飛び上がる慶太
慶太、大活躍!
現在、サッカー部の大会は前半戦を終えたのだがどちらも点は取れていなかった
しかも観客席から見ていても疲労が酷かったのは明らかに慶太達の方だった
ワンタッチプレーの弱点は攻めにも守りにも予めその場所に走り込んでいなくてはいけないので
大幅に体力を削られるという点であり点を取れていない現状ではかなり追い込まれていると言えるだろう
「まさか前半で一点も取れないとはな・・・やっぱり一点勝負になりそうか・・・
どちらが最初に一点を取るか・・・そこが勝負の分かれ目になりそうだな・・・」
「ですね・・・でもそれ以上に問題なのは・・・慶太に対して二人もマークについてる事ですよ」
そして前半に一点を取れなかった最大の原因は最初の攻撃で相手のディフェンダーに警戒されてしまった慶太
それによりワンタッチプレーの最後を担えなくなってシュートを狙えなくなったのが理由だった
流石の慶太も一人ならば問題はないのだが二人では苦労するらしく全く活躍出来てはいなかった
(クッソ・・・!本当なら慶太に二人もマークがついている分、俺達が有利なはずなのに
一点も入れられないなんて・・・!これじゃあ合わせる顔がないぜ・・・!)
「はぁ・・・はぁ・・・あぁ〜・・・本当にやってくれるよな〜・・・俺の体力は無限じゃねぇっての・・・
出来れば体力のある内に一点を決めたいところだけど・・・マジでどうしたもんか・・・」
珍しく慶太は試合に対してとても真剣になっておりどうすればゴールを決められるか考えていた
しかし現状を打破するのに頑張らなくてはいけないのは慶太だけではなく周りの選手達も同じだった
慶太に二人のマークがついているという事はそれだけ周りは警戒されていないという事
そして現状はまさにその通りと言わんばかりに誰一人として活躍した部分を見せられてはいない
むしろ相手にボールを阻まれてしまっている分、周りから見るとミスしているように思われているだろう
一番の問題はそれを自分達でも理解しているのか徐々にプレッシャーが大きくなっていっているという事
ただでさえワンタッチプレーは正確なプレーを要求されるのにこのままではプレースタイルが崩れるのは時間の問題
監督もそれが分かっているからこそ折角、練習したワンタッチプレーを辞めようかとも考えていた
(しかし・・・現状ではこれが最も点を取れる作戦である事に変わりはない・・・慶太の疲労も大きいが
出来るならば一点を取るまではこのワンタッチプレーで攻めておきたいんだが・・・)
監督はどうするべきかと考えているとそこへ何かを決心したような部長が姿を現した
「監督・・・これが上手くいくという保証はないですけど・・・少しだけ俺の作戦を聞いてもらえないですか?」
「!?ほう・・・まさか大胆にもフォーメーションを変えてきたか・・・!」
「さてと・・・自分から提案したんですから足を引っ張らないでくださいよ先輩?」
「お前が頼りないから俺も攻撃に参加する事になったんだ・・・ちゃんと名誉挽回しろよ?」
二人は喧嘩しながらも試合開始のホイッスルがなるとまるで先ほどの事は関係ないとばかりに走り出す
もちろん相手も先ほどと同じように慶太には二枚のマークが付き部長には例の身長が高い選手がマークにつく
一見したら先ほどと状況は変わっていないようにも思えるが実際は少しだけ違っていた
先ほどまでは慶太に専用のマークが二枚ついているのに対して三年生の選手はフリーの状態だった
だからこそ慶太以外のシュートを打ちそうな選手がいればそちらに向かいシュートを阻止してきた
しかし今回は攻撃の選択肢が二つとなった事で部長に対しても専用のマークをつける必要が出てきてしまった
それを担うのはもちろん三年生の彼であり結果として相手の最も厄介な壁を釘付けにする事が出来ている
つまりこちらの攻撃の手段がもっと増えたという事ではあるのだが問題はその決め手だった
(慶太が厳しくなかった状況でもシュートを決められなかったからな・・・この三人以外の選手も相当に強い・・・
おまけにこっちはさっきから攻撃を止められている分、プレッシャーが半端じゃない・・・!)
ただでさえフリーで打てるという好条件が逆にプレッシャーとして働くのに対して
部員達も前半戦でのプレーの影響がありとてもではないが完璧なプレーを出来るような状態ではないだろう
それを分かった上で部長達はこの作戦を決めており後は彼らがそれを乗り越えてくれると信じるだけだった
「・・・何を考えているのか大体の事は理解出来たが・・・果たして本当に上手くいくかな?」
「そんなもん俺が知るわけねぇだろうが・・・!だけどまぁ・・・ウチの連中はいざとなったらやれる人間だよ!」
そしてそんな彼らを最も信頼していたのは他でもない慶太でありきっとアイツらならばやってくれるはずだと信じ
今は目の前にいる二人を釘付けにする事が仕事だと理解しているようで挑発するかのように動き続ける
もちろん向こうもそんなに体力が続くはずもないという事は分かりきっており
慶太さえ潰れてしまえばこの試合は自分達がきっと勝てると信じていた
しかし彼らは分かっていなかった・・・そんな慶太の姿を見て部員達がどれだけやる気になっているかを・・・
(アイツがあんなに頑張ってるのに俺達がこんなところで弱音を吐いたら・・・絶対、馬鹿にされる・・・!)
