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人類レヴォリューション  作者: p-man
アナナキ世界
57/109

2


「へぇ、そんな事があったのか」


イヴァンと共に第一隊へ合流した僕は、バータルに事の次第を説明しつつ、課せられた事項を守りながら組手を行なっていた。


課せられた事項。

まず、回避を最小限に。

攻撃を寸前で避ける訓練。

回避を素早く最小限に済ませる事で、その浮いた間は蓄積し相手を詰めていくという。

次に、防衛本能ではなく、意識的に気魄を攻撃が当たる箇所へ集中させ、ダメージを吸収すること。

気魄は便利なもので、意識的に気魄を纏わなくても瞬時に脳が判断し、攻撃を緩和してくれる。だが、それだと脳が判断出来ない死角からの攻撃はモロ食らうし、吸収ではなく緩和になってしまう。

意識的にそれを行う訓練をする事で、ダメージを食らわずに済むよう癖つけるのだ。

そして最後に、力の入る態勢を心掛ける事。

気魄がある分、戦闘に携わってきていない僕のような人間は、どんな態勢からでもある程度のダメージを与えられるが、それこそ宝の持ち腐れになっている。

しっかりとした踏み込み。

脇を締め、極力体に近い位置での攻撃意識。

腰の捻り、下半身の使い方、態勢が整わなくても最大限に力を発揮する攻撃の仕方。

それらを意識しての組手。


これが目下、僕に課せられた戦闘の基本らしい。

それを遵守しつつ、バータルに挑んでいた。


「ディミトリーもかっこよかったが、やっぱりイヴァンは別格だ、なっ!」


口を動かしながら、右のストレートを放つ。


バータルにも課題はあり、それを遵守しながらの組手。

バータルの場合は、気魄の適切な量を込めるという事が課せられている。


故に僕の右ストレートは、薄っすらと滲んだ気魄を纏う左腕によって防がれる。


「あぁ、イヴァンは俺から見ても最高にカッコいい。それはお前も同じだぞ?ムネノリ」


「へ?」


油断した!

あまりに突飛な発言に気を取られ、バータルによるカウンターの膝を見落とした。

ストマックが揺れる!!


「ごぼぇ!」


「お、おい!大丈夫か!?」


なんのなんのと手で示すが、実際は超絶痛い。


「いきなり、変な事言うから」


「変?なにが?」


こいつ!ナチュラルジゴロが!

ディミトリーと同じ類か!?


「僕がかっこいいとかやめとけ。お前のその高評価が辛い」


「あぁ、そう言うことか。はぁ、自分でわかってないから始末に負えん」


お前が言うな!!


若干呆れられながら、手を差し伸べられる。

それを取ってもう一度向き直った。


「いやいや、僕なにかした?むしろこのメンツなら影薄い方なんだけど?」


「影が薄い?お前が?」


なんでそんな驚いてんだよ!

心外だわ!このキャラ濃いメンツで、目立ってるのは寧ろマイナス要素だわ!


「イヴァンみたいな男らしさも、ディミトリーみたいな確固たる意思も、お前みたいな強さもない」


「はぁ、日本人は謙遜が過ぎる。ってチサトはそうでもないか」


誰にでも同じ印象を与えるマイハニー。

さすがっす。


「お前の良いところは思いやる心だ」


どこの銭形?

あなたの心です!的な言い方やめて?


「はぁ?いつ誰がどこで何時何分地球が何回まわった時に思いやりみせたよ!?」


ったく!こっぱずかしいやつめ!


「まぁ、自分じゃわからなくても俺らがわかってりゃそれでいい。ほらっ!やるぞ!」


バータルはそう言って直ぐに拳を超スピードで繰り出してきた。


恥ずかしい発言の絶えないこの気のいい男は、こと戦闘においては全くその良さをかなぐり捨ててる節がある。

むしろ非道まである。


そんな九死に一生が絶え間なく降り注ぐ組手を交わしながら、僕の心には珍しく、やる気という火が燻っているのが自分でもわかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



「よし!なかなかいい感じに仕上がってきてるな?小僧ども」


何時間組手を続けていたのだろうか?


