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「でけた」
やっと刀が一振り出来上がった頃には、既にみんな帰宅の色を浮かばせていた。
「おおー!すごいね!青色の刀!」
耐久性を考え、気魄を何層も上塗りし、デザインにも拘った至極の一振り!
「名前!名前決めよ!」
知里ちゃんがまるでペットを飼った子どものように、正座でぴょんぴょん跳ね、僕の刀を見ている。
「名前か。青い刀。青龍刀とか?」
厨二満載である。
「んー、ありきたりだね」
何気に傷付くからね?
「えー、じゃあ。正宗的な?」
「まあそっちの路線の方が良くはあるね」
遠回しに違うの付けろって事か。
僕と知里ちゃんが、んーっと小首を傾げ、腕を組みながら悩む。
「ねね、ムネリンの名前の由来の武将さんは刀に名前とか付けてなかったの?」
不意にポンっと拳を掌で叩く知里ちゃん。
僕もそれを真似して、その案を受け入れた。
「あ!それだ!笈切り兼光!」
「兼光?ちょいダサいね」
なんてことを!!?
名匠ですよ?兼光さん。
「またの名を雷切!」
「雷切!?かっこよ!!それだよ!」
厨二感満載ではあるが、格好良くないかと言われれば間違いなく格好良い。
なんせ雷神を切ったと言われる名刀。
我が愛刀!雷切!
ここに誕生である!
「はぁはぁ、よ、良かったなムネノリ」
「うぉ!?」
ハイハイするようにして現れたバータル。
その姿は今日戦闘を行っていない第一隊とは思えないほどボロボロである。
「お、俺も、なんとか、出来るように、なた、ぞ」
バタン。
力尽きたように、なんの抵抗もなく顔面を地に打ち付け、全身を投げ出す様子を見て、僕は急いで治癒を施しに行った。
「ち、知里ちゃん!?」
「いやー、つい、ね?」
人を目で射殺すほどのウインク。
この隊長にして、あの第二隊の成長あり。
と、僕は確信に至った。
「ーーーっぁ!はぁ!生き返った!」
仰向けにさせ、治癒を施して数秒後。
死の淵でも見てきたように、目を見開いてこの青い空がある事に感謝してそうなバータルさん。
「あー、バータルや?どんな過酷な目に?」
「すまんムネノリ。今は思い出させるな」
どんだけだよ。
「しっしょーー!」
続いて聞こえたこの声は我が愛弟子。
ハルバードを軽々振りながら、こちらに満面の笑みで向かってくるディミトリー。
「みんなに褒められてまった!」
「なんで田舎モンみたいな喋り方になってんの!?」
「つい!テンションが!ちなみに!もう一つ朗報が!」
ハルバードを霧散させ、側に立ってた知里ちゃんにもおいでおいでして、そばに呼び込む。
「なんと!!明日はお休みです!」
「「は?」」
横たわっていたバータルすら呆気にとられる発言。
「何お休みって。アナナキどもにそんな慈悲あるわけないだろ」
「えらい言われようですね」
来るとは思っていた。
こいつ僕の一言一句、盗聴しているのではないかと最近疑っている。
今まで何もなかった僕の隣にエリームが現れた。
「あれ?今日はオマケ連れてねーの?」
「クマモト様は既に帰りました」
「あぁ?なんだあいつ。サボりか?」
「ふふふ。そう言ってると怒られますよ?」
片方の口の端だけを上げ、不敵に笑うエリーム。
「なんだ?なにやらかすんだ?」
「やらかすとは失敬な。明日はお休み。体も心も労って貰わねばなりません。ならば?休日の前夜。何をなさる?」
「え?なに?まさか飲み会とか?」
「ザッツライッ!!」
「「マジで!?」」
またもや一同ハモった。
飲み会!?
良いの!?そんな事してて良いの!?
「ほんとに!?ほんとのほんとに!?嘘だったら針千本食らわすよ!?」
飲ますのと食らわされるのどちらが良いのだろう?
今にもエリームに掴みかかろうとする勢いの知里ちゃんに、エリームもタジタジな様子。
「えぇ、ほんとですよ。隊対抗戦も終了し、休息を取るには丁度いい頃合いじゃないかと相なりまして。それで英雄間でも互いの交流をもっと深めてもらう意味合いも込めて、決起会を開こうかと。それで今クマモト様の指示のもと、人間世界で好まれている食べ物や、飲み物などをリストアップしてもらって準備されています」
「あいつどこに行っても飲み会の段取りするのね」
さすが文学サークルとは名ばかりと言われてしまう我がサークルの飲み会部長。
「師匠あとね!まだびっくりすることあるます!」
「落ち着けディミトリー。言語が可愛くなりすぎてる」
「可愛いって言われたー!!」
膝をついて身を乗り出していたディミトリーは、テンションの増加に伴い、前のめりが過ぎて前転し、一回転後片膝をついて両手を横に広げテレマーク。
喜び方が人外になってきてるな。
これも第二隊の影響か?
「私も!私も!言われたい!久々言われたいまであるぜんちん!」
こちらもこちらで休日と飲み会の発表からテンションがおかしくなっており、正座でぴょんぴょん跳ねていたかと思うと、跳ねた状態で両手のみを地につけた異形な姿で静止するという喜び方を見せつけていた。
さすが元凶。
「ええい荒ぶるな!静まりたまえ山の主ども!ディミトリー!早く申せ!」
「はい!!なんと!家族と電話出来ます!」
わーーーお。
ほんとびっくりしちゃった。
「な!?ほんとか!?ほんとに家族と電話出来るのか!?」
いつもの調子でやっちゃダメバータルや!
肩ガクガクは僕だけにしとけ!
ディミトリー泡吹いてるから!
「本当ですよバータル様。電話というか、テレビ電話というか、私たちの発明による通信手段でお話しできます。本当は直にお会いさせたかったのですが、さすがにそれは出来ず。申し訳ありません」
「いやいや!まさか話せるとは思ってなかったから全然それでもありがたいよ!サンキュー!リム!」
「本当だ!ありがとう!アナナキさん!心配で堪らなかったんだ!!本当にありがとう!!」
バータルはそう言って、エリームの肩もガクガクと揺らしている。
首が折れるんじゃなかろうか?
でもまさかここまでバータルが喜ぶとは。
勿論僕や知里ちゃん、ディミトリー、他のみんな、特にイヴァンなんかめちゃくちゃ嬉しいだろうけど、バータルのこの嬉しがりようは、見てて目頭が熱くなるほどだ。
「皆様が喜ばれていて私も嬉しいです。明日も楽しみでしょうが、今日はまず飲み会!存分に楽しんで、日頃の疲れを癒してください!」
「「おう!」」
こちらの世界に来て、沢山笑顔を見てきたが、ここまでみんなが笑顔になっているのは初めてかもしれない。
「宗則さん!」
「どしたの!?」
正座をし、三つ指ついてこちらに頭を下げている知里ちゃん。
「お、お義母さんに!お、お許しを!」
「え!!?明日言うの!?」
結婚の挨拶をテレビ電話で!?
ま、まぁ、戦争前だし、行って帰ったら言うつもりだったけど。
いきなりじゃない!?
あなたも緊張しているのは見てわかるけど!
僕の方も同じくらい緊張するのよ!?
「事は火急かと」
「急がば回れだよ!?」