楽しみ
今回は前半がライバル視点です
テニス大会を行なっている会場では宮園と東が圧巻の強さで完全試合を行なっており
試合が終わると同時に彼らは好夜が来ていないかと周りを探すが彼の気配はなかった
「・・・どうやら彼は生徒会で忙しくて来られないみたいだね・・・会えると思ったんだけどな・・・」
「そんなに気にする事はあるまい!どうせ大会が進んでいけば嫌でも顔を合わせるんだからな!」
確かに東の言う通りこれからの事を考えればいやでも好夜とは顔を合わせる事になるだろう
しかし宮園が彼に会いたかったのは別に話をしたいからと言う理由だけではなかった
「・・・正直な話・・・消化不良なんだ・・・もっと歯応えのある相手と戦いたいけど・・・
そんな相手は君か彼くらいだからさ・・・でも君の手の内を見るわけにはいかないだろ?」
「がははは!そういう事だったのか!!確かに俺としても試合までは色々と手の内を隠しておかないと
お前には勝てそうもないからな!しかし・・・それはあの如月にも言える事なんじゃないのか?」
東の問いに対して宮園は首を振ってそれを否定した。その理由はもちろん好夜の実力を買っているからだ
「彼は君と違って完成されたテニスをしているわけじゃない・・・つまり試合の中でいくらでも成長する・・・!
そしてその成長はおそらく誰にも予想が出来ないほと早くそして強くなるはずだ・・・!」
まさか宮園がここまで好夜の事を買っているとは思っていなかった東は少しだけ羨ましく思っていた
自分はこの宮園にライバルだと思ってもらう為に小学生の頃から努力をし続けたきたと言うのに
好夜はそれを一瞬で塗り替えてしまった・・・それも未完成だと言われているテニスプレーでだ
それでも東は宮園と同じくテニス選手であり悔しいと思う反面、彼と戦える事を楽しみに思っていた
(もしも俺が負けるような事があれば・・・ライバルの座は返却しないといけないかもしれないな・・・!)
もちろんそんなつもりなどは一切ないのだが、東の中にも好夜に対して言い知れぬ何かを感じ取っていた
それが何かまでは分からないが少なくともそれが原因で自分が負けるかもしれないと思うほどだった
全力でプレーをしてもしも自分が負けた場合・・・そんな弱気な事を考えてしまうほど好夜を強いと思っていた
「・・・いずれにしてもしばらくの間・・・この大会は退屈する事になりそうだな・・・
二年生は初めての大会で緊張している者がほとんどだし三年生も去年ほどの強者はいない・・・
こんな事をあまり言いたくはないが・・・お前達と当たるまでは負ける気がしないな・・・!」
「そうだね・・・この大会が終わったら・・・本格的に世界に挑んでみるのも悪くはないかもね・・・」
二人は遥か遠くまで見据えておりその手前に立ち塞がっているのは好夜というたった一人の男だった
一方その頃、試合を終えて自分達が合宿をしている場所まで戻ってきた他校の野球部
そこでは試合が終わった後にも関わらず走り込みをしている村上の姿があった
どうやらコールドゲームだった事で体力が有り余っているらしくそれで走り込みをしているとの事だった
「それにしても・・・なんか随分と鬼気迫るものを感じますね・・・何かあったんですか?」
「ん?ああ・・・去年の大会であいつは試合には勝ったけどホームランを打たれた試合があってな
俺らとしては勝った試合だったしあいつのピッチングが悪かったわけでもないから誰も責めなかったんだけど
あいつだけはそれをしつこいぐらいに覚えていてな・・・今回はそのリベンジをしたいってわけだ」
そう・・・村上はあの時の試合をずっと覚えておりそのリベンジをする事だけを考えて今日まで努力してきたのだ
しかし今回の試合で彼は晃平が会場に来ていなかった事に気づいておりそれが少しだけ悔しく思っていた
別に晃平が忙しくしているのは村上も理解している事ではあるのだがそれでもやはり自分を見てくれていない
つまりは自分はまだ晃平にとって戦うべき敵として見られていないと彼は感じていたのだ
(・・・もちろんこれは俺の勝手な偏見だって事は分かっている・・・!
それでも・・・俺はアイツをライバルだと決めた・・・!だからアイツにも・・・俺を見てもらう・・・!)
