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「僕は、どうしたら?」
「落ち着かれる事です。そして御安心ください。クマモト様は勿論、私もこの中の面々意外に他言する配慮が出来ない者ではありません。事は重要であり、急を要します。このままこの件を流して生活されると放置したこの件は確実にディミトリー様を蝕みます。そして、この件で起きた事、それは人間なら誰しもが直面する性の葛藤です。ディミトリー様が特殊、異常ではありません。ですが、このようにして表に出てきたならば、丁度居合わせた私達も手伝うのは当然の事。なにも恥ずかしくないですし、負い目に感じる事もありません。私達はあなたの先輩です。通ってきた道を後輩に教えることが役目なのです」
「師匠。僕の事気持ち悪くない?」
「馬鹿言え。お前こそだぞ。教え子に手を出す家庭教師バリに気色悪いことしたのは僕だ」
「師匠は悪くない」
「なんかシリアスな雰囲気になっちゃったっスネ。要はディミくんが可愛過ぎるのがヤベェって話です。今日は朝まで討論会!今夜は寝かさないZE!」
サムズアップで無様なウインクを晒す熊本くん。
今回ばかりは熊本くんに助けられた。
考えるのも恐ろしいが、コイツが来ていなかったら、僕はなにをしていたのだろう。
絶対チューはしてた。
「ディミトリー様。この面子で恥ずかしいも見苦しいもありません。なんならこの二人の恥ずかしくて見苦しい、もう目も当てられないような事を私は知っています」
「リムさんや?ちょっとその舌ちょん切るよ?」
なにを言い出すかと思えば。
「ですので、ディミトリー様も思っているモノを曝け出す事を躊躇ってはいけません。私達にあれやこれやと詮索されるよりも、自分から言うほうが気が楽です」
「はい」
「ま、今日はみんなで部屋パーティでもしましょうや。リムさんアレを」
この重い雰囲気を変えようとしている後輩に、僕は少し助かったような気分になった。
勿論それはディミトリーの為なのだが、こうして僕もその恩恵に預かれたことは感謝でしかない。
熊本くんに何か指示されたエリームは、御意にと恭しく礼をして、熊本くん専用のクローゼットからこの世界に来てとんと見てないビニール袋を取り出した。
「てめこの!!なんで!?なんでお菓子やらジュースやらがここにあるの!?」
ビニール袋が熊本くんのベッドに広げられた。
そこには、やめられないとまらない中毒性満載な菓子やらキャラメルなコーンやら、カントリーにマアム居そうなお菓子と、シュワっと三つの野菜だー!的な日本人みんな大好き炭酸飲料やら、都市伝説などで良く耳にする見た目も噂も黒い飲み物が用意されていた。
「リムさんに極秘で購入してきてもらいやした。面白いラノベを紹介する対価にね!」
「テメェら!何回だ!?何回僕の居ない間にホームパーティしてやがった!」
「通算3度」
「証拠の一つも残さねぇ完全犯罪しやがってこの野郎!!」
「これぞ鬼の居ぬ間にってやつですな!」
イェーイとハイタッチを交わしているアホ二人。
呆れてモノも言えない。
「ディミくん!ロシアにはないお菓子やらジュースやらいっぱいっスよ!楽しまな損ですぜ!」
僕のベッドから身を乗り出し、目を輝かせているディミトリー。
「ぼ、ぼくも食べていいんですか?」
「もちのろんっス。先輩は自重って事で」
「いや食べるからね。むしゃぶりつくからね。ジュースも歓迎会の新入生バリに一気してやらぁ」
久しぶりのジャパニーズ文化!
とくと堪能してやらぁな。
そう言ってる僕達を他所に、手際よくお菓子の袋をパーティ開けし、人数分のグラスを用意していくエリームさん。
手慣れてるね。
うちのサークル入ったら重宝するわ。
「うおっ!?箸!?」
ビニール袋から出てきた大量の箸。
玄人だ。
こいつら部屋パーティ玄人だ。
「お菓子を摘むと手が汚れますからね。ハシを使う事によってそれをカバー!クマモト様直伝で御座います」
「お前日に日に毒されてんな」
早速僕も箸を一つ。
あー、懐かしいこの感覚。
早くつまみたい。
ディミトリーはさすがに箸を使えないので、フリーハンドスタイル。
後で箸の使い方を教えてやろう。
「それでは、合掌。頂きます」
「「頂きます!」」
パーティ主(熊本)による号令とともに、各々気になっているお菓子を摘んでいく。
幹事エリームは、各々のジュースの好みを聞き、グラスに注いで渡してくれている。
なんだこの洗練された部屋パーティ。
「あれ、これ、なんか、やめられないとまらない」
パクパクと口に入れていくディミトリー。
あぁ、其方もその菓子の中毒性を知ったか。
「クソ!涙が、なんか、とまらねえ」
カントリーにマアムが居そうなお菓子を一口した僕は、溢れ出る優しさを口内に感じ、じんわり目に涙が浮かんできた。
「母の味っス」
なんか違う気がする。
でも良い。今は気にしない。
「あのー、いいんですかね?こんな楽しんでて」
と言いつつも口に止めどなく中毒性物質を運んでいるディミトリーが、心配そうに僕を見ていた。
「なんか話してーってなったら話すがいい。女子高生バリに軽いノリでカモン」
「んー。じゃあ、僕。さっきわざと師匠に近寄ってました」
「グボァッ!!」
あまりのノリの軽さとその内容のヘビーさに僕の口の中のマアムが勢いよく飛び出そうとしてしまった。
「わっ!きたねっ!って!え!!?ディミくん、マジですか!!?」
ちょっと飛んだだけだろうが。
煩えなぁ。
しかし聞き捨てならない発言に集中するため、ディミトリーを見やる。
そこには言葉の軽さとは打って変わって真っ赤になった顔があった。
「さっきリムさんが言ってたから。もう隠してもイヤだなと思って。本当は昨日からです。師匠がなんか凄い呪文唱えてた時ぐらいから」
あー、真言総ナメして、般若心経唱えてた時か。
「ほんっと気持ち悪いですよね僕。心は本当に男なんです。可愛い女の子見るとドキドキするし、ふよちゃんと手を繋ぐのもドキドキします。でも、師匠と手を繋ぐのもドキドキするんです。しかも師匠は僕の事男だって思っててくれてるのわかってるくせに、なんかやだなぁって思っちゃったりして、本当に気持ち悪いんです僕」
ディミトリーは俯いて、手をモジモジさせながらそう言っている。
その発言からは、自分への嫌悪がヒシヒシと伝わってくる。
「バイセクシャルってことかなぁ」
「熊本くん。なにそれ」
「んー、男だけど男も女も好き。女だけど男も女も好き。って言う感じです」
なるほど。
それなら今のディミトリーの話にも合う。
「違うと思います。男の人好きになったのは初めてです。というか、この気持ちも好きなのかどうなのかわかってないんです」
おう!?
今軽く告られたねボク。
「ディミトリー様。その男と思われるのがなんかイヤというのは?女として見られたいって事ですか?」
「んー。女として見られるのはやっぱり嫌なんです。男らしいって言われると嬉しいし、それを師匠に言われたら凄く嬉しい。でも、師匠が好きなのは女の子でしょ?だったら僕も元は女だよ!ってこう、変なアピールというか、男として見られたいクセに師匠が好きな存在に近付きたいっていうか、んー!ごめんなさいわかりません!」
「ちょっと表現が雑になりますがお許し下さいね?」
エリームはそう前置きし、一旦了承を得て、手にしていた箸を置き、再び口を開き出した。