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魂の一投

運命の勝負!

序盤から大いに試合を盛り上げてくれている二校に会場は大盛り上がりであり自ずと応援にも力が入っていた

二回の表は晃平という強打者がいなくなった事もあり村上も本来の調子でアウトを取り三者凡退に抑える

そして迎える二回の裏はおそらくこの大会で村上と晃平の対決と同じくらいに注目されている二人が対峙する

そう・・・この回で初めて伊勢谷と向こうの四番を背負っている佐伯の二人が直接、対決をするのだった

佐伯をバッターボックスに迎えて伊勢谷は人生で二度目のどうしても弱気になってしまう事を考えていた

それはどこに投げても打たれてしまうような最悪なイメージでありこの感覚を味わうのは晃平以来だった

しかも今回はそれが絶対に負けられない試合での体験であり伊勢谷はそんな弱気な心をなんとか振り払う

(そうだ・・・ここまで俺は努力を続けてきた・・・そう簡単にやられるわけにはいかない・・・!)

(へぇ?さっきまで少し怯えていた様子だったのにもう雰囲気が変わったか・・・これは楽しめそうだ・・・!)

佐伯も伊勢谷の雰囲気が変わったのを感じ取ったようで思わず笑みを浮かべてしまうが今は真剣勝負の最中

すぐにその笑みは消え次の瞬間には伊勢谷でなくても萎縮してしまうようなオーラを放ち始める

それは観客席にも届いているようで先ほどまで応援していた人達も思わず息を呑んでしまう

そんな中、伊勢谷はサインに従ってボールを投げると佐伯はバットを振らずにその球を見送った

その理由はもちろん外に大きく外れてボール球になると見抜いていたからでありどうやら球は見えているようだ

(なら無駄に球を投げるのは得策じゃない・・・ここは真正面からの勝負に切り替える・・・!)

(どうやらさっきので俺に揺さぶりは効かないって分かったみたいだな・・・次は真正面だ・・・!)

みんなが緊張する中、伊勢谷の手から投げられた球はそのままキャッチャーのミットに向かって飛んでいく

しかし佐伯もそれを許す事はなくその球をバットで捉え大きく打ち上げる事に成功したのだが本人は顔を歪ませる

(・・・芯に捉えられなかったか・・・俺も向こうの四番打者を偉そうには言えないな・・・)

顔を歪ませた理由はバットの芯に捉える事が出来ず手応えとしてはアウトになると確信したからのようで

本人の考えていた通り、打球はスタンドまで届く事はなく大きく下がっていたライトのグラブに収まった

これにより会場は再びの大盛り上がりを見せて観客席は大喜びを見せていたが伊勢谷だけは違っていた

(さっきの打球・・・おそらく芯に当たっていたらホームランになっていた・・・しかもあの様子だと次は・・・)

