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「うわー、ノーダメージじゃねえか。どうなってんだあいつ」
全くその通りですね、隊長。
しかしカメンガくんが落とせたのは有り難い。
カメンガくんの前情報はかなり厄介なものだった。
バータルの突撃の弱点とも言えるカウンター。
カメンガくんの蹴りは、防御を兼ねた攻撃で、その威力は絶大。
バータルが初っ端から使い物にならなくなる可能性があったのだ。
あの最初の第一隊のフェイントを入れる前に見せた、腰を落としての足を引く動作。
あれは恐らく、突っ込んでくるバータルを弾き飛ばす蹴りの前準備だったのだろう。
故に初手で落とせた事は優勢も優勢。
などと、考えていたら。
第二隊の隊列が組み変わる。
うわぁ、エゲツな。
最前衛に現れた知里ちゃん。
その斜め後方両翼に朱さんとディミトリー。
「あらま、チサト出てきたな。俺死ぬかも」
ほんとそれ。
バータルの発言に何も返せなかった。
「ディミ助、朱、やれ」
知里ちゃんはそう二人に指示し、なにやら後ろの二人が知里ちゃんの背中に手を押し当てている。
「うぉ!?やべぇ!バータル回避!」
イヴァンのかい、"ひ"の部分が発せられた時には、既にバータルの目の前に知里ちゃんが現れていた。
しかも背後に気魄弾二つ携えて、飛んできた。
気魄弾ロケットとか言い出しそうだな!
バータルの防御虚しく顎を膝が捉え、巨体が大きく反らされる。
すると、背後にあった二つの気魄弾が爆発し、知里ちゃん諸共、僕にまでその衝撃が襲いかかってきた。
「ゔぼぇ!」
視界を爆風で遮られた僕の腹に、激痛が走った。
痛みに耐え、目を凝らすと
「師匠の首取ったり!」
と、可愛らしい顔が現れた。
ディミトリー!?
腹に撃ち込まれたであろう気魄弾の発射源である、ディミトリーの腕を感覚で捉えた僕はそのまま引っ張り、どこに当たるかわからないが膝を繰り出した。
「ゔっ!」
どうやら膝はディミトリーの脇腹に当たったらしい。
僕は追い打ちで、今度は腕を持った逆の手から気魄弾を放とうとしたが、上半身に死んだかも?と思えるほどの衝撃をくらい後方に吹っ飛ばされた。
なに!!?
今度は誰!?
と、遣る瀬無い怒りで正気を保つ。
尻から地面に着き、後ろ手でその地面をついて跳ね上がり、構えを取る。
気魄弾が飛んできたであろう方向を見ると、バータルを相手取りながら、朱さん、ディミトリーの戦闘相手に気魄弾を撃ち込んでいる魔王さま。
「チートなの!?」
ディミトリーは僕の応援に来てくれたブラッドと、朱さんはイヴァンとやり合っている。
ここはイヴァン一択と判断し、すぐさま加勢に入る。
朱さんの攻撃は、直接格闘とその拳、蹴りからランダムに放たれる、拳波と呼ばれる拳から発せられる気魄弾と蹴波と呼ばれる蹴りから発せられる気魄弾の二つが混ざっている。
その拳速、蹴速を増しての気魄弾は、知里ちゃんの気魄弾並みに速い。
接近戦でのイヴァンの強さは、尋常ではないのは体感済みだが、厄介なのは変わらない。
イヴァンと朱さんの戦闘に割って入るため、僕は先制として朱さん目掛けて気魄弾を撃ち込む。
どうやら、朱さんも手一杯だったらしく、その気魄弾は難なく当たり体勢が崩れた。
そこに僕とイヴァン二人が好機と見て、拳を打ち込もうとした時、またもやアイツがやってきた。
僕とイヴァンは、同じように後方へ吹っ飛ぶ。
知里ちゃんの気魄弾だ。
「厄介過ぎる!なんだアイツ!バータル相手にして的確にこっち狙ってきやがる」
ごもっとも。
「くそっ!バータルを助ける!こい!ムネ」
距離の空いた朱さんを無視し、魔王とタイマンでやり合っている功労者の元へ急ぐ。
恐らく、朱さんもこちらに来るだろうと判断したのだろう。
だが。
「ムネ!反転!ブラッドだ!」
朱さんは予想外にもブラッドと対峙するディミトリーの方へと向かって行った。
まさか、バータル、イヴァン、僕の三人でも知里ちゃんは大丈夫と判断したのか!?
