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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
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2


精神病。

人間世界において、そう呼ばれている人間生活上不都合な要素。

それは他人の気持ちを理解できない事。

それは破壊的な衝動が抑えられない事。

それは生きている事実が耐えられない事。

それは自分の知らない自分が存在する事。

それは過去の凄惨な記憶に苛まれる事。


多くの人間生活上、不都合な要素を一纏めにし、名前を付けられたモノたち。

外的な要因、内的な要因。

先天性のもの、後天性のもの。

容姿に出るもの、出ないもの。

多種多様で色とりどり。

共通する事、それは精神。

己の内面に存在する、不確かな塊によって発生する自分ではどうすることもできない不条理。


人間はそれを悪しき事とする。

他の大勢と同じであろうとする。

他の大勢と違う所を探し出し、名前を付けようとする。

それを確かめて、排除する為。


それが個人の持つ、最高の栄誉だとも知らずに。

精神病と呼ばれるモノ。

それは個人に与えられた固有の能力である。


他人の気持ちを理解出来ない。

それは己の心を清く保つ印。

生きている事実が耐えられない。

それは己を律する最大限の印。

自分の知らない自分がいる。

それは己の心を守る印。


破壊的な衝動が抑えられない。

それは人を守ろうとする印。


他人の気持ちがわからないのは、知らなくていい。知って貴方の心を汚さなくていいと言われていることに気付きなさい。


生きている事が耐えられないのは、自分の罪を受け止めている証であり、その衝動を理解し、律せよと言われていることに気付きなさい。


自分の知らない自分がいるのは、悲しくないよう辛くないよう、あなたは守られている、キツイのならば忘れなさいと言われていることに気付きなさい。


破壊的な衝動が抑えられないのは、人である自分をまず真っ先に守れと言われていることに気付きなさい。


全てが自分からの信号であり、その信号は個人に与えられた固有の能力である。

マイナスに見える信号でも、何故なのだろうと考える事を怠り、誰かに名前を付けてもらって考えることすらしない。

それが当たり前のように、信号を抑え込む。

その反動が、自分を苦しめているのだと人間は気付くべきである。


人間は名前を付けたがる生き物である。


それは恐怖。

それは嫉妬。

それは怠惰。


名前のわからないモノに恐怖し、自分の知らないモノの能力に嫉妬し、知らないモノを誰かが付けた名前によって知った気になる怠惰。

これが悪しき事である。

善悪の判断が、違えているのだ。

間違っていないなど、何百年程度で何を言う。

傲慢である。

間違っていない事が間違いなのである。

知れば知るほど間違えていることに気付く。

それが知識である。


人間は高位の存在の不在により、馬鹿になってしまった。

なぜ、ソクラテスを殺した。

唯一の救いとして生まれたソクラテス。

それを人間は恐怖し、嫉妬し、決定を任せ怠惰に殺した。


無知の知。

これこそが全であり、最初の一である。

それが解らない人間は、いくら新しい元素を見つけようとも、宇宙へ旅立ち新たな生物を見つけようとも、ただ害するだけである。



「どうですか?何か感じましたか?」


「これは?」


「クマモト様の脳の意志です」


「脳の意志?」


「はい。クマモト様本来の意志とでも言いましょうか。元々人間に刻まれている真理です。それを私が外から介入し、言語としてクマモト様に識別できるようにしました。これが真理であり、英雄の高潔さを表す理由です」


「てことは、精神病はこの脳の意志を自分自身の力で識別できた人ってこと?」


「その通り!普通の人間ならば壁を幾重にも重ねて防いで意志を遮断しているのですが、英雄にはその壁がない。故に意志と自我を確実に融合されている。それが精神性の高さなのです。融合の度合いが深ければ深いほどその高さは観測できないほどとなります」


「それはエリームさん達が壁を作ったってこと?」


「いいえ、私達は気魄の生成にロックを掛けただけです。クマモト様が良い例です。気魄は使えないが、驚異的な身体能力を得た。そして私を驚かせるほどの会話が出来るようになる。私の読心はクマモト様には通じません。それが全てです」


「じゃあなんで精神病の人は僕みたいになってないの?」


「それが人間の悪しき行いです。病と位置付け、育まれるべき成長を阻害する。人間は一人では成長出来ない生き物です。そこに家族、友人、恋人。その他の人間と関わりを持たなければ育まれない。古来病と位置づけていなかった人の中には稀にクマモト様のような方が生まれ、偉人となり、英雄へと昇華された例もありますが、限りなく少ない。やはり古来でも人と違うというのは、忌み嫌われる存在だったようです」


「アナナキと暮らしていた時はそうじゃなかったんでしょ?なんでそんな風に?」


「高位の存在の不在です。人間は創られた生き物です。創造主が居ないとダメなのです。私達がいない世界へと送り込まれた人間は私達のせいで、そうなってしまった。と、言っても過言ではないでしょう」


「じゃあアナナキが戻れば?」


「それは未知数ですが可能性は生まれます。ですが、アナナキにその気がない。先程も言いましたが私達は信用を第一に考えます。やはり一度裏切った人間を信用するには、今の人間の精神では大きく足りない。そう言うことになります」


「でもエリームさんは僕を」


「はい。私はクマモト様を信用します。この行為も本当は秘匿なんですよ?ふふふ。ですが、アナナキも私のような者ばかりではない。種属としての問題ですので、一個人が動いてもかなりの時間が掛かるでしょう。しかし、この戦争で少しでも風向きが変わることを私は望んでいます」


「なるほど。エリームさん。わざと僕を連れて来たでしょ?」


「ふふふ。バレましたか。その通り。私はタチバナ様やチサト様を観察している中であなたを見つけ、どうにかあなたもこちらへ連れて来られないか考え、結果ゴリ押ししました」


「あんた結構ゴリ押し好きだよね」


「ふふふ。ゴリ押しこそ正義」


「ダメだこりゃ」






私達は、ひと時の浮遊感の後、元の部屋に戻ってきた。

私はクマモト様を連れてきたことを間違ってはいないと思っている。

それを私は自らで証明する。


そう決めて、やめられないとまらない棒状のお菓子に手をつけた。


「これ、また買ってきますね」

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