一見すれば伊勢谷が打ち取ったようにも見えるが実際は初対決で佐伯がバットの芯を外してしまっただけであり

次の対決では必ずその修正を行い今度こそ芯に球を捉え打球はスタンド席に入ってしまうのは間違いなかった

それは佐伯と対決した伊勢谷が一番理解している事であり今のままでは駄目だと理解させられた瞬間だった



「・・・向こうの投手も凄いね〜・・・まさか初球を見送ったにも関わらず振り遅れるとは・・・参った」

「その割には随分と楽しそうな顔をしてるな?やっぱりお前としても自分と戦ってくれる相手が居るのは嬉しいか?」

強豪と言われている野球部においても二人の実力は飛び抜けており将来はプロすらも視野に入れられているほど

そんな彼らだからこその悩みはその高すぎる実力故に自分達と対等に戦えるだけの存在がいないという事

そしてそれは甲子園という大きな舞台であっても同じであり結局のところ彼らと戦えるのは目の前の相手のみ

つまり村上と佐伯、両名の強い敵と戦いたいという欲求を満たしてくれるのは現状、晃平と伊勢谷の二人だけだった

だからこそ二人はこの戦いを誰よりも楽しみにしており正直、大会での勝敗など気にしている様子もなかった

「とは言え・・・やるからには全力で戦うのが選手としては礼儀だ・・・次は必ず打ってくれるんだろうな?」

「当たり前だろ?てかそっちだって条件は似てるようなもんだろ?多分だけど次・・・打たれてもおかしくないぜ?」

佐伯の言う通り今回の勝負は彼らだけではなく村上と晃平も重要になってきておりどちらが先に点を取れるか

もっと簡単な話をするのならばどっちの四番打者が先にホームランを打つかが勝負の鍵を握っていると言ってもいい

そして次にやってくる勝負は晃平と村上の二人であり先ほどの感じからして次は打たれる確率がかなり高い

それは他でもない村上本人が自覚している事でありだからこそ色んな対策を考えているのだが全て無駄だと思っていた

何故ならば晃平はそんな思考で考えたところで打ち取れるような選手ではないと彼自身が理解しているから

故に出した結論はたった一つでありそれは何も考えず己の全力投球で勝負するという事だけだった

「それで打たれてしまった場合に関しては・・・お前が取り返してくれ・・・ウチの四番さんよ?」

「いやいや・・・そこは必ず抑えるからホームランを打って勝負を決めようくらいは言ってくれよ・・・」

普段ならば絶対に聞ける事がない村上の弱気を聞いて佐伯は不安がるどころかむしろ楽しそうな表情を浮かべる

それほどまでにもしかしたら人生で最も熱くなれているかもしれない試合に心が躍ってしょうがなかったのだ

おそらく・・・いや・・・絶対に村上も同じ思いでこの試合に臨んでおり先ほどの言葉の弱気になっているのではなく

自分が勝負したとしても決して勝敗が分からない戦いに対して昂っているが故の言葉だと佐伯は考えていた

(まぁ・・・それは俺も同じ・・・次の打席に立ったとしても向こうの球をスタンドまで飛ばせるかどうか・・・

 最悪、塁に出れたとしても残塁する可能性の方が高いだろうしな・・・ホームラン狙いしかないか・・・)

伊勢谷の成績を考えるのならばたとえ塁に出れたとしても残塁する可能性は十分に高くそれでは点を取れない

つまり佐伯が狙うのはホームランの一択のみでありそれは彼にとって燃える展開と言っても過言ではなかった

(本当にここまで試合を楽しいと思ったのは何年振りだろうな・・・!早くまたバッターボックスに立ちたいぜ!)



こうして最初の勝負を終えた後は特に変わった様子もなく三回、四回共にどちらも塁に出る事なく打者一巡

そしていよいよ五回の表になりワンアウトを迎えて再びバッターボックスに立ったのは晃平だった

二度目の対決という事もあって今度は必ず打ってくれるはずだという期待の気持ちが観客席からは伝わってきた

本人もそれに応えようという気持ちがあるのか、気持ちを引き締めており明らかに一打席目とは目の色が違った

(初回は去年とどれだけ変わったのかを見定める為の言うならば前座・・・本当の勝負はここからか・・・)

村上もそれに気がついたようで目の色が変わった晃平の事を警戒しており自然と肩に力が入るようになっていた

もちろん負けるつもりなどは一切なく村上はまさしく己の持てる全力を使ってボールをミットに向かって投げる

最初は晃平も見送っていたがそれはあくまでも村上がどう出てくるのかを見る為であり一球を見て安心していた

それは彼が自分と真正面からの勝負を望んでくれていると理解したからであり後は自分がそれに対して応えるだけ

そして誰しもが緊張する中、再び村上から放たれたボールは先ほど以上の速さでミットへと飛んでいく

しかし晃平もそれを感じ取っていたのか先ほどよりも早くバットを振って見事、ボールを芯に捉える

明らかに先ほどとが違いボールは勢いよく飛んでいくのだがここで誰しもが予想していなかった事が起こる

なんと勢いよく飛んでいたボールは急に降下してしまいセンターの頭上を超える形で落下しフェアとなった

いや・・・正確に言うのならばなってしまったとのが正しく晃平はどうにか走り込んで三塁に行く事は出来たのだが

本人としてはあれだけの手応えであったにも関わらずホームランに出来なかった事を悔しく思っていた

それもそのはずでありこうなってしまったらもはやこの回で一点を取るのは難しく自分は残塁するしかない

当然ながら晃平の予想は当たってしまいその後の打者に関しては誰一人としてバットに掠らず晃平は残塁してしまった

一方で先ほどの攻防を外側から見ていた伊勢谷はどうして晃平の打球が突如として降下したのか突き止めていた

(おそらくは村上さんが放った渾身の球・・・そのキレが凄まじくてバットに当たった後も残ってたんだ・・・

 それが原因となってボールは降下してしまい・・・ホームランにならなかった・・・でも・・・)

正直な感想として伊勢谷は理論上では分かっていたとしても本当にそんな事が可能なのかと思わず疑ってしまう

それほどまでに先ほど口にしていた事を行うのは難しい事でありそれを実現出来ている村上はもはやプロを超えている

同時に自分では絶対的に届かない壁でもあり伊勢谷はその圧倒的な実力の差に悔しいという感情が湧いてくる

しかしまだ勝負は終わったわけではなくむしろここで自分が佐伯を抑えれば再びこちらにもチャンスが巡ってくる

そう信じて伊勢谷はグラブをはめてマウンドへと向かいそして本日二度目の対峙となる佐伯と視線を合わせる

(・・・本当に凄い選手だ・・・どこを投げようと考えても打たれるイメージしか出てこない・・・だけど・・・)



(・・・いい目をしている・・・こりゃあ少しでも気を抜いたら詰まらされるな・・・全力で打つ・・・!)



まさに両者、一歩も譲らない睨み合いを続けながら伊勢谷は渾身の力を込めたボールを投げる

佐伯はそれに反応し見事に打ち返すのだがそれはピッチャーの真正面に飛んでいき伊勢谷はそれをキャッチする

これによりアウトになってしまうのだがここで両者にとって最も最悪と言ってもいい事が起こってしまう



「!?タイム!伊勢谷!どうした!?伊勢谷!!」



そう・・・強烈なライナーをキャッチした伊勢谷がそのまま腕を押さえて膝から崩れ落ちてしまったのだ

次回、野球部大会編完結

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