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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
78/109

第一隊vs第三隊


第三隊。

そのレイピアは空を裂く。

人間世界においてもその剣の実力は世界トップクラス。

戦場に舞い降りた剣姫。

第三隊 隊長デイジー。


妖艶。そのグラマラスでミステリアスな様子からは想像出来ない程の殺気を放つ。

英雄軍の男どもを虜にするお姉さん。

副隊長 アナさん。


頭脳明晰。研究者は何処にいても健在。

気魄を誰よりも知り尽くす知性の権化。

英雄軍の頭脳。

二列目 ジョージさん。


能天気で快活。しかしその実態は謎な女子。

女豹と揶揄される戦闘技術は最早芸術。

接近戦最強を誇示する柔術家。

最後列 イザベル。



第三隊は実力的には軽視されがちな隊ではあるが、イヴァンの言う通り厄介極まり無い面子である。

第一隊が個人個人の力をフルに活用する総攻撃型。

第二隊が中心人物の攻撃を補助、護衛しながら戦う最大火力ゴリ押し型。

そしてこの第三隊。

厄介と言われる所以。

中心人物だけではなく、その他の隊員も個人個人の力は微力ながら一発逆転の技術を持った暗殺部隊型なのだ。


恐らく狙うは我が隊長イヴァン一点のみ!



敵を見定める僕の視界に、恒例となりつつあるバータルの華麗な四股が現れる。


昨夜の憂さ晴らしだ!

どれだけ興奮するリビドーを平静に保つために般若心経を唱えたか!

最早、瞑想でチベットの山を越えてヨーロッパ各国を観光してきたまである。


「おらぁ!初手は受けてやる!どんとこぉいやぁ!!」


第一隊。相撲で言えば横綱。

相手に相撲を取らせた上での勝利こそ、横綱に課さられた勝利条件。

昨日はまさかの横綱とかのレベルを超えるワイヤーロープばりの魔王がいたので、それどころではなかったが、今日こそは!

威厳を見せつけてしんぜよう!


「じゃあ!行かせてもらうわ!」


デイジーが腰をグッと落とし、レイピアをこちらへ突き立てる。

おお、あれを向けられると威圧がまた一段と増すのを感じる。


「はっ!」


デイジーを先頭に縦一列に並んだ第三隊は、真っ直ぐにバータルへと向かってきた。


「バータル。受けろ」


イヴァンの冷淡な声が静かに響く。


デイジーのレイピアは、なんの淀みもなくバータルの胸に一直線で突きつけられた。


しかし、一瞬の静止。


真っ直ぐ心臓に突きつけられたレイピアの先端。

だが、バータルは微動だにしないどころか、防御すらしていない。


「で?」


バータルの悪魔のような嗤い。


一瞬眉をひそめたデイジー。

その背後の光景がブレた。


僕はすぐさまソレに反応し、バータルの真上を移動するソレを真上に上げた拳で捉える。


「グッ!」


ジョージの腹を捉えた拳。

くの字に曲がって呻くが、瞬時に僕の顔面に蹴りを当てにくる。

それを見て僕は、拳から気魄弾を放った。


昨日目にした、朱さんの拳波。

僕は前もって手のひらの甲に付与していた塊を放出することによって、擬似的にその拳波を真似た。


空中に浮き上がったジョージ。

落ちてきた時、仕留めようと凝縮した気魄弾を腰に戻した右手に溜める。


すると、そのジョージと僕の間の空間がまたしてもブレた。


「ブラッド!」


僕は取り逃がした獲物を後列のブラッドに託した。


僕の杞憂は玄人には無用。

その横に大きい巨体を飛び上がらせ、胸で突っ込んできていたアナを受け止めた。


「がっはっは!こんな美人に迫られたんじゃ、ワシもクラっときちまう」


軽口を叩いてはいるが、アナが突きつけていたナイフの刃を手のひらで掴み取って血を流している。


「勇ましいわぁ。ちょっと惚れそうよ?」


アナの刺突はブラッドに余裕を持たせなかったのだろう。


ーーー!?


真上のジョージと、後方のアナに気を取られていた僕は、前方から迫ってきていたバータルの背中に気付かず、衝撃に対処しきれなかった。

デイジーのレイピアの切っ先から、気魄が放出されたのだ。


しかし、守護神バータル。

それをなんと、体全体で受け止めている。

押されてはいるが、揺るがない体勢。


「なんだ、イギリス女。てめえよく見りゃ美人だな」


何言ってんだこのアホは。


戦場がお見合い会場化した時、最後列からうめき声が上がった。


ーーー!?

