初戦突破
大会を終えた夜のお話
その夜、どの大会も無事に初戦を突破出来たらしいので今日は祝勝会を開いていた
「いや〜!全部の部活が初戦を突破するなんて何年ぶりだ!?てか俺が赴任してからは初めてだ!」
「先生?流石に飲むペース早くないですか?まぁ理解出来なくはないですけど・・・」
そう・・・実は先生の言う通り好夜達の学校が全ての初戦を突破するのは数年ぶりなのだ
その理由はもちろん人工島ではあるが離島である事に変わりはなく人がそこまでいないのが原因だった
それ故に優秀な人材はほとんど本州の方に残ってしまい人材不足などが重く響いていた
しかし先生は今年はそれを乗り越えたとても優秀な生徒達だと誇らしくさえ思っており笑いが止まらなかった
かく言う生徒達も自分達がここまで出来るとは思っていなかったようで心の底から嬉しそうにしていた
とは言えあくまでもまだ初戦を突破しただけで大会に関してはこれからが本番だと言ってもいい
だからこそ部長達などの重要な職を担っている者達は次の試合に備えている様子だった
特に晃平は野球部の部長として色々とやる事があったのでミーティング室に残っていると
「次の試合に備えるのは良いんですけどそれならちゃんとご飯とかも食べないとダメですよ?」
「明希音か・・・もうこんな時間になってたのだ・・・わざわざ持ってきてもらって悪かったな」
そこへ差し入れを持ってきた明希音が何を見ているのかと机の上を見るとそこには次の対戦相手の資料が置かれていた
「・・・やっぱり初戦を勝っただけじゃまだ喜ぶには足りないですか?みんなも頑張ってましたよ?」
「別に喜んでいないわけじゃない・・・だがそんなに喜んでいられないのも事実だ・・・
今回の初戦でウチが色々な学校からデータを取れたように他の学校もウチを研究出来たはずだ
それを考えたら喜んでみんなとはしゃぐよりもやらなくちゃいけない事があると思っただけだ
俺は部長からこの野球部を託され・・・夢を受け継いだ責任があるからな・・・!」
晃平も初戦を勝利した事を嬉しく思っていないわけではないのだが、部長としての責任があった
だからこそ油断も慢心もしている場合ではなくきっちりと仕事をする必要がある
その姿を見て明希音は少し心配しながらもやはり晃平らしいと少しだけ笑みを浮かべていた
(・・・でも少しは休憩させないと最後まで持たないかもしれないですね・・・色々と考えないと・・・)
そんな中で明希音はこのままだと晃平が優勝まで持たない可能性もあるので少しは休憩させなければならないと
その方法を考えながらそっと晃平の隣に座って真剣な横顔を見ながら微笑むのだった
(・・・そんなに見られると全然、集中出来ないんだが・・・言いずらいな・・・)
一方その頃、無事に自分で不安だと思っていたワントップ戦略で勝ち点を挙げた慶太は調子に乗っていた
「だははは!どうだどうだ!?これが瑞樹慶太様の実力ってもんよ!!」
「とか言いながら一番最初にこの作戦をやるって言われて文句を言ってたのはどこの誰だよ?」
確かに最初はこのフォーメーションに対して誰よりも文句を言っていた慶太だったが
それで成功したら誰よりも調子に乗っているのだから呆れた目をされても仕方ないだろう
しかし本人はそれすらも気にしておらず、むしろ自分に嫉妬しているのだとプラスにすら捉えていた
これには流石にフォーメーションを提案した部長も微妙な顔をしておりワントップを続けた方が良いのか悩んでいた
(う〜ん・・・これ以上、みずきが調子に乗っても困るが・・・この方が点は取れるからな・・・
となると・・・やっぱりこいつには自重してもらう以外の選択肢しかないか・・・)
部長はどうやって調子に乗っている慶太を鎮めれば良いのだろうと考えていると何やら強烈な音が鳴り響いた
一体、何事だと思って音の鳴った方を見るとそこには敬子の姿と足元に巨大なタンコブが出来た慶太が倒れていた
それだけで部長は何が起こったのかを瞬時に理解し敬子に対して心の中で感謝していた
そして思い切り引き摺られていく慶太の姿を見てこれからどうしようかと真剣に考えるのだった
一方で慶太を引き摺っていく敬子はどうしてこの男はすぐに調子に乗るのだろうと思いながら歩いていると
少しだけではあるが慶太の体が震えている事に気がつき彼は無理をしてあんな風に振る舞っていたのだと知る
「・・・全く・・・無理しているのなら部長に言って部屋で休んでも良かったんじゃないの?」
「・・・せっかくハットトリックを決めたのにそんなカッコわりぃ事なんて出来るかよ・・・」
どうやら慶太であっても意地というものはあるようでせっかくのハットトリックを初戦で決めたのに
そんな気分に水を刺すわけにはいかないと無理をしてあんな風に盛り上がっていたようだ
それを聞いてやはり昔からこの男はこんな風に不器用な盛り上げ方しか出来ないのだと敬子は呆れながらも
ちゃんとチームの事を考えて行動している事に対して素直に嬉しいと思っていた
「・・・悪かったな・・・あの場から連れ出してもらって・・・正直、辞めるタイミングを見失ってた・・・」
「・・・アンタから素直にお礼を言われるなんて・・・明日は雨とかになるんじゃないでしょうね?