そして、イヴァンもそれを判断したのだろう。
僕にブラッドの加勢を指示するということはそういうことである。
指示を直ぐに行動に移した僕だったが、朱さんがブラッドの後方から放つ気魄弾に追いつく事は出来なかった。
まともに背後から気魄弾を受けたブラッド。
だが、搔き消える粉塵を見てすぐに安心した。
イヴァンの指示が聞こえていたようで、背後からくる朱さんに気付かないフリをして、最初の一撃を気魄の防御で無効化する選択をしたのだ。
「がっはっは!まだまだ小僧共にゃ負けんぞぉ!」
僕はその戦闘に惚れ惚れしながら、ブラッドの横に滑り込み、対峙していたディミトリーの下方でその足を払う。
ブラッドはそれを見て反転し、標的も見ずに気魄弾を撃つ。
気魄弾は朱さんを捉えきれていなかったが、ブラッドの気魄弾は指向性を持つ。
間髪入れずに放ったのも、見定めて撃つより、撃ってから合わせた方が効率が良い。
大きくカーブするように曲がって、気魄弾がそれたと思っていた朱さんの側頭部に直撃する。
僕はディミトリーの体勢を崩した後、転げそうになって踏ん張った足の、膝目掛けてもう一度蹴りを放つ。
今度のは蹴るよりも、突くと言った方が正しい。
形がはっきりと見える膝を僕の靴底が覆った。
あー、ごめんね。
これは戦闘!と、罪悪感を消し、膝の皿が割れて短く声にならない悲鳴を漏らすディミトリーに、トドメの気魄弾を至近距離から放った。
が、ディミトリーはなんとかその至近距離の気魄弾を、目の前の僕の足目掛けて放った気魄弾の反動で避け、回避と攻撃の両方を一度にやってのけくさりやがった。
「やりやがるなラブリー弟子」
「はぁはぁ、師匠は僕が倒す!」
あれ?コイツが主人公だっけ?
見るからにボロボロのクセに、闘気だけはこっちが気を抜くと気圧されてしまいそうなほどである。
こりゃいかん!と、気を取り直し、片足を擦りながらも気魄弾を飛ばしてくるディミトリーに、それを避けながら接近。
到達する直前が、ディミトリーの狙いだということはわかっていた。
僕が避けたと思っていた気魄弾が、背後に迫ってくるのを感じた。
こいつもブラッドと一緒かよ!
僕は先程のブラッドの要領で、それに気付かないフリをして攻撃動作に入る。
迫ってくる気魄弾の熱を感じた瞬間、僕は振り上げていた拳を大きく振り下ろし、ディミトリーの前を空振らせ、前転する勢いでその拳を背後まで回した後、掌を開き特大の気魄弾を放つ。
「っはぁ!!」
数発の気魄弾を消滅させ、自分の気魄弾の反動で後退する力を利用し、流れていた足をディミトリーに突き刺した。
「ゔっ!」
突き刺した左足は、ディミトリーの顔面を捉えた。
そのまま倒れ込むディミトリーを見て僕は地面に手をつき、もう一度跳び上がる。
「しまいだぁ!!」
倒れているディミトリー目掛け、両手を向け、渾身の気魄弾を叩き込んだ。
「そこまでっ!!!」
終わったーーー。
ほとほと疲れてしまい、僕はその場で膝をついた。
「カメンガ様!ディミトリー様戦闘不能により、第一隊の勝利とします!」
見ていた第三隊、アナナキ達からの大きな拍手が巻き起こった。
「おぉー!やるなあ!タチバナ!」
後方からブラッドの声がして、振り向くといつもの満面の笑みで頭を撫でられた。
だが、ブラッドの背後に見える、朱さんの姿を見て唖然とした。
服はぼろぼろ、顔面は血だらけ、足を引きずって、知里ちゃんの方に向かっていた。
あ!ディミトリー!
僕は自分がぶっ飛ばしたディミトリーの治癒をしようと、もう一度そちらを見る。
だがすぐに駆け寄ってきたのだろう、ディミトリー担当のアナナキちゃんに治癒されている姿があった。
「おう、ムネ。よくやった!」
こちらも服がぼろぼろに破け、顔は泥だらけになったイヴァン。
最早上着もそのインナーも焼け焦げ、上裸になったバータル。
どちらも治癒後なのか、元気そうではあるが、見た目が壮絶過ぎて引いた。
「ムネノリ!さすがだ!助かったぜ!」
「いや、お前のお陰だろ。あの知里ちゃんずっと相手にしてたんだから」
「おう!もう二度とアイツとはやりたくねえ!!命何個あっても足りねえ!!絶対もうやらねえ!!」
ガクンと膝から落ち、両手を地につけ頭を振ってイヤイヤするバータル。
マジか。
バータルがこんな風になるの?
え?マジか。
「同感だバータル。お前もアレ相手にしてよく踏ん張った!MVP並みの貢献だぞ」
「イヴァン。やっぱりそんなにヤバイの?知里ちゃんって」
「ヤバイとかじゃねぇ。格が違う。シュウが大将ほっぽってディミトリーの方に向かったから、なんかヤな予感はしたが、ありゃお前が加わってても勝てねえぞ。アイツ足止めするだけで精一杯。シュウが正解だ」
マジで?
いやもうマジで?しか言えない。
なにそれ?
「がっはっは!良かったぜ!ワシそっち行かなくて!」
「ムネ。お前夫婦喧嘩する時は覚悟しとけよ?」
肝に銘じとこ。