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不安に思う好夜

今回は好夜がメインのお話です

とうとう合宿最終日直前の夜を迎えた好夜は今日も例のコーチがいる場所での練習をしていた

彼の実力はコーチの目から見ても確実に分かるほど上がっていたのだが

本人としては本当にこれで大会を勝ち抜けるのかどうか少しだけ不安に思っていた

しかしこの合宿はここで終わりなので実際に戦う以外の選択肢はもう残されていない

「・・・正直な話、俺はそこまでお前のライバルの事を知らねぇが・・・お前がタダで負けるは思えねぇ

 と言うわけでだ・・・大会に関してはまぁ運も実力って事で精一杯、己の実力を出してみな」

「・・・今まで本当にありがとうございました・・・!必ず大会で成績を残してきます・・・!」

好夜はこれまでの事にお礼を言いながらコーチの元を後にし合宿所に戻っていった

その背中を見送りながらそのコーチは逞しくなった好夜の背中を見ていた

(懐かしいな・・・三年前にもあんな風に成長した背中を見た事があったな〜・・・)

それは三年前に自分のところを訪ねてきたたった一人の青年であり彼には目標があった

そして彼は並々ならぬ努力を続けて二年の月日をかけてようやく勝利を収める事が出来た

自分が見てきた弟子の中では間違いなくその彼は天才の部類に入る人間ではあったが

それでも世の中には上には上がおり二年の月日を必要とした事実も変わらなかった

おそらく好夜が戦おうとしている天才もそれだけの強さを持っているのだとコーチは理解しており

果たして今年だけで勝てるかどうかと言われると難しいと言うしかないだろう

(・・・それでも俺が教えられるだけの技術は叩き込んだ・・・後はあいつの精神力に期待するだけだ)

しかし勝負の世界は諦めない限りはどちらにも勝つ可能性はある

今の好夜はちゃんと勝負するだけの技術力を今回の合宿で得ているはずなので後は時の運

どんな戦いをしてくれるのかコーチは楽しみに思いながら家へと帰っていた

そして合宿所へと帰っていく好夜は夕暮れの道を歩きながら空を見つめて少しだけ考えていた

(・・・本当に俺は勝てるのかな・・・あの宮園と東の二人に・・・

 弱気になっているつもりはないんだけど・・・勝てるビジョンが浮かんでこないんだよな〜・・・)

あれだけの練習をして間違いなく自分は強くなったと好夜自身も感じている事ではあるのだが

それでも本当に宮園、東の二人に対して勝つ事が出来るのかどうか不安に思うのは仕方のない事だろう

(はぁ・・・なんか無性に命の顔が見たくなってきたな〜・・・今頃、何しているのかな〜・・・)



そして合宿所へと戻ってきた好夜はみんなとやる最後の練習試合をし終えて夕飯を食べていた

「・・・正直な話、今年も新人戦に関しては落としそうな感じがするな〜・・・

 そうなるとやっぱり期待出来るのは好夜の出る個人戦だけなんだけど・・・実際のところどうなの?」

「それを聞きます?あの天才二人を相手にしてとても勝てるとは思えないんですけど・・・」

部長の考えではやはり今年も団体の新人戦で優勝を狙えるとはとても思えないようで

残るはレギュラーの団体戦と好夜が出場する個人戦だけなのだがその団体戦もキツいので

残るは好夜の参加する個人戦だけなのだが本人はあまり期待しないで欲しいと考えていた

それほどまでに宮園と東と言う壁は大きく彼らの実力を高く評価しているという事でもあった

(あの人の元で特訓したはずの好夜がまだ勝てると自信を持っていえないほどの相手か・・・

 こりゃ下手したら菓家部長が相手をしていた桐生さんよりも才能は上なのかもな・・・)

そのあまりに弱気な好夜の姿を見て部長はその宮園と東に関して先代の部長であり

去年は全国優勝を果たした菓家のライバルであった桐生以上の天才なのではないかと判断していた

しかしこれまでの好夜を見てきた部長としては目の前にいる男の才能が劣っているとは思えなかった

つまり勝利への鍵は好夜が試合の中でどれだけ成長する事が出来るかという部分に掛かってくるだろう

(試合の中で成長する選手か・・・今までにそんな選手を見た事はないけど・・・好夜ならやってくれそうだな)

「そういえば部長・・・明日はもう合宿所を後にするんですよね?午前の練習は何をするんですか?」

「う〜ん・・・それなんだけど実は悩んでいてさ〜・・・ぶっちゃけまるまる休みでもいいと俺は思ってるんだよね」

実を言うとこの合宿所の片付けなどをしていたらとてもまともな時間は用意出来ないので

おそらく練習をしてもいいものにはならないと思っていたので休みにするべきかと部長は悩んでいた

「そうですね・・・確かに片付けの時間を含めたとしても練習時間としては一、二時間って感じですか・・・

 そんな中で練習って言われても・・・なんか不完全燃焼で終わってしまそうですね・・・」

「だろ?やっぱり明日は本格的に休みにするか〜・・・好夜も明日は休みにしろよ?

