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気魄弾?
細かいと言えど、小石くらいの大きさの気魄弾っぽいモノがかなりの数迫ってきた。
「バリアぁ!」
カメンガさんに前方から叫ばれる。
気魄弾の粒をマトモに食らうカメンガさん。
僕も咄嗟に言われた通り、バリアを張る。
気魄のバリアは、気魄を固形化して壁にすることで、防御する技だ。
とは言え、一撃一撃の気魄弾ならまだしも。
こんなに沢山の攻撃には、対応出来ない。
面積の小さい、沢山の気魄弾。
マシンガンを撃たれているような感覚だ。
徐々に徐々に亀裂が入り、今にも砕けそうになるバリアに、気魄を送り込むことでなんとか耐える。
これでは動けない。
後ろの朱さんはバリアを張れただろうか。
もう持たない!
と、判断し、少し食らってでも離脱を試みようとした時、連射が止まる。
「ディミ助!上!」
背後から朱さんの声。
声通りに目線を上げようとしたが、強制的に頭を下げさせられた。
頭の中に響く鈍い鐘の音。
バリアが完全に砕け、頭蓋骨も砕けたのでは?と思うほどの激痛が走った。
「オラぁ!!」
僕の真横を通り過ぎる人影。
それを追うようにして気魄弾も過ぎていった。
「しっかりしろ!ディミ助!」
朱さんが駆け寄ってきてくれ、肩を支え立たせてくれる。
「なんだ今の!?」
「俺の必殺技だ!マシンガンスプラッシュだ!」
ダサい。
頭に響くジョージさんの高笑い。
「ほんと、ださいわねぇ」
いつのまにかジョージさんの真横に立っているアナさん。
僕の頭を殴りつけたのはアナさんのはず。
「カメンガさんは!?」
「なんだ?やられたと思ったか?」
朱さんと逆の方に現れるカメンガさん。
「良かった」
「逃げ足だけは速いんでね」
未だに力の入らない体。
その背中にカメンガさんが力強く張り手を食らわしてきた。
「気合い入れろディミ助。2対3だぞ!隊長にドヤされる!」
その通りだ。
こっちが数的有利なら、隊長は数的不利。
ハンデ貰って負けたんじゃ、殺される!
朱さんからの補助を外し、3人が立ち並んで2人を見る。
あのダサい名前は置いておいて、かなり厄介な技だ。
攻撃範囲も、威力も、持続性も高い。
それにアナさんのあの俊敏性。
完成されたコンビ技だ。
「カメンガ、ディミ助。突っ込め。任せろ」
朱さんの短い言葉での指示。
それに頷いた僕達は、構えを取ってタイミングを計る。
「行くぞ?ーーー今だ!」
息を合わせ2人して飛び出す。
カメンガさんの足は英雄軍でも一番速い。
だけど、僕もそれに次いで速いって言われてるんだ!
カメンガさんの全速力に必死でついていく。
ジョージさんの構えが目に入った。
すぐさま僕達は視線で合図し、真っ直ぐの突進を二股に分かれて半円を描くようにして2人に迫る。
「眠れる獅子もびっくりして飛び起きるぞ!オラ、一発くらってみやがれ!」
二股に分かれたど真ん中を、気魄弾とは呼べない光線のようなモノが突っ切っていく。
僕とカメンガさんよりも速い。
僕らが到着する寸前、ジョージさんの相殺する気魄弾すらも弾き飛ばし、その光線はジョージさんを捉えた。
大きな爆発音。
その爆心地にカメンガさんが先に着いて、蹴りを繰り出した。
しかし、ジョージさんを庇うようにしてアナさんが立ちはだかりナイフで受け止めていた。
どうしてもカメンガさんに追いつかない僕は、必ず遅れてしまう。
その時間差を狙った攻撃。
カメンガさんからの蹴りを受けるアナさん目掛けて、気魄を纏わせた拳で殴りかかる。
その前面に、現れるジョージさん。
もう立ち直ったのか。
でも、それもお見通しだ!
