決意の体育祭
真司君と千鶴さんの二人が頑張ります!
好夜に言われて早退し家へと帰ってきた真司達は言われた通り明日に備える事にしたのだが
やはり自分に自信がない真司は本当にこんな状態で明日の体育祭が行えるのか不安に思っていた
いや・・・たとえ真司でなかったとしても今日までの日々を考えれば不安に思うのは当然の事だろう
しかし時間を巻き戻す事など誰にも出来るような事ではなく巻き返すチャンスがあるとすれば明日の体育祭だけ
それを考えば考えるほどに真司の不安はどんどんと大きくなっていき
やはり何かしなくてはとベッドから立ちあがろうとした時だった
「ん?電話?一体誰から・・・ってせせせ千羽さん?!」
自分の持っていた携帯に着信があり画面を見るとそこには千鶴の文字が出ていた
あまりの事に真司は驚いてしまうがそれでもどうにか正気を取り戻して電話に出た
『もしもし真司君?今日はごめんね・・・私の所為で迷惑掛けちゃって・・・』
電話越しの千鶴はやはり風邪気味だからというのもあるのか聞こえてくる声に元気がなかった
しかも今回の事を自分の所為だと思っているようで彼女が電話して来たのはそれを謝る為だった
「そっそんな事ないよ!・・・僕だって結局は先輩達に手伝ってもらったのに成長出来なくて・・・
なんか全然成長してないんだなって・・・改めて思い知らされたって感じかな・・・」
しかし真司からしてみれば本当にダメだと実感させられたのは自分だと思っていた
『そんな事ないよ!・・・私がこんな事を言っても信じてもらえないと思うけど・・・
それでも私は真司君は生徒会に入ってから成長したって思ってる・・・!
だから・・・そんなに落ち込まないで・・・もっと自信を持って・・・!』
真司はこれまで誰かに自信を持っていいのだと言われた事は一度としてなかった
だからこそたったそれだけの言葉なのに真司はどうしようもなく嬉しくて気がつけばいつの間にか涙を流していた
「ありがとう・・・!千羽さんにそう言ってもらって・・・僕・・・嬉しい・・・!」
千鶴も電話越しではあったが真司が涙を流している事だけは分かったが
真司の言葉を聞いてその涙が嬉しさから来ているのだと知り安心すると同時に少しだけ嬉しく感じてもいた
それは真司の中で自分がそれほどまでに大きな存在になっているのだと実感出来たからだった
「・・・千羽さん・・・!明日は僕も頑張るよ・・・!だから・・・明日は勇気を出して頑張る・・・!」
そして真司は決意を新たに固めて明日の体育祭本番は必ず成功させると宣言した
『そうだね・・・!私ももう弱音は言わない!必ず成功させよう!』
翌日になりいよいよ体育祭本番を迎える事になった
生徒会の役員は朝の準備などもあるので先生方と一緒にまずは色々な準備をしなくてはいけなかった
それにまだ体調は万全ではないながらも真司達も参加しており昨日よりも顔色が良くなっていた
それを見て好夜もとりあえずは良かったと安心するがむしろ肝心なのはこの後だとも理解しており
果たして本当にちゃんと種目に出られるのかどうか不安に思っていたのだが彼らの顔を見てその不安は消えた
(何があったのか分からないがどうやら何かが吹っ切れたみたいだな・・・これなら心配なさそうだ)
好夜は二人の心配はもういらないと思いながら自分の出る競技に集中する事を決めて作業を進める
そうして時間は過ぎていきいよいよ体育祭は始まりまずは開会式が行われた
校長から開会の言葉を聞いてラジオ体操を終えるとそれぞれの場所へと戻って待機する事になる
「そういえば黒谷達の両親達はこの運動会を見に来たりしているのか?」
そんな中で好夜は他の生徒会役員の家族が運動会などを見に来てくれているのかどうかを尋ねる
もちろん命に関しては言わずとも分かっているので他の人達について聞く事にした
「僕のところは親が心配していたので・・・何故か姉とかも一緒に来てます」
どうやら真司のところは昨日の事もあったからなのか親御さんだけではなくお姉さんまで来ていたようだ
そして本人は姉まで来た事を恥ずかしく思っているようで顔を赤くして視線を逸らしていた
「私のところは母が仕事で忙しいので代わりに父親と祖父母が来てますね」
一方で千鶴のところは母親が仕事で忙しくて来られないらしく父親と祖父母が来てくれているらしい
来賓席を見るとこちらに手を振っている優しそうな老人の夫婦を発見しあれが千鶴の祖父母なのだと理解した
その隣ではおそらく千鶴の父親と思われる人が完全装備のカメラを用意して撮る準備を万端にしていた
(・・・命に続いてこっちもか・・・ウチの役員の親族はこう言った人間しかいないのか?)
