エレーヌと一緒
拝啓、エリーム。
私は今、至高の空間で"女子会"なるものに勤しんでおります。
「どう思うかね!?エレーヌ氏!」
ベッドに胡座をかき、寝巻きに着替えられたチサト様は、濡れた髪をわしゃわしゃとタオルで拭かれながら私に声をかけてこられた。
「私が弁護に立ちましょう」
なにやら明日、チサト様を含めた第二隊の面子とムネリン様、タロー様による緊急ミーティングが行われる模様。
ムネリン様のお怒りが果てしないらしく、チサト様に不利な状況だという。
ならば!ならばこそ!私がチサト様の弁護に加わるべき!
あの小悪党なタロー様の事だ。
長い物に巻かれ、優位に立たれているムネリン様方に付くはず!
あちらにはエリームもいる。
状況は私達には不利も、不利。
こちらの駒として、ンガンガ様とディミ助様が居られるが、非常に頼りない。
あのスネ夫並みのいやらしさを放つシュウ様だけに矛先を向かわせ、チサト様は断固として守らなければ!
「おお!さすがは親愛なるエレーヌ氏!どーんっと大船に乗った気で任せるまであるよ!」
ひゃっふぇーー!
親愛なるエレーヌ。
任せる。
甘美!!なんというご褒美!!!
なんなら一人(タロー様)始末する勢いで、弁護させていただきます!
「お任せください。この身を賭して弁護致しましょう!!」
私は自分のベッドで正座を組み、チサト様に平伏す。
たしか日本の文化で、弱者が強者に服従を誓う時の作法だったはず。
「よい。顔を上げいエレーヌよ。其方の双肩に我の命運がかかっておる。そう硬くなるな、鈍るぞ」
格好がいい。
美しさ、優雅さ、強さ。
全てが備わっておられる。
小さくてスベスベでたまにチンチクリン。
それでいて英雄軍最強、否!最恐!
なにこのギャップ。
私のハートをギュッとして離さないのだけれど?
「でも、ムネリン怒ると怖いからなぁ。エレーヌちびるよ?」
ーーーちびる!?
な・ん・で・す・と!?
ムネリン様はチサト様のダーリン(旦那)だと把握はしているが、ここまでチサト様が怯えるとは!?
なにか、まだ私の知らない能力がムネリン様にはあるというのか!?
そういえば、あの暴走時。
普段のムネリン様からは想像もできない形相だった。
"鬼"と称されていたのでその語句を調べたが、化物ではないか!
魔王であらせられるチサト様と対を成す存在"鬼"。
侮る事は死を意味する!そう助言なされているのだろう!!
「心してかかります」
「はぁ、明日が憂鬱。大体諸悪の根源は朱だよね?エレーヌ氏」
「はい、勿論。あのスネ夫が全て悪いのです」
「お!ドラえもん見たの?」
「全巻読破致しました」
「漫画の方!?アニメでも膨大なのに漫画をチョイスするその気力!天晴である」
「有難きお言葉。私的には暗記パンが最も重要なパーソンだと感じました」
「そこまで!?一話完結型のドラえもんに於いてそこまで重要だったのか!?暗記パン!」
「ええ、あれはアナナキ世界の常識をも覆す魅惑の発明。重要でないはずがないと思われます」
「たしかに!」
チサト様のバイブル、ドラえもん。
一言一句見落とさぬように読んで正解だった。
チサト様が私のドラえもんジョークにここまで乗ってきてくださるとは!
楽しい!!
これが、ガールズトーク!!
その後も私達は、ドラえもん世界における蘊蓄を語り合い、夜更かしした。
しかし、後先考えない行動の弊害は、必ずやってくる。
ドラえもんで学んだ教訓だ。
起床時間をとっくに過ぎても目覚めることがなかった私達に、業を煮やしたムネリン様が怒号とともに現れ、その後のミーティングにおいてのアドバンテージを握られる事となった。
ちびるかと思った。