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気魄弾を放つ。
その後ろに身を隠し、アナさんに接近する。
気魄弾が当たった。
防御もしくはさっきと同じ振り払い。
ならば、もう一度!
至近距離での気魄弾を思い切り打ち込む。
姐御がよくやるゼロ距離射撃だ。
すぐに爆風が舞い、激突した事を知らせてくる。
今度こそ!
前蹴りを視界が定かではないが、打ち込む。
恐らく腹。
だが、そこに居るはずの物体がない。
来る!
カウンターを予期し、全身にバリアを張った。
無い。
カウンターどころか、殺気すら無い。
「ディミ、、」
背後からの苦鳴が上がった。
爆煙を中段蹴りで振り払い、その勢いで背後を向く。
そこにはカメンガさんの体を踏みつけた、アナさんの姿があった。
「私も気魄弾くらい使えるのよぉ?なにと戦ってたのかしらぁ?」
当てたと思ってたのは、停滞させていた気魄弾?
嘘でしょ?
それで回り込んで、カメンガさんを?
「卑怯だぞ!!」
「あーあぁ。言っちゃった。それ一番言っちゃいけないやつぅ」
つま先でカメンガさんの腹部を刺す。
苦鳴が弱い。
「お前ぇ!!」
僕はその光景に言い知れぬ殺意が湧いた。
同じ仲間だぞ!?
隊対抗戦という訓練だぞ!?
「このイカれ女!!」
そう叫んでアナさん向かって飛び出す。
この感覚は味わったことがある。
姐御に一対一で挑んだ時、返り討ちにあって意識を飛ばされた時と同じ感覚。
わかってた。
僕のこの攻撃に、隙しかないことを。
だけど、どうしてもブン殴りたくて。
勝手に体が飛び出していたのだ。
「はぁい、終わり」
僕の右手が空を切った。
前のめりになり、不意に地面に倒れているカメンガさんが目に入る。
腹を2度も刺され、半死半生どころか、瀕死に近いカメンガさんのあの勇ましい目がまだ戦うのだと言っているみたいだった。
負けたくない!!
僕はその目を見て、一瞬にして湧き上がった怒気を何も考えず体で表現した。
回避されたパンチ。
何が来るかもわからないカウンターに、僕は我武者羅に体を捻って脚を突き出し、そこにいるだろうくらいの勘で四肢を思い切りバタつかせて倒れていく。
当たった。
突き出した、天を向けている足のほんの先が、アナさんの頬に当たったのだ。
僕の腹目掛けて突き刺そうとしたナイフはその足の衝撃で視界がズレたのか目測を誤り、流れていた僕の左腕に突き刺さった。
それを見ていたのか、「がぁぁぁ!!」と獣のような咆哮をあげ、寝転んでいたカメンガさんが起き上がり、蹴りを思い切りアナさんの顔面にぶち当てた。
僕は見た。
アナさんのあの綺麗な顔が、息を飲むほどひしゃげていく瞬間を。
アナさんはそのまま、なんの抵抗もなく転げて飛んでいき、動かなくなった。
勝った。
勝ったのだ!
次第に緩んでゆく頬。
カメンガさんの方を見ると、カメンガさんも笑っていた。
「まったく。無茶すんなディミ助」
「ごめんなさい」
腹部を刺された二箇所に、赤い気魄がまだ纏われている。
早く手当をしなくちゃ!
「朱さんは?どうなってる?そっちが先だ」
既に朱さんならばと思っていた僕は、言われる通り朱さんの方を見る。
「っ!!?」
そこにはジョージさんを目の前にしながら立ち、首にはイザベルさんの腕が巻きつかれている朱さんの姿があった!
「ディミ助!?うごけ!」
起き上がれないカメンガさんは、朱さんを見れない。
だけど僕の表情で察したのか、すぐに向かうように指示した。
が、それも遅く。
ガクンと崩れ落ちる朱さん。
「朱さんが」
たった今敗れたのだとその瞬間を目にした僕は、状況についていけなくなっていた。
なぜ、イザベルさんが?
「朱さんが負けたのか!?ディミ助!隊長のとこに行け!俺はこのままこの状況を持ち堪える。ある程度すればそっちに行く!まだ!まだ俺は戦闘不能じゃない!!!」
カメンガさんは見たこともないほど鬼気迫った様子で、腹を押さえる逆の手で僕の脚を握りしめる。
痛いほど強く握られている。
カメンガさんは負けたくないんだ。
腹を二箇所も刺されて、考えられないような痛みにも関わらず、戦闘不能じゃないという。
立ち上がって向かってくると言う。
「もう2度と!!俺らの隊長に!負けをつけさせるなぁ!!クソォ!痛え!!!あぁぁ!クソォーー!!!行けえ!ディミトリー!」
僕はバカだ。
自分じゃなくて、姐御じゃないか。
カメンガさんは、姐御に負けて欲しくないんだ。
自分のせいで、姐御が負けたと思ってるんだ。
だからあんなに頑張って強くなろうとしてたんだ。
あんなに強い姐御が、僕達のせいで全敗?
ふざけんなよ!!
「わかりました!!!絶対!!姐御を勝たせますから!!黙って座って見てて下さい!!」
ジョージさんと、イザベルさんは、なんの躊躇もなく姐御に向かって行ってる。
ふざけんなよ!!
姐御が3対1くらいで負けるとでも思ってんのか!?
「僕と戦え!!こんにゃろーー!!無視してんじゃねぇーー!!!」
僕は腹の底から怒っていた。
こっちに見向きもしなかった!
アナさんが僕達2人を仕留めるんだって、そう確信してたんだ!
僕は一度大きく自分の頬を拳で殴りつけた。
刺された腕が痛い、未だに頭がガンガンする。
そんなの誰でも一緒だ!
腹でもなんでも刺してこい!!
一気に湧き上がってきた。
腹の底から、怒気とも違うなにか胃から上がってくる熱い胃酸みたいななにか凄いモノが込み上がってきた。
「行ってきます!!」
「勝ってこい!!勇者!!」
カメンガさんは刺された腹に気魄を纏わせながら、半死半生にも関わらず体を起き上がらせて微笑んでいた。
絶対に勝つ。