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姐御はやっぱり凄い。
ボロボロになって、右腕が上がってないところを見ると、もう使い物にならないのかもしれない。
至る所に刺し傷があって、太ももなんかザックリ切れて、血が動く度に地面に落ちてる。
それでも。
「やぁ、ディミ助。不甲斐ないとこ見せたな。ちょーっと待ってろよぉ。今全員シメてやっから」
なんなんだろう。
なんでこんなに強いんだろう。
姐御を見ていた僕にジョージさんが躊躇なく気魄弾を放ってくる。
なんだこれ?
こんなのに僕は苦戦してたのか?
姐御の気魄弾の何百分の一だよコレ。
僕は思いっきり飛び上がり、その気魄弾を蹴り返してやった。
ディジーさんだぞ?
実力No.2だぞ?
なんでその人とやり合ってるのに、他の人ともやり合えるの?
次にイザベルさんが突進してきた。
なんだそれ?
姐御の突進は、来てるなんて思わせないぞ。
あっ!って思ったらもう殴られてる。
僕はイザベルさんの突進を、踏ん張って腰を落とし受け止めた。
流れるような動きで腕を取られる。
遊んでんのか?
姐御の接近戦見たことあるか?
腕は取るんじゃなくて、捥ぐんだよ。
僕はその取られた腕を振り翳し、地面にイザベルさんごと叩きつけた。
「おい、なんで二人掛かりで来ないんだ!僕を舐めてんのか!!」
不意に声に出そうともしてなかった言葉が口に出た。
僕の言葉で2人は何かが弾けたように、二人掛かりの攻撃を繰り出してきた。
ジョージさんの本気が伝わった。
あのマシンガンの様な気魄弾。
アナさんとのコンビネーションだけじゃないはず、イザベルさんでも同じ事が出来る。
でも2度も同じ手で、僕を倒せると思ってんのか?
僕は大きくバリアを張り、そのバリアの中にもバリアを張った。
二重のバリアを張り、降り注ぐマシンガンの弾丸の雨を受けながら、ジョージさんに進んでいく。
バチバチと音がして、一層目が壊れた。
だけど尚も進み続ける。
ジョージさんの顔に緊張が浮かんだ。
『恐がらせろ!相手を怯ませる威圧も攻撃だ!』
姐御の言う通りだ。
今のジョージさんの表情が、僕に好機を感じさせる。
進んでいた脚を踏ん張り、その後思いっきり踏み込んでジョージさん目掛けて飛びだした。
最後の層が割れクロスした腕で防御するも、物凄い衝撃が全身を襲う。
だけど僕は止まらず、カメンガさん直伝のジグザグ走行でジョージさんに迫る。
来るっ!
マシンガンの雨が不意に弱まった。
止めないあたり、僕を舐めてないのが伝わって場違いにも笑みが零る。
そして右横の視界が動いた。
「は!!!」
クロスしていた腕をそのまま左右に開き、防御しながら練っていた威力の高い気魄弾を撃ち込んだ!
右だけじゃない!!
「どれだけしぶといんですか、アナさん」
勘だった。
左にも似たような気配があり、あのアナさんの戦闘に対する気迫を思い出したら、絶対に来る気がした。
「はぁはぁ、あらぁ。よくわかったわねぇ。あの子は逃げ回るものだからこっちに来ちゃった」
カメンガさん。
あの人が敵前逃亡を選んでまで、、
絶対悔しいはずなのに!
「ウチの旦那の可愛い弟子に、貴様ら寄ってたかってなにしてんだゴラァ!」
僕の体に降ってくる、いつもの綺麗な色をした気魄が僕を包み込む。
姐御の気魄は、ほんといつ見ても綺麗。
そんな事を思っていると、真上から地震が降ってきたみたいな衝撃を受けた。
綺麗な気魄は溶け、僕の真後ろに降りてきた姐御。
「良いねぇ。今のムネリンそっくりだったぞぉ」
振り向かずにそう言ってくれる姐御。
それがどんなに嬉しいか。
言われた言葉も勿論だけど、こうして姐御の背中を守らせてもらってるこの状況が、僕にはなによりも嬉しかった。
「当たり前です!立花宗則が弟子!ディミトリー・スミリノフ!姐御の背中は僕が守るんです!!」
「あらぁ、お嬢ちゃんにしては勇ましいことぉ」
腕を組んで、悪魔に魂でも売ってるんじゃないかと思うほどの凶悪な嗤い顔のアナさん。
「な!?また!お嬢ちゃんって言うなぁ!」
また!アイツは僕を!!
