混乱の借り物競走
いよいよ好夜が走るよ!
障害物競走も無事(?)に終わりを迎えて次はいよいよ問題の借り物競走が始まろうとしていた
「あぁ〜・・・ついに始まってしまうのか・・・俺が最も望んでいない種目が・・・」
既に始まる前から好夜は遠い目をしておりこれから何が起こるのかを考えているようだ
そしてそれを想像してしまったからなのかなんとも言えないげっそりとした顔をしていた
「えっと・・・話には聞いてましたけど・・・そんなに凄い競技なんですか?」
珍しい好夜の顔を見て真司は本当にそこまで酷い競技なのかと少しだけ恐怖していた
しかし真司の恐怖はあながち間違ってはいないのかもしれないと思う事になるのに時間は掛からなかった
好夜はなんとも言えない顔をしながらもとりあえずはスタート地点へと向かった
「なんというか・・・随分と珍しい顔をしてましたけど・・・大丈夫なんですか?好夜先輩」
その後ろ姿を見て真司は本当に大丈夫なのかどうかと心配している様子だったが
今更、そこまで言っても仕方がないと思いながらとりあえずは種目を見守る事にした
どうやら好夜は一番最初の組だったようで既にスタートラインに立っていた
そしてスタートのピストルが鳴り響くと好夜は一番でお題が書かれたカードが入れられている箱へと到達した
その中に手を突っ込んで箱の中からお題を書かれたカードを一枚だけ引くとそこに書かれた内容を確認する
「・・・女子生徒のスカート・・・ってこんな馬鹿なお題を書いたのは一体誰だ!?」
凄まじいお題を出されて流石の好夜もこれには怒らずにいられなかった
こんな物を借りてくるくらいならばもはや自分の負けでもいいやと思いながら周りを見てみると
何故か他のみんなもお題が書かれたカードを見たまま全く動こうとはしていなかった
気になって一体何が書かれているのかその内容を見てみるとなんとも言えない内容ばかりだった
(女教師の愛の言葉に教頭が隠しているカツラコレクションの一つって・・・誰だよこんなの書いたの!?)
どうやら他のお題に書かれていた内容も好夜のお題に負けず劣らずに酷い内容だったようで
中々にお題の物を取りに向かう事が出来ずどうしようかと考えていると
「あっあの・・・!わっ私のスッスカートでよければどっどうぞ使ってください・・・!」
命は好夜の様子が気になったのか彼の持っていたお題のカードを見てしまったようで
それに書かれていたスカートをわざわざ自分の教室から持ってきてくれたのだ
「ありがとう・・・でも命・・・その気持ちだけで十分だ・・・俺はそれを持ってゴールは出来ない」
「・・・どう考えてもこの借り物競走はやり直しになりそうだからな」
好夜の言う通りあまりにもお題として不適切だった事もあり
結果として代わりに用意していた普通のお題箱と入れ替えて借り物競走は再開する事になった
その後、好夜は普通のお題の中からメガネというお題を引き浩介のメガネを借りて一位でゴールした
「はぁ・・・なんか二回も走らされて損している気分になるのは気のせいか?」
二回も走り精神的にも肉体的にも疲労してしまった好夜は損をしているような気分になっていた
いや・・・今までの事を考えるのならば実際に損をしているのは間違いないだろう
「でっでも一位を取ったんですから十分に凄いと思いますよ?流石です!」
そんな好夜を真司はどうにか褒めて気持ちを上げてほしいと考えていたようなのだが
どうやらそう簡単に割り切れるような事ではないようで全く気持ちが上がっていなかった
「・・・とにかく後はリレーだけだな・・・とりあえずそれが終わるまでは頑張るか・・・」
それでもなんとか気持ちを立て直したのか好夜は最後のリレーまでは頑張ると宣言し
借り物競走に出ている残りの人達を見ているとそこには珍しく明希音の姿があった
「珍しいな?明希音ってこう言った種目に参加するような感じじゃなかったと思うけど」
基本的に明希音は走る事を苦手としているので玉入れなど走らない種目に参加している事が多かった
それにも関わらず今回は借り物競走に参加しておりどうしてなのだろうと思っていると
「なんでも他の種目の参加する枠がなかったようで残った借り物競走に参加する事になったそうです」
どうやら去年の惨状を知っていた明希音達のクラスも借り物競走にだけは参加しないようにと考えたようで
その結果、いつも参加しているような種目に出る事が出来ず
代わりにこの借り物競走に参加する事になったと晃平は説明する
「うわ〜・・・どう考えてもそれって去年の事が影響してるじゃねぇか・・・
まぁさっきの事でまともなお題に変わっているはずだし大丈夫だとは思うが・・・」
問題は明希音がどんなお題を引くかでこの先の順位が変わってくると考えていいだろう
そんな事を話しているとどうやら明希音の番が来たようでスタートラインに立っていた
そしてスタートのピストルと同時に走り出したのだがやはり走る事が苦手な事もあり
お題の箱に着いたのは最後でありここから借り物が彼女の逆転の鍵を握っている
