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熱き夏の終わり

大会編終了!

こうして長かった好夜達の大会は終わりを迎え全国へと勝ち進んだのは残念ながらサッカー部の一つだけだった

しかしこれはどこの高校にも言える事でありむしろそこまで勝ち残れる事自体がまさに奇跡とも言えるような事

それを勝ち取ったのが今年はサッカー部だったというだけで別に他の部員達が悪かったという訳では決してない

それでも勝っていればと考えてしまうのも無理はなくそれほどまでに悔しいという気持ちを誰しもが持っていた

そこで悔しいと思い続けるかそれともその気持ちを抱いて前に進めるかどうかが来年の勝利に繋がる鍵であり

既に負けた直後から自分達には何が足りなかったのか、どうすれば良かったのかを考えて行動する男達がいた

(やっぱり宮園の方が俺よりも手札が多かった・・・それに比べて俺の使える手札はサーブとジャックナイフの二つ

 しかもそれを後半まで続けられる体力も必要か・・・やる事はかなり多いが明確な指標は出来た・・・!)

今回の敗北で好夜はどうすれば宮園と対等に戦う事が出来るのかを考えては来たが実際に本人と戦い

そこでようやく明確な指標を手に入れた事でこれからどこを重点的に伸ばしていけばいいのかと理解する

確かに今回は力が及ばなかったがそれでもただ負けた訳ではなくちゃんと次の糧になるだけの試合が出来た

そしてそれは好夜に限った話ではなく同じく決勝で負けてしまった野球部や他の部活に関しても同じように反省し

来年の大会でそれを埋めて今度こそ全国へと進めるように努力しようと考えている中でたった一人・・・

決勝戦で負傷してしまい奇しくも途中で交代する事になってしまった伊勢谷だけは前に進めていなかった

その理由は自分が怪我をしてしまい交代する事になってしまったというのもあるのだがそれ以上に決勝戦で戦った四番

佐伯と戦えなくなってしまったという事実が彼の胸に重く刻まれてしまっているのが一番の理由となっていた

言ってしまうのならば彼にとってもう熱い試合が出来るかもしれない理由がなくなってしまったのだ

(・・・あの試合・・・勝っても負けても最後までマウンドに居たかった・・・それなのに俺は・・・!

 悔しい・・・!自分に何が足りなかったのか何が必要かだったのかなんてどうでも良いほどに・・・悔しい!)

