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「くっそー!さすがムネリンたち!」
ーーーっ!?
「え?ム、ムネリン?」
「や、やあ」
「ちょ!ちょ!ちょ!なんで目合わさないの!?ムネリン!?こっち見てみ!?見てみ!?」
あまりの風評により、僕の脳には知里恐怖症が叩き込まれていた。
「バータルか!なんかムネリンに言っただろ!?」
「い、いや、な、なにも?」
「おい待て!なんでお前も目合わさないの!?見てみ!?私を見てみ!?」
どうやらバータルも恐怖症を患った模様。
第一隊、第二隊の模擬戦が終了し、各々治癒も済ませ、本日の訓練は終了となった。
一日に何戦もするわけには行かず、第三隊のみこの後も訓練をしてから帰ってくるらしい。
「師匠ぉ、つよー」
ディミトリーがガックリと肩を落としやってきた。
「何言ってんだ。ギリギリだったじゃねえか。なんだあの気魄弾。どんだけ曲げたらブーメランみたいにして返ってくんだよ」
実際本当に焦った。
後ろを振り向いたら、何発もの気魄弾が迫ってきていて、冷や汗ものだった。
「あれは一回ピタッと止めて、戻ってこーいってしたら出来ますよ」
あれか?
英雄軍には、まともに解説できるやついねーのか?
「ディミ助。ムネリン相手によく頑張りました!えらい!」
そう言ってディミトリーの頭をわしゃわしゃする知里ちゃん。
おお、微笑ましい。
「姐御が、師匠やってこいって言ったのちゃんと出来なくてごめんなさい」
待て待て。やってこいだったか、本当に?
殺ってこいじゃなかったか?ん?
「なー!可愛いなコイツ、コイツ」
ちっこいのとちっこいのが戯れてる。
眼福です。
「にしてもですよ、知里様」
「うん、ごめん。なんで様付けなの?ムネリン」
どうしても拭い去ることの出来ない、あの魔王然とした戦いに、僕は無意識に様付けしてしまっていた。
「あ、つい。んで?なんであんなめちゃくちゃなの?君は。なに?え?なに?」
僕のなんと言っていいのかわからない発言に対し、その場にいた、バータル、ディミトリー、イヴァン、ブラッド、朱、カメンガが一様にしてウンウンと頷いてくれていた。
「うぇ!?なんでみんなしてそんな顔してるの?むしろ第二隊!あなた達は尊敬の眼差しを向けなさい!?」
「いや、尊敬つうか畏怖?」
おー、朱さん。言い得て妙。
「おい、チサト。俺絶対二度とお前とやんないから」
「なんで!?当初は手合わせしようって乗り気だったじゃん!タルタル!」
「だってお前、あん時全然本気じゃなかったってのがさっきわかったから」
ねえ、本気ってなに?
いつ出すの?本気。
「さっきのは本気!」
「「だろうね!!」」
うぉ!
僕とディミトリー以外の全員がハモった。
草原に一同、第一隊、第二隊が集まり、戦闘後の後日談。
昨日の敵は今日の友。って、昨日も今日も友ではあるか。
「次は第一隊と第三隊か。唯一チサトとやり合ったディジー率いる第三隊。これもまた厄介そうだな」
腕を組み、唸るイヴァン。
「あー、イギリス女か。確かアイツも前衛に出てくる指揮官だったな」
「大変だなそう考えると、バータルのポジション」
知里ちゃんは受けるわ、ディジーは受けるわでバータルが壊れるのが心配である。
「どんとこい!チサトは論外だが、他のは受け止めてやらぁ!」
と、言いつつも知里ちゃんすらもなんやかんや止めてたよ?
君はいつでも頼れるねぇ。
「あ、あの!ブラッドさん!」
おや?珍しい組み合わせ。
朱さんとブラッドが話しているのを見るのは、もしかしたら初めてかもしれない。
「んぁ?どうしたぁ?」
「隊は違うけど、気魄弾とか!戦術とか!教えてくれないか?あんたつえーよ!」
ほうほう。
戦場で合間見えた二人。
朱さんはブラッドの玄人っぽい戦闘に心を奪われた模様。
僕もブラッドの戦いは、見惚れてしまう時がある。
「がっはっは!ワシのファンか!おお!良いぞ!教えてやらぁな」
朱さんの肩をバンバン叩きながら、ブラッドも嬉しそうにしている。
「ぼ!僕は!イヴァンさんに!教えて貰いたいです!」
「あぁ?なんだカメンガ。お前は俺のファンか!くー!いいよ!全然教えちゃう!」
おー、ダンディーズモテモテだな。
「僕は!師匠に格闘を教わりたい!」
キタコレ。
いやむしろ元々僕のファンだし?
全然嬉しくはないけれども?
「なーんだよぉ、いいよぉ?ったくしょーがないなー」
「なんかムネリン。イヴァンに似てきたな」
「え、ごめん。マジやめて?」
「そんな!?なにがあった!?」
あれ?教える?
なんか忘れてる気がする。
「あ!!?」
「ど、どしました?師匠」
「ディミトリー、お前。付与覚えてみたらどうだ?」
失念していた。
付与師育成計画!
「うぇ!?僕も師匠みたいに付与出来るんですか!?」
ここは一つ。
「出でよ!アナナキ!」
「あのね?変な呼び方しないでも、来ますから」
うぉ!?
マジできた。
しかもなんでか熊本くんまで付いてきた。
「なにしてたの君たち?」
こいつら最近えらく仲良いな。
「クマモト様の個人訓練です」
「あぁ、なるほど。あの気魄銃の訓練か」
「いやマジ見たら驚くレベルで習得してるっスヨ?」
「へー。で、付与師の件なんだけどさ」
「もっと聞いて!もっと聞いて!」
うるさっ!
出てきたら出てきたで煩いなこいつ。
「タロー。私が聞いたげるからこっちおいでー」
ナイス知里ちゃん。
なんで、あやされてるの!?と言いながら、知里ちゃんに連れられていく熊本くん。
「付与師ですか?」
「そうそう。ディミトリーに付与教えたいんだけど、素養とかってあるの?」
「おう、これはうっかり。忘れてました付与師育成の件」
てめ。
いや、まぁ僕も忘れてたし。
是非に及ばず!