5回は共に治癒を施したが、さすがに精神的な疲労が溜まってきていた。


「ムネも課題通り取り組めてるし、バータルも飲み込みが早い。いいな。仕上げ甲斐がある」


草原にうな垂れるようにして座る僕達を見下ろしながら、快活に笑っているイヴァン。


「がっはっは。扱かれてるな?若人よ」


その隣からも快活な笑い声。

オッサンズは、我ら若人を見下ろして楽しんでいる模様。


「俺らもやっと技が完成したところだ!見たいか?そうか見たいか!」


何も言ってねーよ!


どうやらオッサンズはなにかしらの技を練習していたらしく、それを僕達に見せびらかしにきた様子。


「それで?これ見よがしに自慢しに来た技って言うのはどんなんなんすか?」


「かー!可愛くねーなぁ!ったく!見て驚け!これがダンディーズ渾身の必殺技だ!!」


まさかの自らダンディ呼ばわり!?

オッサン二人で何してたかと思えば、必殺技考えてネーミングまでしてやがった。


言葉も出ずに僕が驚いていると、オッサンズもといダンディーズは、ヒソヒソと小さく会話している。


珍妙だな。


「これは一度しか出来ねーから、よぉく見とけよ?」


そう言ってイヴァンはブラッドの後ろへ回り、ブラッドがタックル前のように屈み込む。

おぉ!さすが元ラグビー選手!

その姿は雄々しきラガーマンのソレだ!


そうしてイヴァンはブラッドの肩に手を当て、二人は一斉に気魄を体に纏わせる。


すると、

「「うおっ!?」」

僕とバータルが同じように驚いた。


二人の気魄は一つに纏まり、二人で一つの大きな炎を纏ったような姿になった。


「へっへっへ!まだまだこれからよ!小僧ども!ちょっとそこ離れやがれ!」


目の前にいた僕達をノケノケと手で追い払い、炎の御前を空ける。


「よぉし!目の前は誰もいねぇな?行くぞ!ブラッド!」


「ほい来た!」


息の合ったおっさんコンビは、掛け声の後、大きな炎を収縮させていき、ブラッドの屈み込む目の前に大きな炎球として姿を変えた。


「がっはっは!行くぞイヴァン!」


「いったれぇ!」


イヴァンのテンションが振り切った瞬間、その炎球はエゲツないスピードで真っ直ぐ突き進んで行き、僕達の目の前を激しい熱風を残しながら瞬時に過ぎ去っていった。


「へっへっへ!まだまだぁ!」


うおらぁぁあ!とイヴァンが叫びながら、先程までブラッドの肩に手を置いていたのを外し、炎球に向かって両手を翳す。

イヴァンの両手が、高々と上がるとその炎球も進行方向を上に変える。

そして、

「見よ!ダンディーズの底力!」

なにやら必殺技の決め台詞を吐いたイヴァンは、両手を下に勢いよく振り下ろす。

炎球もそれに従って、浮き上がった所から急激な落下を見せ、丘の天辺へ突き刺さった。


「ぐぇぇぇ!」


途轍もない爆風が、全身を巻き込んだ。

口を開けていたせいで、高速道路を走る車内から顔を出した時のようだ。

瞼がピラピラし、口から入った風が頬をバタバタと揺らす。


「ばぁぁぁかぁぁぁぁ」


爆風は体感5秒くらい続き、やっと止まったかと思うと、炎球の落下した箇所から、大きなキノコ雲が上がっていた。


「あちゃー!ちっとやりすぎたな!ブラッド」


「がっはっは!第一隊は丘を消すのが得意らしい!」


バカおっさん二人はケラケラと笑っている。


「アホかぁ!なにしとんじゃおっさんども!」


もう我慢ならん!


僕は激しい衝動を抑える事なく、そのおっさん二人へ飛び出し、二つの頭を叩いた。


「あてっ!」


「あたっ!」


似たようなリアクションしてんじゃねぇよ!

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