伊勢谷はたった一人、公園のベンチで悔し涙を浮かべながら決勝戦での出来事を思い出し後悔していた

もちろん佐伯とはこれから戦う機会はあるかもしれないがそれでもこの高校の大会で戦う機会はもうない

本人からも次に会う時を楽しみにしていると言われたが実際、それがいつになるかはどちらにも分からない

だからこそ伊勢谷はどうして怪我をしてしまったのだと思いながら怪我をしている腕を見ていると

視界の中に誰かの足が入ってきて伊勢谷はその涙に濡れた顔で上を見上げるとそこに立ってたのは三年生の近江だった

「会議に出ていないから探しに来てみたら・・・こんなところに居たのか・・・みんなが待ってるぞ?伊勢谷」

「・・・近江副部長・・・でも・・・俺はみんなに合わせる顔がない・・・!俺は俺自身が許せないんです・・・!」



「・・・そんなのはお前だけじゃない・・・俺らだってお前と似たような気持ちだよ・・・」



「・・・確かに俺達は三年生で大会にも出れた・・・決勝戦まで勝ち残った・・・でも全部、俺達がやった事じゃない

 三年生なのに俺らは後輩である津城に部長という責任を押し付けて今度は一年生のお前にエースを任せた・・・

 とてもじゃないけど胸を張れるような先輩じゃない・・・何せお前ら後輩におんぶに抱っこだったんだからな

 ・・・だからお前の言いたい事はよく分かるんだよ・・・俺達は多分、この先も自分達の生き方を後悔する・・・」

そう・・・近江達三年生は今回の大会で確かにスタメンとして出てはいたが活躍した場面は一つとしてなかった

この決勝戦まで勝ち上がってこれたのは間違いなく部長である晃平とエースである伊勢谷の活躍が大きい

だからこそ何も出来なかった自分達を近江達三年生は恥ずかしいと感じており伊勢谷が怪我をして退場した時

本当ならば何の心配もいらないと後輩を励まさなくてはいけなかったのに自分達にはそれが出来ず結果、敗退した

今年が最後だった近江達にとっては最も苦い思い出として今年の大会は胸に刻まれる事になってしまっただろう

それこそ先ほどまで伊勢谷が涙ながらに語っていた自分を許せないという気持ち、三年生にとってもそれは同じだった

まさか近江達がそんな気持ちを抱いているとは微塵も思っていなかった伊勢谷は少しだけ驚いた表情を浮かべていたが

同時に彼らのこれまでを思い出して確かにそう言った感覚を持っていたのは一年生である自分にも感じ取れていた

それでも口に出さなかったのは部の雰囲気を壊さない事と自分達の気持ちを保つ為だったのだろうと言うのも分かった

「・・・でもな・・・そんな俺達でもやっぱり自慢出来る事が一つだけあるんだ・・・それはお前らと野球が出来た事

 別に上手くもない自分達が凄い選手と戦ってしかも大会の決勝まで勝ち上がった・・・全部、お前らのお陰なんだよ

 俺達だけなら決してこんな夢を見る事すら出来なかった・・・本当にお前らには感謝してもしきれない・・・」

「そっそんな事ないっすよ!確かに俺達も頑張りましたけど・・・先輩達が居なかったらここまで来れなかった・・・

 色んな事をフォローしてくれたからこそ俺達は決勝戦まで勝ち上がれたんだと思ってます・・・だから・・・」

伊勢谷は必死に言葉を出そうとするがどんな風な言葉にすればいいのか分からず慌てている様子を見て近江は笑う

そしてそんな気を使う必要はない事を告げ自分達が今、どんな気持ちを抱いているのかをゆっくりと伝える

「・・・正直、俺を含めた三年生はもう公式での野球をする事はない・・・そもそもそんな成果もないからな・・・

 それでもやっぱりお前達と出来た野球は俺達にとっての誇りだ・・・!だから絶対に来年は諦めるんじゃないぞ!

 俺達が居なくなった後のお前らはもっと強くなれるはずだ・・・!そして今度こそ・・・甲子園に進め・・・!」

おそらくその言葉は自分の無力さと無念の両方を飲み込んで出した言葉でありその一言にどれほどの重みがあるのか

それは直接聞いた本人である伊勢谷には痛いほど理解出来たようで先ほどまでの悔し涙を拭い立ち上がって宣言する

「はい!必ず先輩達の無念を・・・そして来年こそは三年生を・・・みんなを甲子園に連れて行きます!」



「・・・頼んだぜ・・・お前は間違いなくこの野球部のエースなんだからよ・・・」



その頃、生徒会である足立達は機材を片付けて帰る準備を行いながら今回の大会に関して思い返していた

今年はいいところまで進んだ部活が多くそれ故に全国に進めなかった事を悔しいと強く感じてしまうのも無理はない

それを誰よりも感じているのは応援していた彼らでありおそらくは選手達よりも全国へ行ってほしかった思いは強く

それが叶って欲しいと精一杯応援しこれまで支え続けてきたので選手達の心境が痛いほどに理解出来ていた

「・・・なんか大会って残酷ですよね・・・必ずと言っていいほど結果が残り・・・勝者だけが先に進める・・・

 もちろん全員が勝ち上がれたらなんて甘い事は言わないですけど・・・それでも・・・勝ってほしかったですね」

「・・・ええ・・・選手達も精一杯を出し尽くし・・・それでも報われない事なんて当たり前なんでしょう・・・

 そこに明確は勝ち負けがある以上・・・どちらかが勝って先に進みどちらかが負けてその場を去る・・・

 古来から勝負という世界はそんなものです・・・それでも・・・人は勝ちというものをどうしても欲する・・・」

どうして人々が勝利というものを欲するのかは自分でも分からないと足立は告げるが真司は何となく分かっていた

おそらく勝利とはそれ自体に意味があるのではなくそれを得る事によってこれまでの努力を証明する事が出来る

つまりみんなは誰よりも自分が努力したのだと・・・誰よりもその競技を愛しているのだと証明したいのだろう

そしてそれを明確に表す事が出来るのが他でもない勝利する事であり故に人々はずっと勝負を続けていくのだ

(・・・それでも・・・負けた方が競技を愛していないのかと言われれば・・・そんな事は決してない・・・

 負けた方だって悔し涙を浮かべて・・・どうして自分が負けたのかを考え・・・そして後悔する・・・

 負けから得るものだってもちろんあるけど・・・その為にはまず自分の負けを認めなくてはいけない・・・

 それはたとえどんな人であろうとも・・・辛い事に変わりはないはず・・・きっと先輩達にとっても・・・)

負けて悔しくない人間などおそらくこの世のどこにもいないはず、それでも負けを認めなくては先には進めない

勝利が自分の好きを証明する事になるのならばおそらく負けは自分自身を変えなくてはいけないきっかけなのだろう

しかし人はそんな簡単に負けを認めて変われるほど強い生き物ではなくどんな人であろうとも立ち止まる時間が必要

もちろんそれは好夜達も例外ではなく今は試合の結果を受け止める時間なのだろうと真司は考えていた

「・・・大丈夫ですよ・・・彼らは去年もこの悔しさを受け止めてきました・・・今年だって同じです・・・

 きっとまた来年に向けて動き出すはず・・・私達はまたその時に彼らを支えられるように準備しておきましょう」

そして足立もきっと彼らならばこれくらいの事は乗り越えられるはずだと信じており自分達はむしろその先

立ち直った彼らが再び来年の大会に向けて色々な事をする時に支えられるよう準備をしておこうと真司に告げる

真司もその通りだと頷きながら早速、島に帰ったら今年の大会を写した映像を整理しようと考えるのだった



(きっとこれも必要になってくるはず・・・その前にいつでも借りてもらえるように整理しないと・・・!)

次回から学園に戻ります!

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