「オラオラオラ!よそ見してんじゃねぇ!」
僕を見定めていたジョージさんの真横を、朱さんの拳波が激突。
その後走ってきた勢いを殺さずにジョージさんに突進しながらの殴る蹴る。
それは止まる事なく、押されながら防御の間に合わないジョージさんは、なすすべも無く蹂躙されていた。
朱さんとジョージさん。
接近戦なら圧倒的に朱さんに軍配があがる。
僕はそちらの戦況から目を離し、カメンガさんと相対するアナさん向けて、躊躇なく気魄弾を連弾で放つ。
それに合わせて飛び退くカメンガさん。
腰を低くし、最後の一発の準備に入った。
「凄いわぁ、全く容赦がないのね」
ん!?
先程から違和感はあった。
僕の放っている気魄弾。
当たってはいるのだが、その衝撃を受けている箇所がおかしい。
狙いは確実にアナさんを捉えているのに、破裂しているのはその足元。
弾かれてる!?
この至近距離で!?
しかも爆煙で視界も覚束ないのに!?
「カメンガさん!ダメだ!」
このまま突っ込めば、アナさんの術中にハマる!
僕はそう判断して、カメンガさんの突進を制止した。
「えぇー。面白くないわねぇ」
気魄弾を止めると、爆煙は一瞬で振り払われ、無傷のアナさんが嗤いながら現れた。
「なんなんだよウチの女性陣は」
全くです。
カメンガさんの発言に同意しつつ、僕達は互いの距離を近づけて、アナさんに対峙し直した。
「男の子でしょぉ?満足させなさい?」
アナさんはそう言って、さすがにボロボロになって着ているかも定かではなくなった上着を脱ぎ捨て、露出度の高いキャミソール姿になった。
くっ!!
エロい!!!
カメンガさんも目のやり場に困った様子。
「可愛いわねぇ」
声がした瞬間、僕の眼前に現れたアナさん。
細い膝が僕の顎をかすめた。
と、その瞬間。
膝を打ち込んだ脚とは逆の脚が、反転した体とともに、隣のカメンガさんに伸びていた。
蹴りはつま先での突き。
僕の迎撃のパンチを軟体動物のように避け、また間合いを取られた。
なんだ!?
二人掛かりを格闘でやるつもりか?
「ぐっ!」
アナさんを見ていた僕の視界の端が大きく動く。
見るとカメンガさんの体が、くの字に曲がり、腹を押さえた指の隙間からダラダラと血が流れていた。
え?
蹴りで腹を突き刺した?
僕の疑問を察したのか、ワザとらしくカメンガさんに突き刺した脚を曲げそれを払って見せた。
振り払われる血飛沫。
アナさんの靴のつま先からは、鋭利な刃物が飛び出しており、僕の恐怖を一瞬で駆り立てた。
なんだあれ。
「外道なんて言わないでねぇ?これは喧嘩じゃないの」
わかってる!
だけど!
嫌悪感は拭いきれなかった。
「大丈夫だディミ助。バリアを応用して血を止めてる。まだ戦える。急ぐぞ!」
バリアでの止血。
考えもしなかった。
「あぁ!!勇ましいわぁ!良いわねあなた!そこのお嬢ちゃんよりずっと素敵」
ーーーお嬢ちゃん?
一瞬言われた意味が理解できず呆けてしまった。
だが理解が追いついたその瞬間。
僕の何かがキレたのがわかった。
今この人は、僕の事をお嬢ちゃんって呼んだ。
僕の事を、お嬢ちゃんって!!
「ふざけるなよ!誰がお嬢ちゃんだぁ!」
「ディミ助!乗るな!冷静になれ!」
僕の腕をカメンガさんの手が掴む。
だけど僕は、その手を振りほどいた。
「お嬢ちゃんじゃない!!撤回しろ!!」
「あらぁ、ヒステリック?これだからキャンキャン煩いお嬢ちゃんは嫌いなのよぉ」
もういい。
喋るだけ無駄だ。