「イヴァン!」


イヴァンの首に巻き付けられている腕を見て、僕は右の手からすぐにジョージへ気魄弾を飛ばし、そちらに駆け寄る。


僕の放った気魄弾を、相殺するようにして気魄弾を放ったジョージは、バータルの背後を取る。

だが、それどころではない。


いつのまにか侵入していたイザベルが、イヴァンの背後を取っており、女豹は獲物を仕留めに掛かってきていた。


赤い顔をしたイヴァン。

僕はその背後に隠れたイザベル目掛け、イヴァンの横を通り過ぎた直後に体を反転させながらの背面回し蹴りを食らわせる。


が、イザベルは難なく離脱。

それを確認しての緊急停止。

危うくイヴァンを蹴るところだった。



「クソガァ!!」


前方からの咆哮。

なんとそこには、眼前からデイジーの刺突による気魄放射。

背後から殴る蹴るの暴行を加えるジョージ。


そして、離脱したイザベルが今度はバータルの首に巻きついていた。


「ごぼっ!バ、ータル!」


喉をやられたイヴァンが、無理して指揮しようとする。

言いたい事はわかった。


僕はすぐにバータルの元へ向かう。


その道すがら、僕は驚愕した。


あの戦闘において玄人と呼んでもなんらおかしくないブラッドをして、アナは互角以上の近接戦を繰り広げていたのだ。


しかし今はバータル。

近付くと苦鳴を漏らすバータルのボロボロになった姿が確認できた。


「っらぁ!」


左後方から首に巻きつくイザベルに気魄弾を放った。


ーーー!?


その直後、またしても躊躇なく離脱したイザベル。

そしてジョージも居た場所から離脱。

背後から飛び出してきたアナがディジーの後ろに向かっているのが見え、僕の体をバータルの背中が強く押してきた。


「はな、れろ!」


バータルの声が聞こえた瞬間、僕の眼前は真っ白になり、体に今まで受けたことのない程の衝撃を食らった。


ーーーーーーーーーーーーーー


「おーい、ムネ?」


目が覚めた時、イヴァンの申し訳なさそうな顔が現れた。


「すまん。負けた」


マジか。


まさかの事実を突きつけられ、僕は二の句が告げられずに居た。


「ムネノリ。すまん」


バータルの顔が悲嘆に溢れている。

よく見ると、胸の辺りの服が焦げ落ち、胸部全体が露わになっている。


「どうなったんだ?」


「俺とムネノリがやられて終わった。ディジーの放射とその後ろからの一斉砲撃だ」


なるほど。

元々そのつもりだったのだろう。


てっきりデイジーはバータルを封じる役割だと思っていた。

残り三人がイヴァンを討ち取る作戦。

僕はその考え自体間違っていた事を知った。


「あいつら、全部予測してやがった。まんまとそのレールに乗せられたってわけだ」


イヴァンの悔しそうな顔。


「全部?」


「あぁ、デイジーの刺突をバータルが受け切る事も、ジョージがお前に捕まることも、アナがブラッドに止められることも、死角からの攻撃に俺が捕まって、それをお前が助けに来ることも、なにもかも全部だ」


驚きはない。

むしろまだ疑ってさえいる。

そんな全部お見通しに出来るものなのか?


「全てはデイジーの一発をどれだけ有効に使えるか。相手はそれだけしか考えちゃいなかった。なによりの証拠に、イザベルの俺を締める腕には殺意がなかった。俺はそれに判断が鈍ってしまった。なにがしたい?ってなっちまってな。本気できてるなら本能的に抗ったが、頭で考える余裕をもらった分だけ鈍った。そして離脱した時気付いた。が遅かった」


ってことは、イザベルの大将襲撃も、アナのブラッドを抑え込む戦闘も何も関係なく、ただ僕をあっちこっちに翻弄して戦力の偏りを分散させ、最後バータル諸共始末するだけだったって事か?


「俺がデイジーを舐めてた。あいつの刺突は三段階あった。まず俺の胸に突き刺さったなんでもねぇ刺突、そしてその後その先っぽから放出された気魄の刺突、ほんで本ちゃんの最大出力による刺突。しかもそのタイミングを全部測ってやがった。最後のは、第三隊全勢力の気魄弾だ。俺は勿論、予測してなかったとは言えお前をも戦闘不能にするレベルの」


「あぁ、今回ばかりはワシも笑えねえな。あのアナって嬢ちゃん。ありゃ本物だ。恐らく人間世界で本物の殺し合いしてなきゃあんな戦闘できねぇぞ」


「俺たちの敗因は、舐めてた。ただそれだけだ。一番タチが悪い。マジですまん」


各々が憂鬱を帯びた顔をしていた。

特にイヴァンはそれが顕著だ。


舐めていて負けた。

どんな負け方よりもやり切れない。


僕達は各々にその不完全燃焼を不甲斐なく思っていた。

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