第一隊vs第二隊
「それではこれより、隊対抗模擬戦を開始します。第一隊!第二隊!前へ!」
エリームの号令により、整列していた場所から歩を進め、目の前のエリームがいる草原に各隊対面する形で並び直した。
目の前にいる第二隊のみんな。
知里ちゃん。カメンガくん。朱さん。
そして、ディミトリー。
各々いつもの柔らかな表情は鳴りを潜め、本気でくることを表している。
勿論、僕達もそのつもりである。
こちらに来て10日目。
隊内による紅白戦。
アナナキを交えての戦略会議、個人課題を遵守した組手、気魄の座学や、ジョージ発案の個人の気魄量計測。
第一隊の一員としての自覚も芽生え、他の隊を牽引する気持ちで、今この場に立っている。
初めての隊対抗戦。
相手の作戦を予想し、こちらに優位な状況に持ち込むための作戦も考えてきた。
全部で各隊二戦ずつ。
まずは知里ちゃん率いる第二隊。
英雄軍気魄量2位。
最恐と恐れられる高火力の最強生物。
我等が魔王。
隊長、知里ちゃん。
技のレパートリーは英雄一。
武の天才とアナナキから称される程の腕前。
乾坤一擲、英雄軍の鉾。
副隊長、朱さん。
疾走した後の大地は焦げ付き
気魄を纏った蹴りは山をも砕く。
黒雷の異名を持つ韋駄天。
最前衛、カメンガくん。
巧妙なコントロールから自由自在な気魄弾を放つ。
小さな体に見合わぬ胆力は正に勇者。
英雄軍一のプリティフェイス。
二列目、ディミトリー。
対するイヴァン隊長率いる我等が第一隊。
戦術に長け、個人火力もトップクラス。
屈強な体からは気魄だけでなく覇気をも纏う、英雄の中の英雄。
隊長、イヴァン。
柔和な笑顔の裏側は苛烈な闘志を燃やす。
気魄弾を扱わせたら右に出る者はいない。
みんなのおっちゃん。
副隊長、ブラッド。
正に堅固。どんな攻撃でもビクともしない。
動く城塞とはこいつの事。
英雄軍の守護神。
最前衛、バータル。
と!僕!
え?紹介?恥ずいもん!
無理無理!あ、ちなみに気魄量No. 1は僕!
「なに顔赤くしてんだ?ムネノリ」
「戦闘前だから!血気盛んなの!」
ったく。
「両者、隊列を」
エリームの言葉に、僕たちは隊列を組む。
僕の目の前には、分厚い背中のバータル。
やや、中腰で居るため、向こうの第二隊がよく見える。
第二隊は菱形のような隊列。
僕らはややジグザグになっての縦一列。
「第一隊、第二隊の模擬戦を行う!制限時間は30分。相手の隊の指揮官の戦闘不能、もしくは隊員2名の戦闘不能を勝利条件とし!制限時間以内に決着がつかない場合はこちらでの審査となる!第一隊のみ付与師が居る為、今回の模擬戦では自己付与以外は禁じる」
エリームの説明後、バータルは僕との手合わせで見せた、あの華麗な四股を踏む。
やっぱ綺麗だな、こいつの四股。
周りも驚いた様子で、チラホラ感嘆の声が聞こえる。
「それでは!!ーーーはじめっ!!」
エリームの力一杯の声。
それを皮切りに、両隊各員が揺ら揺らと動き出した。
「まずは守れ。横綱は相手に相撲取らせて勝つんだ!いいか!バータル!力見せつけろ!」
「オラァ!!どんとこいやぁ!」
イヴァンの指示を聞き、その返答というよりも、第二隊に対する挑発のような咆哮が響き渡る。
やべぇ、震えてる。
怖いのではなく、今の咆哮により、自分が滾るのがわかった。
「舐めんなよ?」
目線は第二隊を捉えている。
だが、その小さいが大地を細かく揺らすような声がどこから聞こえてきたのかは視認できない。
「バータル!来るぞ!知里ちゃんだ!」
絶対の確信があった。
あの子の事だ。さっきのバータルの咆哮で火がつかない訳がない。
「へっ!その通りみてぇだ!」
バータルがそう言った瞬間。
第二隊の菱形中央から、真上に飛び出てきた知里ちゃんは、超弩級威力だろう、禍々しく蠢く気魄弾を手にし、こちらへ構えていた。
