送る言葉
祝賀会最後!なんとあの人が活躍するよ!
あれから他のクラスも次々と出し物が進んでいきいよいよ次は好夜達のクラスが発表する時間になった
それに伴って好夜達は生徒会の離脱し急いで着替えたりなどの準備を始める
そしていよいよ好夜達の番になり司会の声と共に幕が上がったのだがそれを見てみんなは驚いていた
何故ならば本来ならばあり得ないセンターという位置に命の姿があったからだ
しかもいつもならば絶対に着ないであろう派手で鮮やかな可愛い衣装を身に纏ってだ
「渾身の力作です・・・!香野先輩にバレないように作るのは大変でした・・・!」
それを舞台の袖でなんともやり切った表情をしながら見ている明希音の姿があったのだが
「・・・いや・・・確かにすごいけど・・・ウチのクラスの出し物じゃないからね?」
敬子の言う通り本来ならばこれは好夜達のクラスの出し物なので
明希音がそこまでやり切った感を出すのは明らかにおかしかった
しかしその甲斐もあってなのかこの事を知らなかった香野は下で騒ぎながら
どこから出したのか分からないカメラで命の写真を撮りまくっていた
「・・・どこから出したかはこの際、聞かないでおくが・・・確かに意外だったな」
そう・・・命はいつも恥ずかしがり屋で表に出る事などほとんどなく大抵が全員で参加する行事の時だけだ
しかし今回は裏方に回ってもいいはずなのに何故か表に出てきてしかもセンターに陣取っていた
これまでの命を見てきた会長達もそしてあまり命を知らない三年生も驚いていた
『みっ皆様・・・!ほっ本日はわっ私達の出し物を見てくださりほっ本当にありがとうございます・・・!』
そんな風に三年生が驚いていると命がゆっくりをマイクを持って話し始めた
『ほっ本日の最後はわっ私達のクラスがしっ締め括らせていただくのですが・・・!
まっまだまだいっいたらない部分もおっ多いのでしっ失敗してしまうかもしれません・・・』
命は予め自分達がどこかで失敗してしまうかもしれないし
もしかしたら三年生の望んだ形で終わらないかもしれない事を告げる
しかしその上で命は大きく息を吸って自分の決意を言葉にした
『そっそれでもわっ私達が成長したというところをどっどうか見守ってください!』
その言葉を聞いて命をよく知る会長や香野だけではなく三年生全員が思いを同じくしていた
きっとこの出し物は自分達が思っていた以上の最高の形で終わる事が出来そうだと・・・
そして命はステージの上で出し物を披露する前にここまでの事を思い出していた
「えっ?!わっ私がスッステージの上でうっ歌を披露するんですか?!」
それは出し物のライブをすると言う事を決めた後でクラスから誰が歌うのかを決めている時だった
「もちろん好夜も歌ったり全員で歌ったりもするんだが・・・それでもあの時間を歌うのはな・・・」
確かに出し物の時間は一時間以上とプロのライブとさほど変わらない時間があるのだが
唯一プロと違うのはこちらは特にトレーニングも何もしていない初心者で
それだけの発表時間を一人で歌い切る事は出来ないと言う事だった
だからこそみんなで出し合って提案したのが複数人で曲を歌っていくという物
つまりはメドレーで披露すればみんなで負担を分け合えると考えたのだ
そこでクラスのみんなは誰に歌ってもらうのがいいと考えた結果
目立ってなんぼの好夜はもちろんの事、晃平にも歌ってもらいみんなで歌う曲も考えたのだが
やはり女性にも歌ってもらうべきだと考えて誰に歌ってもらうのがいいか想像し
ここは命に歌ってもらうのが一番いいのではないかと満場一致で決まったのだ
「むっ無理です!わっ私はがっ合唱以外でうっ歌った事はないんです・・・!」
もちろんこれには命も反対しステージでしかも一人では歌いたくないと告げる
そしてクラスメイトもこんな風に言われるのは予め予想していたのでやっぱりかと思っていると
「命・・・それじゃあ俺と一緒に歌うのならステージの上で歌ってくれるか?」
そこへ好夜が現れて一人で無理だというのならば二人で一緒に歌うかと提案してくれた
これに関しては命も最初は恥ずかしさから抵抗感があったのだが好夜の目を見てそれは変わった
(・・・そっか・・・好夜くんは三年生に自分がこれだけ成長したんだって見て欲しいんだ・・・
ううん・・・自分だけじゃない・・・みんながこんなに頼もしくなったんだって・・・)
それは長い間ずっと好夜を見続けてきた命だからこそ彼の考えを読む事が出来た事だった
そして同時に自分も好夜と同じ気持ちで成長したのだという部分を見て欲しいと言う思いもあった
「・・・やっ・・・やります・・・!ひっ一人で・・・うっ歌ってみせます・・・!」
命はいつまでも好夜に頼ってはいられないと自ら好夜の提案を跳ね除けて一人で歌う事を宣言した
これにはクラスメイトだけではなく好夜も驚いていたがすぐにそれは笑顔へと変わっていた
そして現在に戻り命は大事なスタートを任されて宣言通りに一人で歌っていた
曲が始まった瞬間に命の表情は変わりまるで本当の歌手のように声で人を虜にしていた