(そうだ・・・!絶対にアイツよりも先に倒れてやるもんか・・・!むしろこっちが笑ってやる・・・!)
試合も後半を迎えて半分を過ぎようとしているのに部員達は逆に元気を取り戻しているかのように動いており
相手選手達もそれに圧倒され始めたのか徐々に動きが固くなってきており中盤は完全に慶太達が優勢だった
(まさかここまでとは・・・!だが・・・!勝つのは俺達だ・・・!そこは絶対に譲らない・・・!)
向こうも最後の力を振り絞って最後の抵抗とばかりにゴール手前で必死に守り続けていた
しかしその抵抗も虚しく部員の一人が完全なフリーの状態となりゴールの手前までやってきた
そしてその状態からシュートを放ち誰しもが一点をもぎ取ったと思ったのだが
「やらせるかぁぁぁああ!!ここで勝つのは俺達だぁぁぁああ!!」
なんと慶太のマークをしていたはずの二年生がすごい速度でボールに飛びつきつま先で触る事が出来た
これにより枠を捉えていたはずのボールは外れてしまいバーに当たって跳ね返ってしまう
まさに絶体絶命のピンチをどうにかしたと喜んでいたのだがその瞬間、彼らは気を抜いてしまった
そう・・・彼らは忘れてしまっていたのだ・・・どんな状況でも諦めない男の存在を・・・!
(アイツらが必死にここまで運んできたボールなんだ!こんなところで・・・終わらせるかよ!!)
慶太は大きく飛び上がったボールにたった一人だけ反応しており諦めずにボールに追いついてシュートを放った
これには相手の選手はおろか部員達ですら反応している者は誰一人としておらず
まさに執念とも呼べるべきシュートは見事にゴールの中へと入り慶太達は念願の一点を取った
「へっへへ・・・!どうだ・・・俺様が・・・一点・・・取ったぜ・・・!」
嬉しそうな笑みを浮かべながら慶太は先程のシュートで頭の打ったのかそのまま気絶してしまい
交代を余儀なくされてしまったがどうにか目的であった一点を取り役目を果たしてくれた
「慶太・・・お前の活躍は決して無駄にはしない・・・!なんとしてもこの一点を守り抜くぞ!!」
彼が与えてくれた勝利への道をなんとしても守り抜くと部員達は意志を一つに固めていた
一方で相手チームは電光掲示板を見ながら自分達が本当に一点を取られたのだという事を噛み締めていた
「・・・初めてだな・・・俺達が先に一点を取られるなんて・・・本当に・・・アイツは面白いな・・・!」
「ああ・・・だがまだ試合が終わったわけじゃない・・・!本来のプレースタイルじゃないが点を取りに行くぞ!」
相手の選手達もまだ誰一人として諦めてはおらずそこから試合終了のホイッスルがなるまでまさに一進一退の攻防
試合を見ていた真司の話ではどちらも鬼気迫る雰囲気を出しており観客達も絶句していたらしい
それでも電光掲示板は動く事はなく結果、慶太達が勝利を収め次の試合へと駒を進める事が出来た
「・・・負けたか・・・いや・・・最後の大会でこんなすごいチームとやり合えたんだ・・・
これだからサッカ〜は面白い・・・!・・・本当に・・・終わってほしくはないな・・・」
「・・・で?なんで起きたら全部が終わってバスに乗る手前まで来てるんですかね?」
「そりゃあお前は気絶してたからな?むしろ試合終了した後も寝かしてやったんだから感謝しろ」
「理不尽!いやそれよりもMVPの俺を気絶させたままにしておくってどういう事ですか!?
これじゃあこっちの女の子にアピールとか出来てないじゃないですか!!ちっくしょぉぉぉおお!!」
折角、部長が気を利かせて寝かしたままにしていたというのになんて言い草だと思いながらも
先ほどの試合でほとんどの体力を使い果たしてしまいもはや慶太に構っている余裕は誰にもなかった
「・・・俺ら・・・こんな馬鹿に試合を決める一点を取られたんすね・・・なんか泣きそうなんですけど・・・」
「あっ!?誰が馬鹿だ誰が!?こちとら真剣に出会いを求めてるだけなんだよ!!」
そんな中で慶太達の見送りに来たのは先ほどまで戦っていた対戦相手の三人だった
彼らも流石に慶太の様子を見てこんな奴に自分達は負けたのかと少しだけ複雑な気分だった
しかし同時に試合で倒れた影響はないようだと安心してもおりそっと手を差し出した
「ん?なんだこれ?」
「お前は寝てて出来てなかったから・・・最後くらいはちゃんと終わらせたいんだよ」
その言葉を聞いて慶太は握手に応じようやくもっともらしく終わる事が出来たと思っていた
「因みに言っておくがウチは男子校だから観客席の女性はみんな身内だぞ?」
「嘘だろ!?」
次回は苦戦を終えた慶太と敬子のお話です
 