「うひょー!あれまともに食らったらやべーなー!でも受けるぞ!!バータル踏ん張れ!俺らはあれの威力を削げ!」
戦場に似合わない素っ頓狂な声が聞こえたかと思えば、喋り終わる頃には震えるほどの威圧を含んだ声になっている。
「くたばれ」
叫ぶわけでもなく、ただボソッと言っただけだろう知里ちゃんだが、こちらの恐怖は馬鹿みたいに駆り立てられる。
真っ直ぐ、なんの駆け引きもなく、ただ蹂躙する為だけに放たれた超弩級気魄弾に、僕とブラッド、イヴァンの気魄弾が放たれる。
しかし巻き起こった爆炎から、変わらぬ姿で現れる超弩級気魄弾。
それは近寄ってきただけで、熱を感じた。
「どんとこぉいやぁぁぁぁ!!」
まともに食らうバータル。
なんとその気魄弾は爆発せず、バータルの両手で押さえつけられている。
「男みせるぜくそ小僧!!そのまま弾くぞ!右だ!テメェら!」
イヴァンの指示通り、またもや3人は気魄弾を放つが、今度は全員バータルの右後方からの一斉砲撃。
バータルはその一斉砲撃が当たる瞬間身を捻ると、禍々しく蠢く気魄弾は、若干軌道を外れ、僕らの真横を豪速球で通り過ぎ、後方で大爆発。
「よっしゃ!!行くぞ!!」
イヴァンの指示に呼応し、バータルが先陣を切って第二隊に真っ直ぐ突っ込んでいく。
「おら!ンガンガ!受け止めろぉ!」
対面から聞こえる知里ちゃんの指示。
カメンガくんが、腰を極限まで落とし、右脚を引いた。
「なーんちゃって」
バータルがカメンガくんの直前で、大きく屈む。
丁度そのバータルの背中にすっぽり隠れていた僕が露わになった。
衝撃に構えていたカメンガくんは、肩透かしをくらい、バータルの背中に手をついて跳び箱のように跳ね、第二隊中央上空に突っ込む僕に反応出来なかった。
「やっほ!マイハニー!」
知里ちゃんの姿が、真上から見下ろせた。
真ん丸なお目々がキュートです。
そのまま僕は第二隊中央を通過し、背後を取る形で反転。
「どハサミうちじゃ!!歯ぁ食い縛れ!!」
僕はそう言って、両手を突き出し人一人分の大きな気魄弾を第二隊背後から撃ち込む。
それに伴い、バータルはカメンガくんの腰から下に突っ込み、ブラッドとイヴァンも僕同様の気魄弾を撃ち込む。
前方後方からの気魄弾攻撃。
それが第二隊ごと巻き込む爆炎とともに霧散。
粉塵の中から、カメンガくんが弾き飛ばされるのを確認し、僕は急いで粉塵を飛び越え、第一隊へと帰還する。
粉塵のせいで見えなくなった第二隊に、イヴァンの指示通り全員での気魄弾攻撃。
掃討攻撃は爆炎と粉塵により、相手に当たったかすら定かではないが、そこにいることは確定している為、かなり有効である。
「下がれ!来るぞ魔王が!」
止まることのない隊を二分しての等間隔砲撃をやめ、急いで第二隊から距離を取る。
イヴァンの言う通り、これで知里ちゃんが倒せたら苦労しないのだ。
「ンガンガを貴様らよくもやってくれたな?」
粉塵が一瞬にして消え去り、赤い気魄を纏った第二隊が無傷の様子で現れた。
マジか。ノーダメージは流石にないわ。
第二隊対策として、初手攻撃に考案されたこの挟撃だが、目的は前衛カメンガくんの戦闘不能にある。
一見挟撃が作戦の本質と思わせて、バータルが単独でカメンガくんを第二隊から引き剥がす。
そして、引き剥がされたカメンガくんに一斉砲撃。
と、なるはずだったが、血気盛んなバータルさん。
タイマンでカメンガくんを戦闘不能にした模様。
よって、手間が省けた僕たちは間髪入れずに第二隊に撃ち込み続けられたわけだが、まさかの無傷。
衣服の乱れすらない。
さっきの赤い気魄は、あの炎色からして全て知里ちゃんのモノだろう。
第一隊の総攻撃を受け切る気魄の防御。
まさに魔王そのものである。