「ディミトリー・スミリノフ」
背後から優しい声が聞こえてきた。
こんなにも優しい声が出せるのか?
この魔王さまは。
「女も捨てたもんじゃないぞ?」
「え、、?」
「見ろ私を。デイジーをアナをイザベルを。約1名男もいるけど。お前の格好いいと思う、ムネリンやバータルやイヴァンやブラッド。私たちはそいつら男どもに負ける気なんか全然しない。雄々しいが褒め言葉で、女々しいがなんで侮辱の言葉なんだ?」
「ーーーーー」
姐御の言葉を、僕達を囲む人たちも黙って聞いている。
「私は最強だ。お前に格好悪いなんか思わせない。ムネリンが男の鑑なら、女の鑑は私がなってやる。お前はそのどっちの背中も見て、私たちより格好良くなってみせやがれ」
"女"
僕はなんで、その人たちがこんなにも格好良いことに気付かなかったんだろう。
「はい!!!」
「そう言う事だからメスゴリラども。と、そこのモブ。テメェらに負けたら顔が立たん。殺す気で行くから覚悟しろ」
「フンっ!そう言う事なら私もチンパンジー如きに負けるわけにはいかないわ。女の鑑がこれじゃ世の女性に失礼よ」
「うふふ。勇ましいわぁ。ほんと素敵よねぇあなたって。でも負けてはあ・げ・な・い」
「メスゴリラ、、、。デイジーちゃんだけにして!!」
「ちょ!!」
コンっと後ろから肘で小突かれた。
不意打ちを狙え!
姐御がそう言っているのが手に取るようにわかった。
さすが魔王の中の魔王。
僕は一番隙を見せて、自分も何か言おうとしていたジョージさん目掛けて、気魄弾を撃ち放った。
「俺にもなんか言わせろ!!」
ーーーーーーーーーーー
それから僕達は時間制限ギリギリまで戦った。
僕は死に物狂いで姐御の背中を守り続けた。
でも僕と姐御だけじゃない。
4対2ではなく、4対3なのだ。
空気が震える程の咆哮を上げ、全身に気魄を纏わせながら走って来たカメンガさんはなりふり構わない捨て身の突進でジョージさんに激突。
蹴りとか気魄弾とかそんな攻撃と呼べる代物ではなかったけど、全身全霊力を込めてのタックルはジョージさんの体を射抜かんばかりに突き刺し、見事意識を刈り取った。
その勇ましい姿にテンションを振り切った姐御は僕たち諸共消し飛ばす気か?という程のフルパワー気魄弾をデイジーさん目掛けて撃ち放つが、それさえも予期しサポートに入るアナさん。
だけどさすがに、前のダメージも合わさり限界に達した体ではあの気魄弾は処理しきれず戦闘不能となった。
しかしアナさんはそのフルパワー弾を身一つで受けながらもデイジーさんには一つもダメージを与えさせず、そればかりか膝をつきはしたが倒れる事なくナイフも握ったまま意識を失っていた。
その姿は姐御やデイジーさんに見劣りしない化物に見えた。
本当に凄い。
その一言に尽きる。
勝利条件である隊員2名戦闘不能。
僕たちは辛勝ながらもあの第三隊に勝ったのだ。
その後治癒された朱さんはやはりかなり悔しそうだったけど、僕の事をMVPだと褒めてくれて一緒に喜んでくれた。
カメンガさんも普段見せないようなはしゃぎ方で喜んでいた。
それを誇らし気に眺めながら微笑む姐御。
その第二隊の姿を見て、僕は今までにない達成感を味わっていた。
僕はこの第二隊を守りたい。
朱さんを守る。
カメンガさんを守る。
姐御を守る。
今はそれだけでも精一杯。
でもいつか、姐御みたいに誰よりも強く、師匠みたいにぜーんぶ守るって言えるような格好良い人間になりたい。
そんな風に思えていた。