それはステージを見ていた三年生だけではなくステージの裏にいるクラスメイトも同様だった
同時に会長と香野は命の堂々と歌っている姿を見て泣きそうになる気持ちを抑えられなかった
(・・・本当に立派になった・・・たった一年だが・・・これほど人の成長を感じられた一年はなかった
どうやらもう俺達が手を引っ張らなくても・・・一人で歩いていけるだけの力を持っているようだ・・・
いや・・・一人で歩くだけじゃない・・・生徒会長として必要なみんなと一緒に歩く力が・・・)
会長は命の歌う姿にいつの日か立っているかもしれない生徒会長としての命の姿を想像し
もう自分達がいなくても命は人と手を繋いで一緒に歩いていける力があるとその成長を実感していた
そして命の曲は終わると深々と頭を下げておりみんなは一瞬、遅れながらも大きな拍手を彼女に送った
命がステージの裏に行くと次は晃平が歌う番で彼女に一言、お疲れと言ってステージに上がって行った
「お疲れ様〜!いや凄かったよ!!思わず私達も聞き惚れちゃって仕事を忘れちゃったよ!!」
クラスメイトの一人がタオルと飲み物を渡しながら命に歌声が凄かった事を告げるが何の反応もなかった
それもそのはず今の彼女にはそんな事を聞いている余裕がないほどに緊張と疲れで目が回っていた
その様子を見てこれはダメだとそのクラスメイトも苦笑いしながら自分の仕事に戻っていった
(つっ疲れた〜・・・!歌うだけでもプレッシャーなのに一番手なんて本当に緊張した〜・・・)
初体験の事を人の前でやる事になった命は緊張のし過ぎで既に倒れそうだった
しかしそれでもその疲労しただけのやり切ったと言う思いだけはあった
(会長に香野先輩・・・私を見てどう思ってくれたかな・・・成長したって褒めてくれるかな?)
実際はそれ以上の事を思ってもらっていたのだが今の命には知る由もなく
今はただ、二人が自分の成長を喜んでいたらいいなと思いながら目を閉じようとすると
「おいおい・・・まだ終わってないんだから寝ちゃダメだろ?」
知っている声が聞こえてきて閉じそうな目を開けるとそこには衣装に着替え終わった好夜の姿があった
「お疲れ様!やっぱり命は凄いな・・・!会長も香野先輩もきっと自慢に思っているぜ!」
自分を褒めてくれる好夜に命は疲労や緊張で頭が回らなくなっていたのか倒れるように抱きついてしまった
「・・・少しだけ・・・このままもでもいいかな?」
「・・・ああ・・・今はゆっくり休んでいていいよ・・・命・・・」
命が休んでいる間に晃平の曲が終わっていよいよ好夜の出番となり彼は存分にステージを盛り上げていた
会長や香野もここまで人の心を掴めるのは彼の最大の才能だと思っており誇らしく思っていた
(そして・・・それが他の人の心も動かしていき自分の殻を破るきっかけになっていく・・・
朝宮だけじゃない・・・他のみんなも・・・そして俺らすらも殻を破らせてもらった・・・
如月・・・お前達との出会いは俺達の学生生活の中で一番の宝物になりそうだ・・・!)
最後はステージの上でクラス全員で合唱を行い最後の出し物は幕を閉じた
『・・・以上で三年生を送る祝賀会を終了したいと思います・・・最後に私事になってしまうのですが
三年生の皆様にはこれまで多くの事を教えてもらい色々な事で助けてもらいました・・・
そんな三年生に改めてお礼を言いたいと思います・・・一、二年間・・・本当に・・・』
『『『『『ありがとうございました!!』』』』』
「・・・全く・・・いい加減に泣き止んだらどうなんだ?帰るまで泣くつもりか?」
会長がそう言って隣を見るとそこにはいつまでもないでいる香野の姿があった
どうやら最後の言葉が完全にスイッチとなったようでこれまで我慢してきたものが一気に吹き出していた
そういう会長も最後の最後で少し泣いてしまったのを彼女は知る由もないが
一緒に帰っている会長としては早く香野には泣き止んで欲しいのだがそうもいかないようだ
「だっだって・・・!あっあんな祝賀会を開かれたら誰だって泣いちゃうわよ!
しかも私に内緒であんな衣装まで作って盛り上げてくれて・・・うぇ〜ん!!」
香野でなかったとしてもあれだけの祝賀会を開けば涙が出てしまうのは当たり前だった
現に香野だけではなくほとんどの三年生があの祝賀会で涙を流していたのは言うまでもない
龍間と真島に関しては体育館に響くほどの大泣きをしており正直、うるさいと思った会長は悪くないだろう
「・・・成長したな・・・俺達が思っている以上に・・・これで来年の不安は無くなったんじゃないか?」
しみじみとしながら会長はもう自分達が卒業する事に対して
何の不安もない事を香野に告げ彼女も同じ気持ちになったのではないかと問いかける
「・・・私は最初から心配なんてしてなかったわよ・・・あの子達なら大丈夫だって・・・!」
「・・・そうか・・・ああ・・・そうだったな・・・!」
人の成長・・・それは見ていて楽しいものであると同時に
自分達が成長する為の大きな刺激になるのかもしれませんね




