エリームの友達日記
「あのお馬鹿たれは今頃右に刺突、左に気魄弾で顔面潰れてんじゃないっスカね」
「触らぬ神に祟りなしですねクマモト様」
私、エリーム。
タチバナ様とクマモト様のお二人と、交流を育むべく、お二人のお部屋にお邪魔しましたところ、なんとタチバナ様はチサト様の逆鱗に触れ、現在死の淵であるという。
「しかし何をしてそんなに激怒させたのでしょうねぇ」
「大方、先輩の絡まった性格がより絡まった結果、解けなくなって切れたって感じでしょうな」
そうクマモト様は呆れた様子で、私が昼間クマモト様から頼まれて持ち込んでいたあるブツを頬張っておられた。
「クマモト様はタチバナ様の絡まった性格をご存知で?」
私も一つ、そのブツを口に運んでみる。
なんと!!
これは、やめられないとまらない。
「そりゃあある程度付き合ってますからね、直接先輩から聞かなくともなんとなくはわかるってもんスヨ」
「流石クマモト様」
なんとなくわかっているが、それを無碍に聞かない。
これこそ私が興味を惹かれる、思いやりというものだ。
「ま、それは部長もなんスケドね。意外とナイーブなんスよあの二人」
「チサト様もなにか抱えてらっしゃるのですか」
「ってか、それが関係してるんじゃないんスカ?この英雄軍の選任要素」
ほう。これは本当に。
流石としか言いようがありませんね。
「クマモト様。少し話が変わりますがよろしいですか?」
私は手についた塩を、ティッシュで拭き取り、日本伝来の正座でクマモト様に向き直る。
「あらあら、これはご丁寧に。どうされたアナナキっちさん」
クマモト様もそれに対して、正座で向き直ってくださった。
「私はタチバナ様、クマモト様、チサト様。特にこの3名の方と、これからも長くお付き合いしていきたいと勝手ながら思っております」
「あらあら、それはそれは。嬉しい限りですけど?」
「そう言って頂けると私も嬉しい限りです。それでですね?タチバナ様とは話をしたのですが、アナナキは信用というものを異常に警戒する節がございます」
「それは僕ら人間も同じですよ」
「そうですね。ですが、こう言ってはなんですが、恐らくその想像以上に私達には信用というものは重く、そして大切です」
「ほうほう。名前ですか?」
ーーーっ!?
私は二の句が告げられず、目を見開いて固まってしまいました。
なるほど、読心をされる気分というのは、些かこたえますねタチバナ様。
「何故そう思われますか?」
「伊達にラノベ読んでないんでね!アナナキアナナキってみんなおんなじ呼称で、変に思わない方がおかしいってもんっスヨ。もしかしてその大切なアナナキっちさんの名前を僕に教えてくれようとしてくれてます?」
いやはや、これは勝てない。
私はまたもや言葉を失ってしまった。
「すみません。これはわざと言ったっス。そうだったら僕は嬉しいなぁっていう願望を込めてみやした」
「嬉しい、ですか?」
「そりゃもちろん。アナナキっちさんが僕なんかを信用してくれる証みたいなもんでしょ?嬉しくないわけないじゃないっスカ」
タチバナ様もそうだが、日本人は何故、僕なんかという言葉を使うのだろう。
日本人はもっと自分の素晴らしさを知るべきだ。
「私もそれを聞いて凄く嬉しいです。私はクマモト様と仲良くなりたい。アナナキ、人間の関係性以上に友人として接したい。どうやら皆さんとここ数日過ごしてきて、4000年以上溜まったかまってちゃんが溢れ出しているらしく、私はこういった交流がとても楽しく感じられています。皆さんが使っている言葉を真似したくなったり、皆さんが言っている冗談を理解したくなったり、今の私は研究をしていた頃よりも多忙な日々です。とても楽しい」
「なんスカ。泣かせにきてるんスカ?」
クマモト様の笑顔は、とても私達に似ている。
今、笑って目に薄っすら涙のようなものが見えるが、その笑顔はどこか薄ら寒い。
「クマモト様がタチバナ様やチサト様の事を聞かなくても解ると仰るように、私も仲良くしたいクマモト様の事を聞かなくても解るようになりたいと思っています」
私の言葉に、今まで張り付いていた笑顔が消えた。
「だから聞きません。私が解るまで待ってて下さい。必ず、私エリームがクマモト様を理解します。男の約束です」
無表情のクマモト様の顔に、一つ涙が伝って落ちていった。
私は、タチバナ様の担当であり、クマモト様をここに連れてきた張本人。
ならば、クマモト様の担当も私なのである。
必ず、私はお二方をこの戦争が終わって人間世界へと帰し、あわよくばこの世界と人間世界を行き来しあえる友人になる。
日本を学んで私が一番興味を抱いた、思いやり。
日本を学んで私が一番感銘を受けた言葉、縁。
日本人英雄を担当する私は、日本を知り、日本人を知り、アナナキを代表して、日本と友人にならなければならない。
否、なりたい。
それを私は、この小賢しく、小生意気な、愛に飢えている日本人に表明したかった。
「初めまして、熊本太郎です。親友を前提にお付き合いしてください」
一歩。
私はタチバナ様よりもチサト様よりも、クマモト様に近付けた。
今この少しだけ喜色が浮かぶ笑顔を見て、私はそう確信していた。
「勿論。不束者ですが、このエリーム。全身全霊をかけてあなたの親友になってみせましょう」
私は今、不謹慎ながらクリーチャーに感謝している。
こんなにも可愛らしく、こんなにも清々しく、こんなにも楽しく、こんなにも愛に溢れた人たちと出会えたのだ。
日本人が好きだ。
その中でも、タチバナ様、クマモト様、チサト様が好きだ。
「タチバナ様とチサト様、それに他の英雄達が選ばれた理由をお教えしましょう」