 お前がこの中で一番、激しい練習して体を酷使してるんだからな?労わってやれ」

部長の言う通りテニス部の中で一番と言っていいほど体を酷使していたのは好夜だった

おそらくは体への疲労も本人が気づいていないだけでかなりと言っていいほど溜まっているだろう

もちろんそんな体に無理なんてさせれば故障なんてものになりかねないので部長は必ず休むように釘を刺した



(・・・俺って意外に信用されてないんだよな〜・・・)



そして食事を終えた夜、好夜は一人でコートに向かうとそこで少しだけ壁打ちをしていた

もちろん体に無理をさせるわけではなく単純に寝る前のウォームアップくらいで考えていた

それともう一つ・・・自分の中にある不安を少しでも紛らわせたいと思っていたからだ

(・・・どんなに練習をしてもあの宮園とのラリーのイメージが払拭出来ない・・・)

一年前、宮園とは軽いラリーという名目で打ち合ったのだが彼はどんな打球でもあっても簡単に返していた

そのイメージが好夜の中に植え付けられており今の状況では勝てると自信を持って言えなかった

おまけにまだどんなテニスをするのか見ていない東という未知の存在を待ち構えている

それを考えたらやはりどんなに練習しても心の中に不安が残ってしまう

そんな好夜を遠くから部長は見つけていたが正直な話をするのならばとても声を掛けられなかった

自分が何を言ったとしても今の彼にはプレッシャーにしかならない事を知っていたからだ

「・・・?俺の携帯か・・・誰からだ?」

しばらく壁打ちをしているのそんな中に聞き慣れた音が流れてきて好夜はすぐに自分の携帯が鳴っている事に気づく

誰から掛かってきたのだろうと相手を見ると名前の欄に書かれていたのは命の名前だった

「もしもし?こんな夜に電話してくるなんて珍しいな?もしかして何かあったのか?」

『うっううん・・・!あっ明日で合宿も終わりだからなっ何をしてるのかなって気になって・・・』

不思議な事に先ほどまで不安だった気持ちも命と会話をしているだけで徐々に無くなっていくのを好夜は感じていた

どうしてそんな風に思うのかまでは分からなかったがそれでも命の優しい声が彼にとっては何よりも心強かった

「こっちは自由時間で寝る前に少しだけ壁打ちをしていたって感じかな?そっちはどうだった?」

『みっみんな凄い頑張ってたよ・・・!こっ晃平君も部長としてみっみんなを引っ張ってたし

 けっ慶太君もまるで別人みたいにれっ練習を必死でやっやってたんだよ・・・!』

「そっか・・・そうだよな・・・みんなも大会には自分よりも強いかもしれない相手がいるんだよな・・・」

そう・・・現状で好夜が抱いている不安はこれから大会に出る誰しもが抱えているものである

それは晃平や慶太、敬子も例外ではなくだからこそ必死に勝つ為の練習をしているのだ

そして好夜自身もコーチからその為の練習をしてもらったのだという事を今更ながらに思い出していた

(・・・別に俺だけが特別不安に思っているわけじゃないんだ・・・当然だよな・・・)

『・・・こっ好夜君・・・!そのもっもしかしてなんだけど・・・』



『試合の事・・・ふっ不安なの?』



「!?・・・はは・・・まさか電話越しで気づかれるなんて・・・命には隠し事出来ないな・・・」

『だっだって好夜君いっいつもと雰囲気が違ったから・・・きっ気づかないわけないよ・・・!』

これまでずっと好夜の事を見続けていたからこそどんな些細な変化だったとしても命は気づける自信があった

そんな彼女の前ではいかに好夜だったとしても隠し事をする事は出来ない

『・・・でっでも好夜君でもよっ弱気になる事があるんだね?そっそこは少しだけおっ驚いているかも・・・』

「まぁ相手が相手だからな〜・・・むしろ弱気にならない事の方がないって・・・」

確かに命の言う通り普段の好夜ならばこんな風に弱気になる事なんてないのだろうが

相手は正真正銘の天才でありそれは二人もいるのだから誰だって緊張するだろう

『・・・わっ私は好夜君ならだっ大丈夫だって信じてるよ・・・

 かっ勝ち負けとか関係なくきっとしっ試合を楽しめる・・・そっそんな気がする・・・』

「試合を楽しむか・・・そういえば勝つ事ばっかり考えて楽しもうなんて思ってもなかったな・・・

 そっか・・・試合を楽しむか・・・なんかそれなら出来そうな気がする・・・!ありがとうな命!」

命の言葉で好夜の目的は勝利ではなく二人との試合を楽しもうと気持ちを切り替える事が出来た

先ほどまでの不安は完全にどこかへいってしまいなんか少しだけ疲れた感じもしていた

「そろそろ夜も遅いし部屋に戻るよ・・・ありがとうな?命」

『うっううん・・・!すっ少しでもこっ好夜君の力になれたなら・・・そっそれじゃあおやすみなさい・・・!』



「・・・なんか今日はいい夢が見れそうだな・・・!」

そう思いながら好夜は合宿所へと戻っていき宣言通り、久しぶりにいい夢を見る事が出来たのだった

次回は合宿を終えてみんなが合流します

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