立花 凛
「はあ?あの愚息が英雄ぅ?」
ええ突然ですが、立花家リビングと中継が繋がっております。
現場の立花さーん?
はーい、こんにちは。
一輪の毅然と立つ花の如し、凛と澄んだ魅惑のJK!立花凛とは私の事よ!でお馴染みの立花凛です。どうぞ宜しく。
現在、黒ずくめのボディスーツを着た謎の集団、アナナキと呼ばれる不審人物達が我が家立花家に押し寄せております。
必死に母、富江さんが応戦中なのですが、いかんせん父、幸一がヘタレなもので、仏壇の前で手を合わせ時が過ぎるのを待っている始末。
故に、立花家古来より続く、女が家を守る!という家訓通り、母、富江。姉、わたし。妹、ギンの3名がリビングで対応しております。
「まあまあ、粗茶ですが。どうぞ」
私は恭しく礼をして、リビングに入ってきた三人のアナナキにお茶を差し出す。
「おや、これはどうもすみ、、あの?」
ーーー!?
「な、な、なんでしょう?」
「なにか不純物が混入しているようですが」
なぜバレた!?
無味無臭の下剤なのに!
母、富江の便秘を即座に解消せしめる劇物!ハラクダース!
「む?下剤ですか。さすがに我々もハラクダースを飲んでしまうとお腹を下してしまいますので、ご遠慮させていただきます」
なぜバレた!?
なぜこれが下剤のハラクダースだと!?
しかも商品名まで、バッチリと!?
まさか!?見られていたのか?
「いいえ、見ていませんよ?」
読んでいる!?
私の心中を察するどころか、読まれている!?
「すみません。読心はアナナキの特技でして」
「あ、あ、へ、へぇー」
なんて言えばいい!!?
「それでは先程の話の続きですが、こちらの長男様であらせられるタチバナムネノリ様は現在我々との協力関係の元、この地球を救う為の英雄として活動されております。つきましては、英雄のご家族様。準英雄と呼んでおりますが、あなた様方も保護の対象となっておりますので、日本国直轄の施設へ一旦移動していただきたいのです」
オー、マイゴッ!
なにその無茶苦茶な設定。
地球を救う?
英雄?日本国直轄?
バカ言ってんじゃないわよ。
ンなことあるわきゃ
「事実です」
読まれた!
っく!無だ!無でいなきゃ!!
「ちょっと待たんね?なんね、その英雄ってのは。大体、他人様の息子勝手に連れて行ってなん抜かしよんね!なんが日本国ね!天皇様だって私の息子勝手に連れて行ったら、私は皇居乗り込んで張り手くらすばい!ごちゃごちゃ言っとらんで早よあん馬鹿息子連れてこんね!!」
母強し。
さすがマイマザー。
読心までする超能力者的な人たちも顔真っ青ですやん。
「あ、あぁ、お母様のお、お気持ちは大変こちらとしてもこ、考慮致したいのですが、その、」
「シャンッと喋らんね!」
「はい!!すみません!!出来ません!!」
シャンッてなった。
リビングに入ってきたアナナキ3人、見事にシャンッてなった。
「あん馬鹿息子は戻って来れんてことね!?」
「はい!現在我々の世界であるアナナキ世界におられますので!帰ってこられません!事は人間世界での混乱を誘い、人間同士の戦争に発展しないとも言えない状況でございます!ですので、我々アナナキは!英雄に憂いがないよう!英雄のご家族であらせられる準英雄の皆様を保護し!安全を約束している所存です!」
選手宣誓か!
母の顔を見ずに、その向こうの壁を見ながら大きな声でハキハキと喋るアナナキ。
「はぁ、凛。お母さんはようわからん。ちょっとあんた詳しか事聞いて」
母はそう言って
「私は癌とばい?」
と、いつも通りの仮病で頭を抑えながらリビングの椅子に座った。
頭抑えてガンは無かろうに。
「んで?うちの愚兄は帰ってこられないっていつまで帰って来られないの?」
母の座る横に座り、腹を括った私はアナナキ達と対面した。
あ、足元でギンが戦闘態勢で構えてる!