私達は屋内でやるから問題ないけどアンタらは直接、試合に響くんだからやめなさいよ?」
「なっ!?素直にお礼を言ったのにそんな事、言われるのかよ!?本当にお前は酷い女だな!!」
こうして二人はお互いの部屋に戻るまで喧嘩をしていたが終わる頃には二人ともいつもの調子に戻っていた
そしてまた別の場所では・・・とある六人が必死に部屋でひたすら作業に没頭していた・・・
その六人とは一体誰なのか・・・それはおそらく誰もが予想している通り・・・生徒会の彼らである
「うぉぉぉおお!!全員で初戦を突破してくれるのは嬉しいけど纏める資料もそれだけ多い!!」
「これを今日から大会が終わるまでやるってなったら・・・僕の体、持たないかも・・・」
「泣き言を言っている暇があったら手を動かせ!先に言っておくが休んでも仕事は残るからな!?」
みんなが初戦突破した事に喜んでいる一方でその弊害を担っていたのは他でもない彼ら生徒会だった
その理由はもちろん学校に報告する為の資料作りであり初戦を突破した全員分のを纏めなくてはならない
更に言うのならば初戦を突破したという事は試合の内容自体も評価される部分が多いと言う事であり
それらを吟味しなくてはいけない事から彼らのやらなくてはいけない事は山積みと言って良いほど多かった
「ゼェ・・・ゼェ・・・これってボランティアの生徒に手伝ってもらえないんですか・・・?」
「もう既にやってもらってるよ!試合の内容を確認してどんな内容だったのかを纏めてもらうって事をな!
それを差し引いてもその資料を制作するのは俺達だからこれだけの仕事量があるんだよ!」
浩介はこんなにも仕事の量が多いのならばボランティアの人達に手伝ってもらえないかと考えるが
実はもう既に資料を制作する為の試合確認をやってもらっておりそれを参考にして好夜達は資料を作っていた
しかし先ほどから言っているように初戦を突破したのは大会に参加した全員でありその数は三桁に迫る
その分の資料を作るとなれば例え参考にするべきものがあったとしても並大抵の量で終わる事ではない
つまり現時点での作業は生徒会がやる必要最低限の仕事として残っているものであり減らす事は出来ないのだ
それを聞いて真司達はやるしかないかと覚悟を決めたようでこれまでに見た事もないような顔で作業を進める
(そうだ・・・お前達には悪いが生徒会に入った以上はこれを後、二年は続けてもらわないといけないからな・・・
それを考えたら言うならばこの一年は修行の年だと思ってくれ・・・てか俺はそう思う事にした・・・!)
そう・・・真司達にとって最も残酷なのはこれだけの作業を二年もやらなくてはいけないという事であり
必死に作業している彼らはそれすらも気づけないまま時間はひたすらに過ぎようとしていた
そしておよそ三時間ほどの時間がかかりながらもようやく作業は終わりを迎え好夜達はその場に倒れ込んでいた
「・・・てか・・・今更なんですけど・・・如月先輩も・・・作業して・・・良かったんですか?
これで試合に負けたとか言われても・・・生徒会としては・・・責任なんて取れないですよ・・・」
「安心しろ・・・明日は試合がないから手伝ってたんだ・・・ぶっちゃけ試合よりもキツイけどな・・・」
(はぁ・・・明日は試合がないから宮園達の試合を見ようかとも思ったんだが・・・
流石にこの体調で見にいくわけにもいかないし・・・やっぱり明日はのんびりと体を休めるか・・・)
そんな事を考えながら歩いている好夜の隣には同じく作業を終えた命の姿があったのだが
どうやらもうそろそろ限界なようでフラフラな足取りになっており
心配になった好夜は眠くて生返事しか出来ない命を抱えて彼女の部屋まで連れていく事にした
(・・・問題は・・・部屋に着く前に寝ついちゃった事だよな〜・・・どうすんだ?これ・・・)
その途中でまさかの命が寝落ちしてしまいどうしようかと考えていると
そこへ晃平の部屋から戻ってきた明希音が合流する
「えっと・・・もしかして寝ちゃってるんですか?」
「みたいだな・・・悪いんだけど部屋を開けてもらってもいいか?流石にこれだと・・・」
好夜は明希音に頼んで部屋を開けてもらい彼女をベッドに置いてから後の事を明希音に任せて出ていくと
彼女はなんとも悪そうな笑みを浮かべながら寝ている命の耳元で囁いた
「好夜君にお姫様抱っこで部屋まで運ばれた感想はどうですか?」
これに対して命は返事もせずに布団の中へと隠れてしまうが
明希音はそれだけで彼女がどんな事になっているのか分かり微笑ましそうな笑みを浮かべる
逆に命は先ほどまでの感覚を思い出し顔の全てが真っ赤になって身悶えるのだった
次回は大会のないお話




