第二隊vs第三隊
宣言通り、カメンガさんは単騎で敵陣へと突っ込んで行った。
まるで背中に突きつけられた銃口から逃れるように。
第三隊。
最前衛に主力である隊長のデイジーさんを置き、その背後に4人が一列に伸びる隊列を組む。
デイジーさん以降は、度々配列を組み替えるようで、今日はアナさん、ジョージさん、イザベルさんの順。
我等が特攻隊長。
黒雷の異名(命名姐御)を持つその走りは、大地を抉りながら進んでいるのかと錯覚するほどもの。
通った後は焼け焦げた後のように、ほんのり煙が上がっている。
ジグザグと照準を合わさせない走りが雷っぽい!という事で付いた名前通り。
デイジーさんの構えるレイピアがカメンガさんの動きに合わせて揺れている。
動きに慣れさせているのだろうか?
しかし、そんな余裕は無いはず!
カメンガさんの走るスピードは、姐御の気魄弾並みなのだ!
単騎で駆けるという奇襲にも似た初手に、驚く時間も与えない。
あっという間にデイジーさんにたどり着いたカメンガさんは、軽く飛び上がっただけでもその驚異のスピードに乗り、物凄い勢いでデイジーさんに迫る。
右脚を構え、蹴り込む。
それがカメンガさんの初手だと見極めたデイジーさんも刺突を合わせにいく。
剣と生身の脚。
普通なら生身の脚に剣が突き刺さるが、そこは姐御直伝の気魄バリアのお出まし。
姐御曰く、基本何かしら纏えば強くなる!らしく、気魄を纏った蹴りはデイジーさんの突き出すレイピアとほぼ互角に渡り合うほど
の強度を誇っている。
強度が互角ならば、超スピードと、元来の大地を穿つシュート力を合わせたカメンガさんの蹴りを止まっていたデイジーさんが受け切れる筈がない。
それでもレイピアを突き出したままの態勢で、後ずさっただけに留めたのは、後ろの仲間の支えあってこそだろう。
「ドカンと一発ブチかまさなきゃ!帰れないんです!!」
全力で蹴り込んだカメンガさんは、直ぐに軸足だった左脚を弾き、後退したデイジーさん向かって飛び込んでいた。
右脚を直し、大きく僕達を向くようにして腰を捻らせ、一度姐御を見る。
目には怯えしかない。
だが、目線を外せばコンゴの英雄。
黒雷、マラバ・カメンガの瞳は一瞬にして目の前の相手に敵意を剥き出しにし、捻った腰について行くようにして、左脚が音を立てて薙いで行く。
しかし甘くないのが第三隊。
それを予期していたように、アナさんがデイジーさんの肩に手をつき、飛び上がって迎撃の態勢に入っていた。
蹴り込む位置よりも高く、カメンガさんを斜め上から突き刺そうとするナイフ。
しかも逆手の力の入る握り方で二本同時に。
ボンッという破裂音。
その音と共に、アナさんの体が吹き飛ぶ。
「不粋である」
背後から聞こえてきた声で、目には見えなかったが何が起きたのかはわかった。
アナさんの迎撃が狙撃され、なにも障害の無くなったカメンガさんの蹴りが繰り出される。
デイジーさんはそれを辛くもレイピアの根元で受けるが、カメンガさんの利き脚は左だ。
さっきよりも一段階上の威力は第三隊ごと吹き飛ばし、今度こそ隊列もバラバラになり、ダメージを受けた様子になった。
額の汗を拭いながら、猛スピードで帰還するカメンガさん。
「隊長!ありがとうございます!お手を煩わせました!」
アナさんの迎撃を気魄弾で狙撃した姐御に、まず感謝と謝罪。
礼は大事だ!姐御の教えである!
「構わん。大儀であった。よし!網は温まった!バーベキューと洒落込もうではないか!!」
そう言った姐御は、既に僕達の目の前を全力疾走で駆け抜けていた。
「いかん!俺らも行くぞ!ディミ助は俺の後ろ!カメンガは俺の前!縦一列で向かう!」
「「はい!」」
「俺らもオマケじゃねーんだ!!戦果をあげるぞ!」
「「はい!」」
姐御が一瞬チラッとこっちを見た気がする。
朱さんはあのカメンガさんの一件から、凄く頼りになる人になった。
元々そう言う人だったのか、意識が変わったのかはわからないが、姐御が気に入って副隊長に任命されるぐらいだ。
今では堂々たる副隊長。
みんなすごい!
カメンガさんだって、びっくりするほど強くなっていってる。
ずっと訓練後に個人的な姐御のスパルタ指導を受け、最近はイヴァンさんのところにまで自主的に戦術を学びに行ったりしている。
僕は何をしてたんだろう。
あれだけ英雄とは!とか言いながら。
ダメだ!
戦闘中だぞ!?
弱気になるな!
絶対、戦果をあげてやる!!
決意を改めて戦況を見つめる。
火の海が出来ていた。
「うぉー!高まるぅーー!!これが噂のBBQ殺法!!その名も魔王の日曜日!!」
姐御はそう叫びながら、凶悪な笑顔を爆風に晒し、髪を巻き上げられながら、宙に浮いておられました。
小さい、僕とあまり変わらない(姐御の方が少し低い)背丈で、痩せている(色んな意味で)姐御は、自分の放つ気魄弾の反動でずっと空中に浮遊出来る。
その体勢のまま、第三隊目掛けて十八番の超弩級気魄弾を連弾していた。
「わー、息巻いたすぐだけど、アソコは俺たちもアブねーな」
カメンガさんの肩を叩き、止まるよう指示した朱さんは、棒立ちで熱風を顔に受けながら、その戦場に近づく危険性を伝えた。
「あらぁ、どっちもどっちよぉ?」
既にジャージの肩の部分が焦げ落ちているアナさんが爆風からナイフを両手に下げ、歩いてきていた。
「おお!あの爆心地からよくぞここへ!お出迎えするぞ!お前ら!」
幸か不幸かあの場に向かわなくて済んだアナさんの登場に、朱さんは全力を持って歓迎する様子。
ポンっともう一度、カメンガさんの肩を叩く。
逆の手は朱さんの背中でパーの形に開かれている。
カメンガさんにゴーを出し、僕には待てと示している。
歩いて向かってくるアナさん向かって、走り出すカメンガさん。
爆炎を背にするアナさんの顔は、ぼんやり暗くて見えないが、笑っている様に見える。
間合いに入り、お互いが構えを取る。
すると、アナさんの背後の光景がブレた。
朱さんの手がグーに閉じる。
僕はそれを見て、すぐさま駆け出した。