はっ!これも読まれる!危ない!!
「お兄様は地球を救う為に侵略者との戦争に向かわれます。それに勝利し、地球に平穏が戻って来た時、帰ってこられる事になっております」
「はぁ?戦争ぉ?侵略者ぁ?どこのSF映画よ!あの非力で愚鈍な愚兄が戦争に行って生きて帰って来られるわけないでしょ!?い・ま・す・ぐ!ここに戻しなさい!」
「本当に身勝手ではありますが、それは出来ないのです。お兄様は選ばれた英雄であり、その英雄の中でも最も戦力になられるお方です。どうかご了承下さい」
そう言って同時に頭を下げるアナナキ達。
「なんかの間違いでしょ?最も戦力になるってンな事あるか!早よ返せ今返せ!早急、火急!瞬きしてる間に出現させろ!」
「申し訳ございません!」
バンバンっとリビングテーブルを叩いている私に構わず、頭を下げ続けるアナナキ達。
「ちょっとよかね?」
やっと癌の発作が治まったのか、椅子の背もたれから前のめりになる母。
「あん馬鹿息子はそれでよかっち言いよるとね?」
「はい!ご了承頂いております!」
「嘘は付きなんなよ?嘘てわかった瞬間、私はあんた達を、、殺すばい?」
娘の私がチビりそうなほどの殺気。
その矛先を向けられているアナナキ達が、ちょっとだけ可哀想に思えた。
「っ!我々はタチバナ様を無理矢理連れ出しました。それに加えて、使命があるのだとお伝えし、帰せないとも伝えました!しかし!タチバナ様は戦ってくれるとおっしゃっております!これは事実です!」
「ーーーーー」
無言の圧力。
自分の母ながら、ここまでこの人は怖いのかと私がびっくりしているくらいだ。
「はぁーーーならよか。好きにしなっせ。ばってん!保護するなら私達だけやなく!このギンも!知里家のみんなも一緒やないと私はテコでも動かんよ!」
そりゃ勿論!
私もそうじゃないと動かない!
「あ!太郎もおった!熊本太郎とその家族もばい!あ、うちの親戚やら隣の古賀さんとかはどげんしよか?大所帯になると大変かね?」
あー、太郎ちゃんもいたね。
「あのその事なんですが、チサト様も英雄の一員でして、その準英雄の皆様は既に保護しております。ギン様はこちらの方ですよね?勿論、ご家族が保護対象ですので一緒に保護致します。あと、クマモト様も実は英雄ではないのですが、タチバナ様をお迎えした時に一緒におられまして、現在タチバナ様、チサト様、クマモト様は一緒の場所におられます。そして、親戚やお隣さんは申し訳御座いませんが許容範囲外となります」
はぁ?なにその身内感溢れる英雄たち。
千景ちゃんも太郎ちゃんも居るの?
アイツ楽しんでない?大丈夫?
「はぁ?っか。っかっかっか。なんねそりゃ!遠足でも行っとるとね?どげんなっとんかい。ばってん、今のアンタのギンも家族て言ったとには信用いった!信じちゃるけんその分裏切ったら知らんけんね!っよし!千景ちゃんのお母様もおらすとなら色々持っていかなんばい!なんね?もう、すぐ行かなんと?」
母は腹を抱えて笑った後、なにを持っていくつもりかキッチンへ向かい、カウンター越しからアナナキ達に準備時間を聞く。
「あ!いえ!準備はいくらでも大丈夫です!待ってますので!」
「あら、そうね?ならアンタ達ちょっとなごなるけんご飯食べときなっせ!凛!ご飯と味噌汁となんか出してやんなっせ」
は?
えーっと、は?
「早よ!」
「はいっ!」
もういいや。なにも考えないどこっと。
私は言われるがまま、アナナキ達3人にご飯とお味噌汁、お漬物と卵焼きを作って出した。
「い、いただきます」
さすがに食べるわな。
要らないって言ったら私も怖いもん。
「あら?あん人はどこ行ったと?」
姿の見えない父を探す母。
気付くの遅くない?