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「ジョージさんがいるな」
バータルが僕の部屋を訪れ、共に向かってたどり着いた目の前の光景。
デイジーは先にホールに着いており、しかもジョージさんと一緒にご飯を食べていた。
予想が外れた。
僕の予想では、デイジーはもう少し後に現れるはずだった上に、連れ立っているのはイザベルと思っていた。
まるで当たらなかった予想に、僕は焦った。
なぜかと言うと、となりの動く城塞がふるふると震えているからである。
「ム、ム、ム、ムネノリ。あれ、は?」
あー、ヤバイ。
西野カナばりに震えていたバータルは、目を血走らせている。
「まあ、同じ隊だし、こういうこともある。ジョージさんも今日戦った相手だし、会話としちゃおかしい事はなにもないだろ?」
「そ、それはそうだが」
「おいおい、ウチの最前衛がえらく弱気だな」
わざとである。
わざとけしかけたまである。
見事に僕の挑発に乗りおおせたバータルさんは、鼻息荒く「どんとこい!」と一言。
ずんずんデイジーとジョージさんの席に向かうものですから、一旦引き止めました。
「トレイ!ご飯!何も持たずに行く奴があるか!」
「忘れてた!」
これから一緒にご飯を食べようとして、ご飯も持たずにどうするのか。
僕たちは一旦トレイに夕食を乗せ、準備万端!いざ、出陣!
今回はジョージさんがいるので、僕もお邪魔する事にしました。
だって!コイツ一人送り込んだら、血の雨が降りそうな殺気をぷんぷん放っているのだもの!
「あぁ、ココいいか?」
お!いいよ?普通な感じで!
バータルのその発言で、デイジーとジョージさんが一気にバータルへ視線を送った。
直前会話していたようで、話を遮った感じではあるが、この際強引でも良かろう。
「ん?あぁ、いいが?珍しいな」
ジョージさんは驚いた様子。
そりゃそうだ。
珍しいどころか、初めての組み合わせだもの!
「あら、ムネノリ。チサトは一緒じゃないのね」
「知里ちゃんはまだ訓練から帰ってきてないみたいだ。今日のディジー達を見て、気合い入れ直してるんだと思うぞ?」
「フンッ。精々頑張るといいわ」
って言っておきながら、知里ちゃんが居ないというあたり、案外憎めない子ではある。
「デイジー」
はっ!?
何を言い出す気!?
なぜに名前を呼んで一呼吸置く!?
「なに?」
何この間!?
何故にスムーズに話さぬ!!?
「強いな、本当」
ふー。
いやそれくらいならスムーズに言わんかい。
無駄にこっちが緊張するわ!
「あ、ありがとう」
なにこれ?
会話初心者なの?アンタ達。
妙な雰囲気になり、何故か僕はジョージさんと目があった。
「あ、そういえば。お前痛かったぞ!なんだあれ?シュウの拳波と原理は同じか?」
あー、戦闘中のジョージさんに食らわせた気魄弾か。
「いえいえ、多分違います。朱さんのは拳から出していますが、僕のは前もって甲に気魄の塊を用意しておいたんです」
「なるほどな。用意周到だな」
「何かに使えるかなって」
ダメだ。ジョージさんと会話が続く気がしない。
僕は恐らく噛み合わないであろうと会話の序盤でジョージさんとの相性を判断し、チラッと隣を見る。
「私の最初の刺突。あれ、どうやって止めたの?」
「あぁ、あれは、イヴァンの教えで。極力小さな高密度の気魄をダメージ食らう部分に防御として張るんだ。デイジーのレイピアはとんがってるから、その部分が小さくなってる。だから防御が強度を増してある程度強い衝撃でも耐えれるんだ」
「へー!って事は私とバータルの相性は最悪ってことね!」
「ーーーーー」
違うよ?バータル。
戦闘の相性な!?
なんで露骨にショック受けてんの!?
あなたが説明したんでしょ!?
「でも、第一隊って本当どんだけ個人力強いんだよ。デイジーの攻撃簡単に受ける壁、気魄量No. 1の化物、気魄弾自由自在に操る魔術師、戦術を知り尽くした軍師」
誰が化物だ。
明日本物の化物見るぞ?
「そうね、ジョージ。私も最初簡単に止められた時は冷や汗かいたわ。でもウチにはアナがいるわ。そう簡単にはイヴァンの思う通りにはさせないわよ」
「デイジーはアナを相当信頼してるんだな」
「私もアナには痛い目見せられたから。対決して負けたのよ?」
「「え!?」」
バータルの問いに驚きの返答があり、僕とバータルは声を揃えて驚いた。
「ふふ、私も驚いたもの。アナを舐めてたの私も。そしたら完膚無きまでに圧勝されたわ」
「デイジーが!?どんだけ強いんだよアナ」
「んー。個人力で言えばバータルやムネノリの方が強いかもしれないけど、技術面ではダントツよ。だから舐めてかかる相手は一瞬でやられちゃう。いくら強くってもね」
だからブラッドも圧されたのか。
あのブラッドですら、舐めてかかると痛い目を見るアナ。
デイジーが信頼を寄せるのも理解出来る。
それは多分、僕がイヴァンに思う気持ちと似ているところがあるのかもしれない。
「第三隊は本当に良い隊だな」
「ありがとうバータル。こうなるまで苦労の連続だったけど、ね?ジョージ」
「あぁ、大方デイジーがアナにシゴかれてただけだけどな?」
「ちょ!まぁ、でもそうね。あとはイザベルの力が凄く大きいわ」
「あー、あの謎っ子」
「ふふ。謎っ子ね。そう見えるわね。でも私はもし、時代が違ってたら、あの子に仕える騎士になってたかもしれないって思わせるほどの子よ?」
イザベルを語るデイジーの顔には、今まで見た事の無い笑顔が滲み出ていた。
ディジーにそこまで言わしめるイザベル。
「デイジーがか?そんなに凄い人なのか?イザベルさんは」
「戦闘とかそういうのじゃ無いわ。度量?んー?器かしら?それが別格なのよ。あの子は君主の器を持ってるわ」
そこまでか。
デイジーからまさかそんなイザベル評が聞けるとは思わず、バータルの恋路もなんのその、僕は話を聞きいってしまっていた。
「ムネノリはちょっと触れたかもしれないけど、イザベルは人を癒すの」
イザベルの謎っ子を露わにした件。
あの時のイザベルがあってこそ、僕の今の幸せがあるといっても過言では無い。
「あぁ、めちゃくちゃ助かった。普段のイザベルとは全然違う。なんていうか、本当にデイジーが言う癒しがあった」
「そうなの。あの子は人が抱える苦痛を拭い取れる不思議な癒しを施してくれる。それは治癒とかじゃ無い、もっと精神的なもの。私はそれに随分助けられたわ」
「わかる気がする。身をもって体感したからだろうけど」
「へー。凄いなイザベルさん。そのイザベルさんは?興味湧いたぞ」
バータルも自分の恋など二の次に、話題のイザベルに興味を示す。
そう言えばあの食いしん坊がこの場に居ないのは不思議である。
「今はアナと二人であの子の所に行ってるの」
あの子?
「私たちの仲間だけど、全然姿を見せない子。マリエフ・アーレフよ」