・・楽しい一日であった事に変わりはないか・・・あの爺さんには文句を言うけど
命が俺を頼ってくれたのは嬉しかったし・・・蓮花さんのお仕置きだけで勘弁させるとしますかね・・・)
次回も夏休みは続くよ!




