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あれから僕は風呂に入り、次にディミトリーがヘロヘロになりながらも風呂を済ませて出てきた。
タオルをターバンのように頭に巻き、白い肌がピンク色になっている姿は、、、び、美少年!そのものである!!
「おい先輩。これ、耐えれるのか?」
「何言ってんだ?後輩くん。何を耐えるというのだ?馬鹿か?馬鹿なのか?てめぇ」
熊本くんもその姿に目を丸くし、心配そうに僕へ怪訝な目を向ける。
「ギリギリで戦ってるのが痛いほどわかるっス。いやむしろ尊敬に値するかも」
「えー?何言ってるんですか?師匠と兄さん」
寝巻きに着替え、僕と熊本くんのベッド間に立ち、両手をぷらんぷらんさせているディミトリー。
楽しそうでなによりです。
「師匠。もう大丈夫です!はいっ」
そう言って手を差し伸べてくるディミトリー。
ぐっ!!
耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ。
「のうまくさんまんだばさらだんせんだまかろしゃだそわたやうんたらたかんまん」
「真言唱えてまでか!?あんたスゲーよ!」
珍しく熊本くんの尊敬を受けながら、僕はありとあらゆる真言を唱えつつ、差し出された手を握った。
「おん!かかかびさんまえそわか!!」
「し、師匠?」
「うるせぇ!大丈夫だ!次は般若心経!」
これは長くなる。
研ぎ澄まされていく僕の心の中で唱えられていく有難いお経。
感じるな。柔らかな手の感触から、チベットの山へ意識を飛ばせ!
「ぎゃていぎゃていはらそうぎゃていぼうじーそわか!はんにゃーしんぎょー!」
「兄さん!?師匠が!?」
「おや、ディミトリー?どうしたのです?」
得た。
僕は得たのだ。
「せ、先輩!!?後光が!」
何も感じない。あるのは空。
空即是色、色即是空。
万事、解決。
煩悩の数々を打ち滅ぼした僕は、ディミトリーに僕の人生上最も清らかなる笑みを向け、安心せよと囁いた。
「悟ったのか!?先輩!?」
「いいえ、まだ私は旅の途中」
「恐ろしくやわらけぇ!物腰が絹ごしになっとる!」
雑念が喋りかけてくるがものともしない。
「さぁ、ディミトリー。もう夜も深い。寝ると致しましょう」
「はい。僕、もう眠い」
熊本くんはまだ風呂を済ませてはいないが、関係なしに部屋の電気を消し、布団に入る我等。
やいのやいのと雑念が喚いているが聞こえない。
僕らは布団に入り、静寂な時を刻む。
布団の中で繋がれた手にもう片方の手も添えられている。
可愛らしい寝息。
僕の方を向いて寝るディミトリーのその吐息が耳を触っている。
片足が僕の片足に乗っけられているが、クソほども嫌とは感じない。
「っんぁ」
今夜、千は唱えよう。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ム、ムネリン?気魄じゃない何かが体に纏われているのだけれども!?」
朝、場所はモリヤ。
私は自然の全てを、体に感じながら、この生きとし生けるものすべてに感謝しています。
「あー、部長?先輩は出家なされました」
「しゅっけ!!?何があった!?」
「知里ちゃん。おはやう。今日もその可愛らしいご尊顔に感謝します」
「うぇ!!?ありがてぇ!なんか一言一句ありがてぇのだけれども!?」
「おい、ムネ。って、うぉ!?なんだこいつ、体光ってんぞ!?やる気なのか?今日の第三隊に対してのやる気がこいつを光らせてるのか!?」
「これはこれは隊長。おはやう。共に死力を尽くして目の前の敵を殲滅致しましょう。南無」
「お、おう。が、頑張りましょう」
続々と集まってくる英雄の皆々様方に、私は今日もそのお顔が拝見出来たことを感謝しています。
本日は第一隊、第三隊の隊対抗戦。
私の微力が我が友の力に助力出来るのか、些か不安ではございますが、これもまた定め。
一瞬一瞬を心を込めて生きる。
どのような結果になろうとも、それを己の糧とし、修練に励むだけのこと。
私は怪訝な目を向けられながらも、これもまた定めとし、我が友エリームの言葉に耳を傾けることとしました。
「えー、それでは!本日、第一隊、第三隊の隊対抗戦を行う!両隊前へ!」
「よっし!ムネノリ!今日も勝つぞ!」
我が友バータルは、そう意気込み、私の背中にげきを飛ばして下さいます。
嗚呼、これもまた感謝。
良き友で御座います。
「なんかムネの様子はおかしいが、今日も勝つぞ!第一隊の力思い知らせてやれ!」
「「了解!」」
「はい」
「隊列準備!!」
昨日と同じように、私共第一隊は、ややジグザグながらも縦一列。
第三隊は隊長ディジーを最前衛にしての、完全なる縦一列。
「ルールは昨日同様!隊員2名の戦闘不能若しくは隊長の戦闘不能により勝敗をつける!付与師は自己付与のみの使用を許可!それでは!ーーーはじめっ!!」
「発奮の時。来たれり。己が煩悩、解放を喜べ。敵を蹂躙し、屈服させよ」
「ム、ムネ?」
「fuckin!!」
僕は昨晩から頭をグルグルと渦巻く煩悩の数々を今この場、この時をもって解放せしめた!
「な、なんかやる気なのはわかった!だが、第三隊、俺の予想じゃかなり厄介だ!みんな気をつけろ!」
「「了解!」」
「ガッテン承知の助!!」
テンションが振り切って焼け焦げた僕の脳は、羞恥心すらも容易く焼却していた。