この一年で村上は恐ろしいほどに成長したと他の野球部員達が言うほどに彼は強くなっていた
だからこそライバルである晃平に見て欲しいと思っていたようなのだがそれも叶わなかった
そんな鬱憤を晴らすかのように走り込みをしていると捕手でありキャプテンでもある部長が姿を現した
「そんなに頑張っても無駄に体力を消費するだけだ・・・試合の後はきっちり休んでおけよ・・・
それとお前は気にしてなかったみたいだけど・・・試合を見に来ていたぜ?神居の連中は・・・」
「えっ?でもアイツは・・・いやそういえば・・・確かに見た事ない一年生がスタンドにいたな・・・」
ここでようやく村上は自分を見に来ていたのは一年生ながらに神居高等学校の野球部でエースとなった男
伊勢谷だったのだと理解し同時に先ほどまでの怒りがまるで嘘だったかのように笑っていた
何故ならばまだ序盤であるにも関わらずエースを試合の観戦に出すという事は自分を警戒していると言う事
つまり晃平はちゃんと村上の事を強敵として意識しているという事の証明でもあったからだ
「・・・なんかさっきまで勝手に怒っていたのが馬鹿らしくなってきたな・・・悪い・・・」
「気にする事はねぇよ・・・投手を支えるのが俺達、捕手の役目だからな・・・
それよりもあの時の一年生の目は確実に俺達の事を超えるっていう生意気な目だったぜ?」
「いいぜ・・・!そういう生意気な奴の方が試合では燃えるってもんだ・・・!!」
その夜、村上の試合を見てきていた伊勢谷はずっと彼の投球を頭の中で思い浮かべていた
そして今の自分がそんな彼と勝負をする為にはどんな事をしなくてはいけないのかと
盗めそうな技術を必死で盗み覚えようと考えているとそこへ晃平がやってきて飲み物を渡しながら隣に座った
「・・・どうだった?去年、俺達が負けた高校を見て・・・正直なお前の感想は」
「みんな明らかにこんな地区大会クラスの選手ではないですね・・・特に相手のエースピッチャー・・・
あれはもうプロで投げていたとしてもおかしくはありませんよ・・・!どうやってホームランを打ったんですか?」
相手の事を怪物だと判断していた伊勢谷だったがそんな相手からホームランを打った晃平もまた怪物だと思っていた
だからこそ、そんな彼からどうしてホームランを打てたのか、弱点などを知れるんじゃないかと思っていたのだが
「悪いな・・・俺もあの時はどうやってホームランを打ったのか覚えてないんだ・・・
ただ相手のボールをしっかり見ていたら体が勝手に反応して気がつけばバットを振っていた・・・
もしかしたらあれが無我の境地ってやつなのかもしれないが・・・二度目はないだろうな」
実を言うとあの時、見事にホームランを打った晃平だったが記憶に関してはとても曖昧だった
もちろんその時の事を覚えていないわけではないのだがそこまではっきりと意識があったわけでもなかった
全ての意識をボールに集中しそれ以外の事を完全に無視した結果、あれだけの速球に反応する事ができ
更には絶え間ない素振りをした結果、その染みついた振り方が晃平の体を勝手に動かした
故に晃平としての感覚はボールをしっかり見ていたら体が勝手に反応したと言う記憶しかないのだ
もちろんそれ自体はとても凄い事なのだが逆を言えば凄すぎて誰にでも真似できる事ではなく
それを実行した本人ですら二回目を確実に引き起こせると言う自信はどこにもなかった
(もしかして部長はその勝負の時だけゾーンに入っていたって事なのか?だとしたらマジでこの人は怪物だ・・・
野球を始めてそこまで経っていなかったのにゾーンに入ってあの球をホームランにしたんだから・・・
だとしたら俺も負けていられねぇ・・・!なんとしても0点に抑えてやる・・・!)
伊勢谷はその話を聞いて自分も晃平に負けてはいられないと勝手に熱が入っている様子だった
それを見ていた晃平は流石に今からそんなに気合いを入れられても困ると思い彼の背中を叩いて冷静さを取り戻させた
「先に言っておくがあの高校と試合をするってまだ決まったわけじゃないんだ・・・
勝手に浮かれているとその手前で足元を掬われる可能性だってある・・・絶対に油断するなよ?」
「・・・はい・・・!たとえどことの試合であろうとも・・・俺は全力のピッチングをします・・・!」
一方その頃、テニスの試合を観に行けていなかった好夜は後輩に頼んで宮園と東の試合を撮ってもらい
実質でその二人の試合を観ていたのだが正直な話、あまり参考にはなっていなかった
(・・・やっぱりこの二人は別格だな〜・・・対戦相手には申し訳ないけど半分の力すら出されていない・・・
これじゃあアイツらがどれくらい強くなっているかなんて分かるわけないよな〜・・・)
改めて宮園と東の高すぎる実力を映像で確認しどうやって攻略するかを必死で考えるが
やはり現時点では正確に相手の実力を測れていない以上、確信めいた事は言えなかった
「・・・明日はあの二人の試合も同時に行われるんだったよな?そこで本気を見せてもらえればいいんだけど・・・
二人の対戦相手って・・・どっちも特に聞いた事がない選手なんだよな〜・・・はぁ〜・・・」
明日の試合に関してもあまり期待は出来ないだろうと好夜はため息を吐いていたがすぐに気を引き締める
何故ならば彼らの試合があると同時に自分も明日は試合が控えているからだった
「いくら対戦相手が無名だと言っても俺はテニスに関してはほとんど素人だからな・・・!
油断なんかで負けるわけにはいかねぇ・・・!一点も取られないくらいの気持ちでいないとな!」
そう言って好夜は映像を止めて風呂へと入りに向かうのだった
次回はサッカー部とバレー部の大会を描きます




