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「名付けて!ダンディーズスペシャル!」
頭を叩かれながらも、悪怯れる素ぶりのないイヴァン隊長と、それを快活に笑うブラッド副隊長。
いや、どっちかまともになれ。
隊長、副隊長揃ってアホは、流石にやばい。
「アホですか?アンタたち。丘消えてますやん!」
「お前にだけは言われたくなかったぞ、ムネ」
ぐっ!!
こいつら!痛い所を!
「な、な、何事ですか!?またタチバナ様が!!?」
「なんで丘消えたら僕を疑う!?今からそれ改めなさい!丘が消えたら第一隊の誰かって、改めなさい!」
急いで文字通り跳んできたエリーム。
「あぁ、すまんすまん。俺らだわぁ」
ニヤニヤしながら謝んな!
悪びれろ!
僕だって悪怯れるくらいはしたぞ!?
「な!?イヴァン様とブラッド様が!?何があったんですか!?」
「いやまさかあそこまでの威力になるとは思ってなくてな?ちっさい奴で練習してたから、フルパワーがあんな核爆弾みてぇになるとは!なぁ?」
「がっはっは!笑っちゃいるが実際ヤベェと思ってっからなワシたち」
ヤベェと思ってたんかい!
あまりの驚きに笑顔が張り付いてんのか!?
「ど、どうやってお二人で?」
未だに血色の悪いエリーム。
大変だね、あんたも。
「二人の気魄を合わせて気魄弾にして発射」
「がっはっは!簡単に言ってるが結構苦労してっからな」
お互い肩を組んでニコニコしているが、額の汗凄いよ?
「にしても、気魄って合わせれるのか?って事はバータルとも出来るのか?ん?」
イヴァンとブラッドで出来たならば、僕らも!と、バータルを見ると、口を大きく開け、目も大きく開けたままのバータル。
「おーい、バータルやーい」
え!!?
動かないんだけど!!?
爆風を受けたままの状態で固まっているバータル。
「お、おい!バータル!?」
「うぉ!?あ、あぁすまんムネノリ。あまりの破壊的格好良さに意識が飛んでた」
口を開けたままだったので、塵が入ったのか、ぺっぺっと吐き出しながら理解不能な発言をしている。
爆風でやられたか?
「お!さすがバータル!いいぞ!その調子で追いついて来い!」
「ちょっとお黙り!アホ隊長!」
ちぇっ、と不貞腐れて草を蹴るイヴァン。
さっきの威厳ある格好良さどこいった!?
「初めて聞きました!気魄の融合!これは歴史的大発見ですよ!!イヴァン様ブラッド様!少しお話を!!」
またもやいつも通りの反応をしているエリームが、誇らしげなイヴァンとブラッドに話を聞いている。
「おい、バータルや。真似しようなんて思うなよ?」
「なんでわかった」
やっぱりか!?
いや、僕もちょっとは思ったが、そこまで本気でもないぞ!?
「ムネノリ!!俺らも必殺技を考えないといけないと思う!!」
珍しく顔を紅潮させ、僕の肩を鷲掴みにするバータル。
ダメだ、遅れてきた厨二病だ。
治癒し切れるだろうか、大人の厨二病。
「ちょ!ムネリン!なにあれ!?」
喜色満面な笑みで無くなった丘を指差しつつ、走ってくるもう一人の厨二病。
その知里ちゃんに限らず、ゾロゾロと他の英雄達も寄ってきて、エリームとダンディーズの居るところへ集まってきている。
「チサト!!あれは隊長と副隊長の必殺技だ!ダンディーズスペシャルだ!」
「なに!?必殺技だと!?クソ!やられた!なんだあの威力!必殺技と言えば私!私と言えば必殺技!その専売特許を横取りされてたまるか!!」
「おい待て厨二病罹患者ども。そう血気盛んに必殺技を生み出そうとするんじゃないよ。丘何個あっても足りねえよ」
「ムネリンにだけは言われたくない」
「ムネノリにだけは言われたくない」
ぐっ!!
何も言えない!!!
わざとじゃないのに!僕のはわざとじゃないのに!!
僕がこうして心を痛めているのに、ダンディーズは一躍時の人となってホクホクした顔してこちらへ帰ってきた。
「がっはっは!まるで有名人になった気分だ!なぁイヴァン」
「そりゃそうだろ?なんてったって現時点最強コンビだ!だろ?ブラッド」
コイツら。
調子に乗る時は止めどないな!
未だに肩を組んでいるダンディーズ。
「な!!?最強コンビだと!?ムネリン!愛の力を!今こそ!」
「待てチサト!ムネノリは俺と最強コンビを組むんだ!なぁ!?友情パワーだ!」
あぁん?と両手を腰につけて下から覗き込むように、バータルへメンチを切り出す知里ちゃん。
それを上からガンッと見下ろすバータル。
視線は火花を散らして互いを射殺さんばかりに威圧しあっている。
「がっはっは!モテる男は辛いな!タチバナ!」
能天気お気楽おっさんが!
元はと言えば、おのれらのせいじゃ!
「けけけ。ムネ。どっちを選ぶんだぁ?」
てめっ!
余っている掌で口元を押さえ、いやらしい目をしているイヴァンが、さっきの必殺技並みの破壊力を投下してきた。
カッ!と視線を解き、僕の方を見てくる御二方。
「オォ?マイハニー?マイベストフレンド?スロースロー」
ドウドウと猛牛と猛虎を諌める僕。
「ハニーに至っては単体での必殺技が似合うんじゃないか?個体最大火力とかボカァかっこよ過ぎて惚れ直すまである。バータルも気魄弾ってより武人ってイメージだからなぁ。格闘系の必殺技が似合いそうだ!」
「個体最大火力」
「武人」
へっ!どうでい!マタドールもびっくりの回避だろうがい!
流し目でイヴァンを見やると、悔しそうな姿が目に入った。
いや、僕をどうしたい?
「ムネリン!!個体最大火力!!待ってて!すぐ作ってくるから!惚れ直せ!」
「武人たるもの見苦しい所をお見せした。さすが我が友、正き道を指し示す素晴らしい友に巡り会えた事、我が一生の豪運!」
ふぅ。
なんかこれはこれで良くない気もするが、回避とは一旦過ぎれば後は知らんが世の理。
冷や汗を額から拭い去り、うんうん!それがいいよ!で済ませておいた。
だがこの時は、後に回避は巡り巡って帰ってくるのだということを、僕はまだ知る由もなかった。