どこかで見たような光景に好夜は少しだけ頭を痛めながらもとりあえずは気にしないようにする
「俺のところはどちらも仕事が忙しくて来られなかったみたいです
まぁ今更、そこまでして来て欲しいわけではないのである意味ではありがたいですけど・・・」
最後の浩介だけはどうやら誰も見に来てはいないらしく別に問題はないと本人は言っていたのだが
少しだけ悲しそうな表情も浮かべており好夜は残念だったという意味も含めて彼の肩に手を置いた
「さてと・・・そろそろ最初の種目も終わりそうだし急いで次の準備に取り掛からないとな!」
好夜達は急いで他の競技の準備などをしていく中でいよいよ次に真司達が出る二人三脚がやってくる時間となった
「さてと・・・二人共もうそろそろ出番だが大丈夫・・・なのか?顔面蒼白で・・・」
出番が迫ってきた二人の顔色は想像していた以上に悪く本当に大丈夫なのか好夜は不安に思う
しかし二人はこれまでにように緊張だけしているだけでもなく勇気も振り絞ろうとしているようだ
その姿を見て自分が何か言っては彼らの決心を鈍らせてしまうと好夜は少しだけ離れて二人の様子を見る事にした
「・・・大丈夫なのか?あんな二人を放っておいたら本番で失敗してしまうかもしれないぞ?」
するとその様子を見ていた晃平が彼らを放っておいても大丈夫なのかと心配して好夜に確認する
好夜は先ほど自分が思っていた事を公平に伝えるとどうやら理解はしてくれたようだが苦い顔だけは変わらなかった
「勇気を出したとしても果たして結果がついてくるかどうか・・・下手をしたらトラウマになるぞ?」
確かに晃平の言う通りいくら勇気を出せたとしても二人がちゃんと成功するかどうかは別の話だろう
それでも好夜には二人が勇気を出せたのならば必ず成功するはずだという絶対の自信があった
それはこれまでの二人を見続けて来たからこその確信であり命達も同じように思っていた
(だから俺達は何もしないでお前達を見守るよ・・・頑張れよ・・・!)
好夜が二人を見守るように離れて様子を見ている中で本人達は少しだけ緊張を紛らわせようと深呼吸をする
「・・・いよいよ本番だね・・・足を引っ張らないようにしなくちゃいけないのに・・・ごめんね?」
千鶴は真司と言う存在が好き過ぎてこんな事になるとは思っていなかった
それでも彼の力になりたいという思いだけは変わっておらず今度こそちゃんとしようと思った時だった
「・・・大丈夫・・・千羽さんは何も悪くないし何も間違ってないよ・・・
僕達は少しだけ意識し過ぎていただけなんだ・・・この二人三脚に必要なのは相手を信じる事・・・!
そう言った意味では僕にとって千羽さん以上に信じられる人なんて他にいないよ・・・!」
真司は震える千鶴の手を握りしめて自分が最も信頼して全てを任せられるのは千鶴しかいないと告げる
そう・・・彼は昨日の電話でようやく自分達が二人三脚を成功させる方法に気づいたのだ
それは相手を意識するのではなく相手を信頼して全てを任せると言う事
そして真司にとってそれが出来る唯一の相手は千鶴以外にいないとようやく気づく事が出来た
「だから千羽さんも僕を信じてくれると言うのなら・・・どうか僕に全てを任せて欲しいんだ・・・!」
その決心が固まった真司の顔を見て千鶴はこれまでの不安な気持ちが全て消え去りたった一つの感情が湧いてきた
(ああ・・・ズルい・・・そんな顔でそんな事言われたら・・・本気になっちゃうよ・・・)
そしていよいよ二人三脚の時間となり真司と千鶴の二人はスタート地点に向かい準備を始める
やはりお互いに緊張はしているようだが前のような取り乱してしまうほどのものでは無かった
むしろ今はどうすればうまくいくのだろうと必死に考えているように見えた
しかし二人はどうにかスタート地点に向かい時、ここで彼らは重要な事を思い出してしまった
((・・・あれ?そういえばどうやって一緒に歩幅を合わせればいいんだろう?))
そう・・・二人はここまでお互いを意識しないように歩くという当たり前の事に必死になりすぎて
この二人三脚において最も重要である掛け声などの事を完全に忘れていたのだ
それを思い出した二人は周りから見ても慌てていると言う事が分かり好夜達もその原因を何となく察していた
「どどどどうしよう?!そんなぶっつけ本番じゃ掛け声なしでうまくいくわけないし」
千鶴の言う通り今更、掛け声もなしで上手くいくとは思えずどちらが声出しをするのかを焦っていると
「そそそそれなら僕が声を出すから千羽さんはそれに合わせて!」
珍しく今回は真司が自ら声を出して千鶴に合わせて欲しいとお願いしており成長しているようにも思えたが
取り乱している千鶴がそんな事に気づく様子は全くなくとにかく真司の言葉に耳を傾けようと考えていた
そして本番が始まり真司は声を出す事に必死になっており千鶴もそれに合わせる事に集中していた事もあってか
余計な雑念は完全に消え去っておりその甲斐もあってなのか見事に一位を取っていた
「いやまぁうん・・・何だろう・・・結果、良ければ全て良しって感じなのかな?」
何やら考えていた予想とは違ったゴールとなってしまったがとりあえずは良かったと思いながら
好夜は二人に近づいていき一位と書かれている旗を渡すのだった
・・・人間って・・・取り乱すとその前に大変だと思っていた事を忘れるんだよね・・・




