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「ディ、ディミトリー!?」
寝てるもんだと思い込み、自分のベッドに座ってエロ本を開いていたら、肩越しからディミトリーがそれを覗き込んできていた。
「ディ、ディミくん!?」
僕の声に熊本くんもガバッと起き上がり、エリームもまん丸と目を見開いている。
「師匠。これは刺激が」
と言いつつもしっかりガン見しているディミトリーに、ヤバイと判断した僕は即座にエロ本を閉じる。
「あ!なんで!」
「なんでもかんでもあるかい!なにしとんねん!」
エロ本を僕の背後に隠し、立ち上がって四つん這いで悔しそうにこちらを見ているディミトリーに向き直る。
「これも僕の悩みを解明するいい機会だと思いませんか!?」
「ぐっ!」
そう言われれば、何も言えなくなってしまう。
「ディミくん!?まさか、見たいのかい?」
「いや、別に?そこまでして見たくはないですけれども?僕の悩みを解明するためなら?吝かではない気も?しないでも?ないのでは?」
あらまー。
最早解明したまであるわその顔。
口をとんがらせ、目をバタフライさせているディミトリーに、僕は何故か笑いがこみ上げてきた。
「ちょっと師匠!?笑うのはどうかと!?」
「い、いやすまん。完全に16歳男子の顔だったからつい」
と、言いつつも未だに込み上げる笑いがおさまらない僕。
なんか安心したというか、さっきまでのがアホらしいというか。
「ってい!!」
ーーーは!?
後ろ手に持っていたエロ本が、喪失する感覚。
振り向くと、ベッドの上に立ち、僕から奪い返したエロ本を後生大事に抱き抱えている熊本くんの姿があった。
「おーう。帰ってきたのねマイハニー。へん!盗っ人の手にも思春期小僧の手にも渡しません!」
「往生際がクソ悪いなてめえ。返せ!」
「そうですよ!兄さん!僕の今後がかかってるんです!見せて下さい!」
「返せってあるかお馬鹿たれ!元々僕のだ!ディミくん!?R18!まだ見れないの!」
んっま!と汚らわしくエロ本にキスするアホ。
僕は何故かこの状況が楽しくなり、熊本くんのもつエロ本向かって飛び出した。
それに呼応するかのごとく、ディミトリーも熊本くん目がけて突進。
あっちが奪い、こっちが奪いを繰り返し、終いにはエリームまでもが参戦する大乱闘。
すったもんだは結構長く続き、疲れ果てた僕達は一旦エリームの元に渡ったエロ本を見定めながらも、ゼェゼェ息を切らし、各々休憩を取っていた。
「はぁはぁ、男の欲望がこれほど凄まじいとは興味深い。はぁはぁ、ここは一つ提案がございます」
部屋の角に立ち、背後にエロ本を隠したエリームが、肩を上下させている。
「はぁはぁ、聞こうじゃないか」
僕は今動くのは得策ではないと察し、エリームの提案を聞くことにした。
「ここは、全員での鑑賞を提案します」
「アホンダラ。約1名R18未満が居るんだ。見せれるか!」
「し、師匠!まだそんなことを!?」
「ふふふ。伊達に私もクマモト様に毒されていないのですよ!秘技!」
そう言ってエロ本片手にライダー変身ポーズを決めるエリーム。
マジで大丈夫か、アナナキ。
「この世界ではR指定不介入説!!」
な、な、なんと!?
あの噂の、ファンタジー作品や異世界転生作品に散見されるパワーワード!"この世界では成人は15歳"というご都合主義理論!!?
「なるほどリムさん。その手がありましたか」
納得した様子の熊本くん。
しかし!!
良いのか!?いいのかそれで!?
さっきあんだけ現実の常識がどうのとか、アニメだから許されるとか、普通だったら一発実刑とか宣いながら、やってしまうのか!
その禁忌を!!
「このアナナキ世界!最早平均年齢4000歳以上の超高齢化社会!!R指定など無意味も同然!どうだ!ぐうの音も出んだろう!」
「お前日に日にキャラ崩壊してるぞ!?良いのかそれで!アナナキ=神とか絶対言わせねーからな!?」
「いいもんねー。別に私達が神と呼べなんて言ったわけじゃないしー?ウンコだってするんですーだ!」
ダメだ。
コイツ完全に壊れとる。
「立花氏」
「なんだ、熊本氏」
「それはそれ、これはこれ」
何を悟りきったような顔で肩に手当てながら頷いてんの?コイツ。
「師匠」
「あん?」
「それはそれ、これはこれ」
あらまー。飲み込みが早い子だとは思ってたけど、まさかこんな時までか。
「多数決で全員鑑賞を決定します!」
3対1の劣勢により、全員での鑑賞を余儀なくされてしまった。
民意は危険だよ!?
民意が人を殺す日が来るよ!!?
エロ本担当アナナキのエリームさんは、恭しく礼をして、僕達を横一列に並べと手で示す。
アホ男子である我等3名は、なんの躊躇もなくそれに従い、ベッドとは反対のスペースにしっかり並びおおせた。
化粧台を背にして、正座するエリームさん。
僕ら3名の前に聖典を置き、もう一度深く礼をする。
僕らもそれを見習って礼を返した。
「それでは、はじめます」
「「はい」」
返事を聞き、噛みしめるように頷いたエリームは、その聖典を一頁一頁、インクの滲みすら判別できるほどの刻をもってして、めくり続けた。
「師匠。僕、やっぱり男みたいです」
刺激が強過ぎたのか、暴れ回ったからなのか、全ての聖典がめくり終わった頃には、ディミトリーの鼻から血が垂れ流されていた。