そんな運営のお題のカードに書かれていた内容を見て明希音は少しだけ笑いながらとある場所に向かった
「晃平くん!一緒に来てちょうだい!」
「??」
お題の内容が分からないままにとりあえず晃平は明希音に連れられてゴールを目指す
他の人達は中々にお題の借り物が見つからなかったのか明希音が一位でゴールを果たした
「一位でゴール出来たみたいだな。それで?お題に書かれていた内容は一体なんだったんだ?」
晃平は自分が一体どんなお題で選ばれたのだろうと思って明希音に確認するとすぐにお題を見せてくれた
「身長の大きな男子生徒・・・確かにこのお題に当てはまるようなのは俺以外にいないか・・・」
お題に書かれていた内容は晃平も納得の物でありこれは自分を選ぶしかないなと考えていた
しかしどうやら明希音はこのお題を見て思わず笑ってしまった本当の理由に彼は気づいていないと感じていた
(本当はこれ・・・私が書いたのだって言ったらどれくらい驚くんだろうな〜)
実はこのお題カードを書いたのは他でもない明希音本人でありもちろん晃平一人を指した物だった
どうしてこんなお題を書いたのかと言われるとその理由は本人にとって小さな願望があったからだ
それは自分が借り物競走に出る事が決まった時、正直な事を言うのならばあまり走りたくないと彼女は思っていた
その時にこのお題に何を書くかのリストを制作しておりその時に一つだけ思いついてしまったのだ
(・・・どうせだったらまた晃平くんと一緒に走りたいな・・・)
そんな事を考えていた所為だったのかは分からないがまさしくそれをお題にしてしまい
後で修正しようとも思ったがどうせ自分には当たらないと思いそのままにしていたのだ
そしてその結果、彼女の少しだけわがままな願望は叶う事になり今年も彼と一緒に走る事が出来た
これは今の明希音にとって最もいい結果になったと言ってもいいだろう
その証拠に今の彼女はとてもいい笑顔を見せておりそれを見た晃平も思わず笑みを浮かべていた
(・・・ここで早く旗を持って戻れと言うのは野暮なのだろうか・・・)
しかしこの空間において被害者が出ている事も忘れてはいけなかった
それは一位の旗を持っている真司であり彼としては早くこれを持って列に戻って欲しかったが
なんとも言えない空間が目の前に広がっており流石に邪魔をしては申し訳ないと思っていた
結果として晃平はようやく真司の存在に気がついて一位の旗を持ち列へと戻ってくれた
そうして借り物競走は次々と進んでいきようやく混乱を呼んだ地獄の種目は終わりを迎えるのだった
(はぁ・・・出来る事ならもう二度とこの借り物競走には出たくないな・・・)
「えっと・・・お疲れ様でした?なんかすごい事になってましたけど・・・」
真司は次の競技があるので好夜と交代する事になり浩介と合流するとさっきの借り物競走に関して言われていた
「本当にな・・・あれがまだ来年も控えているのかと思うと気が重いよ・・・」
そう・・・二年生である好夜にはまだ来年もあの地獄の種目に出る可能性が残されているのだ
しかし隣にいる一年生の浩介達はまだ二回もあの種目に出る可能性がありこちらの方が確率的には高い
だからこそこんな風に項垂れている好夜は他人事ではなく来年は自分達かもしれないと恐怖するのだった
「そういえば準備に忙しくてあまり見れてやれなかったけど浩介はどうだったんだ?」
すると好夜は話を逸らそうと思ったのか見れてやれなかった浩介の結果はどうだったのかを尋ねる
「俺は玉入れと障害物競走に参加しましたけど・・・どっちも微妙な順位でしたよ?
てか障害物競走に関してはなんかすごい衣装が用意されていて困りました・・・」
浩介が障害物競走のコスプレ着せ替えで着替える事になった衣装はなんと和服だった
着る事自体は特に難しい事ではなかったのだが何故か小道具も一緒に入れられており
それを持ちながらしかも何気に和服で走るのが難しく思った以上に時間を取られてしまったそうだ
「なるほど・・・そう言った意味じゃ今回のコスプレ着替えは初めての試みだったけど
今後も追加していいかもしれないな・・・手芸部の協力が必須になるけど」
その話を聞いて好夜は今回が初めての試みではあったがコスプレ着替えは大成功だと考えていた
そして今後も障害物競走ではこれを使うのもアリかもしれないと思っていたのだが
それには手芸部の協力も必要不可欠でありこれに関しては後で話し合うしかないだろう
「まぁなんにしても一年生のお前達が十分に楽しんでくれているのなら俺としては満足だよ
体育祭は個人種目が多いけどそれと同じくらいに団体種目もあるからな
新入生達がお互いに距離を縮めるにはまさにうってつけのイベントってわけだ」
好夜はどうして体育祭というものが存在しているのかその理由を説明し
その理由通りに楽しくみんなで協力している一年生の姿を見て満足していた
(まぁ・・・それでも商品に目が眩んでいる生徒もいるけどな・・・)
次回もいよいよ体育祭最後の種目!




